第45話 まだ戦いは終わらない。
摩天楼は来巣副社長によって倒された。
赤羽と木更津に囲まれ、戦闘をしていたユキヒラは摩天楼が倒されたのを見るや、急に動きが鈍り始めた。そこへ畳み掛けるように、赤羽と木更津は体術を駆使してユキヒラを翻弄する。
蹴り、拳、刀撃、翼撃、多くの攻撃を浴び続け、とうとう背をついて倒れた。
「今なら殺せる」
赤羽は転がっていた剣を手に取り、ユキヒラの首目掛けて振り下ろした。だが、赤羽が振り下ろした剣は止まった。
赤羽の剣を一人の男が掴んでいた。
その男は背中に黒い漆黒の翼を生やし、仮面をつけている。
「クロウ様」
ユキヒラはその男へ感極まりながらそう言った。
「ユキヒラ。帰るぞ」
クロウ、そう呼ばれた男は赤羽の腹へ打撃を入れ、膝をつかせた。
木更津はクロウの速さに驚きはしたものの、すぐに刀を構えてクロウの攻撃に備えた。だがクロウは翼を広げ、遠距離から羽根を放つ。木更津は羽根を捌ききれず、羽根を全身に受けて地へ転がる。
「ユキヒラ。今は撤退して次の策を……」
突如鳴り響く一発の銃声、それとともにクロウへ銃弾が飛ぶ。クロウはそれを翼で受け止めた。
「摩天楼と戦って、まだ戦える者がいるのか」
クロウは周囲を見渡す。そして瓦礫の山の上に立つ一人の女性を見つけた。
「何言ってんだ。私は丁度今来たところだよ。クロウ」
突如現れた彼女は、拳銃を構えてクロウへと向けている。
「まさかお前……」
「秘密。それ以上口を開けば殺しちゃうぞ」
仮面で顔を隠す女性は、拳銃を向けながらそう言う。
だがクロウはその女性が誰なのか勘づいていた。
漆黒の翼を広げ、クロウはその女性へ羽根を飛ばす。
「散弾銃」
拳銃は変形し、散弾銃へと変わった。
引き金が引かれる度、その女性へと飛ぶ無数の羽根が一度に放たれる無数の銃声によって落とされた。
少しずつクロウの疑心が確信へと変わっていく。
「やはりか」
クロウは羽根を飛ばしながらユキヒラへゆっくりと歩み寄る。
「ユキヒラ。速く逃げるぞ」
ユキヒラは立ち上がる。
「無駄じゃ」
その声とともに、ユキヒラ体からは妖気の糸が出、それがユキヒラ自身を包み込んだ。
全身を糸で捕らわれたユキヒラは身動きが取れず、無様にも地へ転がった。
クロウは舌打ちをし、ユキヒラから離れ、翼を広げて空へと飛び去った。
「逃げられたか」
仮面をつけた女性は銃を下ろした。
だが先ほどユキヒラを妖縛という術によって捕らえた男ーー尺一は颯爽と姿を現した。
妖かし連盟の者たちは彼を見るも、妖かし殺しを追い払ったことで敵意を消失していた。
彼らに見守られる中、尺一はユキヒラへ言う。
「ユキヒラ。お主、妖かしじゃろ?」
その言葉にユキヒラは激しく動揺を見せた。
それが十分な答えであった。
尺一は札を取り出し、その札から剣を創造した。その剣を振り上げ、ユキヒラの心臓へ突き刺した。直後、ユキヒラは灰と化し、消失した。
それは人間ではあり得ないことだった。
「やはりか」
「尺一。クロウを逃がしてしまったが、まだ隠居はしないのか」
「まだじゃよ。わしはまだまだ現役じゃよ。それに若い者に負けちゃいられぬからの」
尺一はそう言い、仮面を被る女性を見た。
「なるほど。だがこれより私はしなくてはいけないことがある。直に行われるある者の処刑を食い止めなければいけない」
「わしの協力はいらんか?世話になっているのだ。少しは手伝うぞ」
「結構です。これは私の背負った罪だから、ここから先は私が歩む道なんです」
仮面越しにも伝わるその真剣さ。それに尺一は誇らしげであった。
「まさかわしの弟子が、ここまで成長するとはな」
「はい。またいつか色々と教えてくださいね」
「ああ。元気でな」
尺一はどこか嬉しげに、そしてそこに悲しさや寂しさを入り混ぜながら彼女を見送った。
「またいつか……か。まあ頑張れよ」




