表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖かしの使い方  作者: 総督琉
蝉時雨
6/53

第5話 その羽はまだ動き続ける、

蝉の群れ、それらが妖かしーー蝉時雨。

五月蝿い蝉のざわめきに耳障りな不快感を感じつつも、天城は銃口を蝉の群れへ向けた。


「マタ、ニンゲン」


「喋れるのか。より一層不気味だな」

天城は一発銃弾を放つ。


蝉の群れへと放たれるも、落ちるのは十匹程度の蝉ばかり。だが蝉は不死身なのか、すぐに飛び、動きを止めることはない。


「封印が失敗したら、終わりだな。とうとう」

天城は蝉が復活する様を見てそう呟いた。


「それもまた運命。最初から失敗を頭に入れていたら体は動かない。だから思う存分に戦うために、勝つことだけを考えるぞ」


「確かに。舐めたら即死だしね」


「では時間稼ぎは任せたぞ。天城」


「了解」


「ゼンブ、キコエテル。オロカ」


蝉は銃弾の如く速さで風絶丸へと飛ぶ。しかし、それを天城は正確に撃ち抜いた。


「お前の相手は私だよ。よそ見は厳禁」


天城は地を駆け抜け、銃を片手に蝉時雨の周囲を動き始めた。その度に銃弾を何発も蝉時雨へと放つ。

当然それに意味はない。しかしその鬱陶しさに腹を立てた蝉時雨の標的は天城となっていた。

その間、風絶丸は木に札を貼り付けて回っていた。


(なるべく速くしてくれよ、風絶丸。こいつの相手はそう長くはしていられない)


天城へと飛び交う無数の蝉。

それらを正確に銃弾で仕留めるも、すぐに体を再生させる蝉には理不尽にも攻撃は皆無であった。

防戦一方、ただ銃弾を放つだけ。銃弾が放たれるもそれは無意味。


そんな圧倒的不利な戦闘を強いられる中で、一匹の蝉が天城の足をかする。


(動きが読まれ始めてきてる……強い)

天城は咄嗟に距離をとる。


(まだか。風絶丸)

ふと風絶丸へ視線を移すが、まだ半分も札の貼り付けが終わっていない。


木に札を貼り付け、その木の中に蝉時雨が来た時、初めて封印が可能になる。

本来は札を貼り付けてから姿を現すつもりであったが、妖かし語りが命に危険に晒されているのを見つけ、仕方なく現れた。だがそれが原因でかなりの劣勢。


逃げ惑う天城を追うように、蝉時雨は動き天城を追いかける。

だが天城はそう簡単に逃げられない。


範囲には限りがある。

範囲が広ければ広いほど使う力の量が大きいからだ。だから天城は逃げられる範囲が限られている。

それに気を取られ過ぎたせいか、天城は左足を蝉の突進により貫かれた。


「まずい」


体勢を崩し転倒する天城へ蝉の群れが襲う。

危機一髪、だが蝉たちは突如斬られ、地へ落ちた。


「どこのどなたかは存じ上げませんが、ご協力ありがとうございます……。私は妖かし連盟所属の交太と申します。助けてくれて本当に感謝しております」

荒く呼吸をしつつ、交太は白い刃の刀を振るい、天城の前に立っていた。


「ここからは、お任せを」


交太はボロボロになりながらも、命懸けで立ち上がり、蝉時雨へと駆け抜ける。そして蝉の群れへ刀を振り下ろした。だが蝉の猛攻が交太を襲う。

両手を貫かれ、刀を握る力を失い地に刀は刺さる。


「まだ……」

まだ交太は立ち上がった。

ボロボロの足で、荒い呼吸の中で。


「まだ…………」

交太はボロボロになりながらも、戦う。


「まだ………………」

腹を貫かれた。

血が吹き出ると、交太は地に伏し、そして倒れた。


「準備はできた」

風絶丸は言った。


「鎮まれ、暴虐の憤怒。囚われ、永遠の牢獄に命よ朽ちよ。天狗流封印術、風縛(ふうばく)


札を貼られた木々の中では突如として風が舞い、巨大な竜巻を発生させた。それとともに蝉は動きを止めた。


「終わりだ。蝉時雨」


風は止んだ。

そして動きを止めていた蝉たちはというと……


「うぐっ」

風絶丸は腹を押さえ、地に伏して悶え苦しみ出した。

その腹には風穴が空いている。


「封印……できなかった!?」


「そんな……」


蝉は一斉に体を再生させ、人の形となってそこに再度甦った。


その瞬間に絶望した。

その絶望に膝をついた。


蝉時雨はまだ、生きている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ