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妖かしの使い方  作者: 総督琉
蝉時雨
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第6話 希望の銃弾。

蝉時雨はまだ、生きている。

封印、それは失敗に終わった。完全に封印は成功していたはずであった。しかし、どういうわけか封印できずに蝉時雨は生きている。

これには少し違和感を覚えた。


「こいつ、本当に実体はないのか……」

天城は疑問に思うことがあった。


天城は地に伏せる交太を抱え、腹を押さえる風絶丸のもとへと向かった。


「天城、すまない」


「なあ風絶丸、先代はあの化け物をどうやって封印したんだ?」


「確か先代の時は、山一つ囲むほどの巨大な範囲で蝉時雨を封印したって聞いたけど……。でもその時戦った先代が言うには、もしかしたら倒せたかもしれないって言ってた」


「倒せる!?やはりそうか」

天城は何かに気づいていたのか、蝉時雨を凝視する。


「何か分かったのか?」


「ああ。蝉時雨とかいうあの妖かしには実体があるかもしれない」

天城は蝉時雨を観察しつつ、そう言った。


腹を押さえ膝をつく風絶丸は、まだ希望が残っているということを知り、その顔には諦めは消えた。

微かに残る希望、そこへ賭けるつもりで彼の表情には戦意が取り戻された。


「これはあくまでも推測の域を出ない。しかし可能性はある。蝉時雨には実体がないんじゃない。どれか一匹の蝉に入らなければ他の蝉を操れない」


「なぜそう思う?」


「明らかに一匹、不自然な動きをしていた。それになぜ密集しているか。それは中心にいる本体を護るため。そして封印が始まろうとしていた時、もしかしたら札を貼った木々の外に出ていた。だから蝉時雨は風絶丸が札を貼っているのを邪魔しなかった」

天城の発言を受け、風絶丸が気づかぬまま抱いていた違和感の正体に気づいた。


「なら、賭けるしかないな」

風絶丸は立ち上がり、槍を構える。


「風絶丸、たとえその説が合っていたとしても、全ての蝉を一瞬で同時に倒さなくてはいけない。それはほぼ不可能に近い。もしこちらの作戦に気づかれれば意味がない」


「ではどうする?」


「恐らく、既に七海は仕事を終えている。いけるか?」


「俺はつい先日当主になったばかり。つまりは未熟者だ。だがどうせやらなきゃ負けるんだから、戦う以外の選択肢はないに等しいだろ」


「ああ。結局、ここで蝉時雨を倒すためには命を賭けてもらうしかない。任せたぞ。だから他は任せろ」


「人生最後の戦いになるかもっていうことか。なら存分に戦ってやる」



蝉時雨へと銃弾を放つ天城。しかし蝉時雨は天城へ視線を移すことはない。

「学んだか」


その間、風絶丸は背中から羽を生やし、風を操り負傷した妖かし語りを山の麓まで運んでいった。

追いかけようとする蝉時雨、それを阻止するように天城は銃弾を撃ち続ける。


「ムダ、ワカレ」


「さては舐めているな。最初に言っただろ。舐めたら即死だと」


「ジャマ。キエロ」


無数の蝉は銃弾の如く速さで一斉に天城へと飛び交う。それに負けじと天城は銃を乱射する。

足は貫かれ、銃の反動が来る度に悲鳴を上げる体、しかし天城は銃弾を撃ち続ける。


「ソコヲ、ドケ」


「ならもっと速く蝉を飛ばしなよ。私は銃弾が飛び交う中で生きてきたんだ。私に速さは無意味だ」

天城へと飛ぶ蝉たち。それらを銃弾で撃ち沈める。


背後から蝉が迫ってきているのも感じ取り、一瞬だけ振り返り引き金を引く。そして直ぐ様正面を向いて蝉を撃ち落とした。


(そろそろまずいな)


天城の足元へ散らばる蝉の死体、その体は再生し、羽を広げて天城へと放たれた。

さすがに数が多いのか、天城は走り、蝉時雨の側面へと移動し銃弾を放つ。しかし蝉時雨は天城を完全に無視し、山を降りようとしていた。


(ここまで来て、そうはいかないんだよ)

天城は銃弾を何発も放つ。しかし、蝉時雨には届かない。


(せっかくここまで繋いできたバトンが、皆命懸けで戦っているのに。こんなところで、私がバトンを繋がないと、私が……)

何もできない。そう悟った。


戦意を喪失した天城へ、蝉時雨は無数の蝉を飛ばして襲いかかる。天城はただ呆然とし、その死を真っ向から受け止めーー


「ーー天城、掴まれ」

突如響いた風絶丸の声。

天城の頭上より飛来し風絶丸は天城へと手を伸ばす。


「天城、速く」

促されるがままに、天城は風絶丸の手を掴んだ。


「無事か」


「遅かったぞ……」


「すまないな。だが天城のお蔭で封印できる」

風絶丸は唱え始める。


「鎮まれ、暴虐の憤怒。囚われ、永遠の牢獄に命よ朽ちよ。天狗流封印術、風縛」


山全体を囲むように巨大な山嵐が発生した。それは巨大で雲を遥かに越え、天を貫いた。

しかしその術を使っている風絶丸は、あまりの規模の大きさに体はついていかず全身から血を噴き出させていた。上空で片腕で天城を抱え、そして蝉時雨を封印するために力を使う。


(あと一歩なんだ。こんなところで、負けられないんだよ)


風絶丸は力を振り絞る。

だがそれとは裏腹に風絶丸の腕から多量出血し、意識は朦朧としていた。それでも尚風絶丸は手を蝉時雨へとかざす。


「天狗流封印術、風ばっ……」


山嵐は止んだ。

それと同時、上空に飛んでいた風絶丸の背中に生えていた翼は消失し、それとともに天狗が風絶丸の体から切り離された。

天狗は落ちる風絶丸を抱え、天城へも手を伸ばす。


「まだだ」

天城は銃を片手に握り締め、蝉が倒れる地へと銃口を向けつつ降りていた。


(他の蝉は蝉時雨によって操られている。なら、一番最初に起き上がった蝉が本体だ)


天城は視線を蝉の群れへと集中させる。

天城は一匹の蝉のわずかな動きを目の端に入れた。


「終わりだ」


銃弾は一匹の蝉へと放たれた。

天城が着地してから数秒、数分、数時間、蝉は一匹たりとも動くことはなかった。



「勝った……のだな」

天城は全身から力が抜け、そして地に倒れた。

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