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妖かしの使い方  作者: 総督琉
黒妖街
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第43話 摩天楼に期す、

遥か巨体を有する摩天楼の腕に一振りに、木更津の立っていた家屋は全壊、周辺にあった家屋の多くが半壊状態となり、周囲の人々へ恐怖が刻まれた。

その家屋へ立っていた木更津はというと、寸前のところで避けて半壊した家屋の瓦礫の中を掻き分けて出てきた。


「これは、まずいかもな……」


さすがに危機感を覚えたのか、木更津はすぐに二本の刀を構え、摩天楼を見上げる。見上げた時、既に第二撃が振り下ろされようとしていた。

拳は振り下ろされ、その風圧に木更津は直撃は避けたものの、宙を舞って吹き飛んだ。

吹き飛んだ家屋の壁を壊し、道へ転がる。そこには白百合が腕を押さえ、血を流して倒れていた。


「白百合。大丈夫か?」

木更津は足に痺れが走るも、すぐに白百合へ駆け寄る。


「だ、大丈夫です……けど、あれ、どう倒せば良いのでしょうか」

白百合の素朴な疑問に、木更津は答えが見つからない。

それもそのはず、言葉に詰まるのは妖かしを見れば一目瞭然。


摩天楼は今も尚その巨腕を振り下ろし、赤羽たちを襲っている。

交太と音寝らが交戦中ではあるが、積極的に攻撃を仕掛けられてはいない様子であった。


「お前ら。大丈夫か?」

呆然と眺める木更津のもとへ、闇本警備会社副社長ーー来巣妃芽が現れた。

彼女の手には刀が握られている。


「あなたも戦うのですか!?」


「当たり前だ。部下にばかり戦わせては、将としての責務を全うできぬからな。故に、お前たちは下がっていても構わない。あとは、闇本警備会社(我々)に任せておけ」

来巣副社長はそうカッコ良く言うと、黒妖街の街に突如現れた巨大な摩天楼へ刀を向ける。


来巣副社長の背後には何人もの闇本警備会社の社員たちが妖器を持って歩いている。

彼らが向かう先にはあの摩天楼がいる。だが誰一人として逃げようと、脅えているものはいない。

来巣副社長の背後で堂々たる佇まいで立っている。


「お前ら。この戦いを最後だと思え。この妖かしさえ倒せば、この世界は平穏に期す。さあ開戦だ。全勢力をもって、これより摩天楼を討つ。行くぞ」

その号令に、多くの社員が一斉に返事をする。

その威圧と圧倒感は何者も震え上がらせるだろう。


「世界は奪わせません。社長、いえ、クロウ」


彼女は戦うーー黒妖街の未来のために。

彼女は戦うーー遥か先にあるであろう未来のために。

彼女は戦うーー己の全生命をかけて。


「妖刀覇王、これが最後の仕事だ」

来巣はその刀を居合いの体勢で構えている。


それを見た捕々野々は言う。

「お前ら。副社長の一撃必殺の技が溜まるまでの時間稼ぎだ。闇本警備会社の力を見せつけてやれ」


捕々野々は高らかに宣言する。

それに掻き立てられるように、闇本警備会社の社員たちは一斉に武器を手に取り、恐れることなくただひたすらに摩天楼へ向かって走り始めた。


爆破、電撃、風、火炎、水、光、弾丸、各々が牙を向く戦場で、摩天楼はそれらの攻撃に一度も動じることはなくその足を彼ら目掛けて振り下ろした。

瞬間、地面には亀裂が走り、巨大な振動が周囲を駆け巡る。社員の多くが吹き飛び、宙へ投げ飛ばされた。

だがそれでも、社員は起き上がり、再び摩天楼へ襲いかかる。


「さて、私も本気で行くか」

捕々野々は札を取り出し、それを人差し指と中指の間に挟み、呟く。


「出でよ。縛狼」

札はバラバラに散り、ある一体の妖かしの体を創造する。一見普通の狼が捕々野々の持つ札から解き放たれた。


「縛狼。久しぶりに暴れるぞ」


鎖々(ささ)、行こうか」

縛狼は楽しそうに笑みを浮かべる。


(バクロウ)

捕々野々は縛狼へ手を向けた。次の瞬間、縛狼の体は鎖へと変化し、捕々野々の手へと吸い込まれる。

捕々野々は縛狼より形成された鎖を手にし、摩天楼を見上げた。


「手始めに始めよう。鎖縛裏呪舞(さばくリズム)

捕々野々の手に握られた鎖は巨体を有する摩天楼へと絡み付く。その鎖が捕らえたのは両足のみ。


摩天楼は自身へと絡み付いた鎖をパワーで破壊し、摩天楼は鎖の操主である捕々野々へ視線を落とす。

雲の上に頭はあった。だが摩天楼は分かっていた。摩天楼は今自分を見下ろしているのだと。


「これじゃ鎖が意味を成さない……ったく、本当に厄介な相手だな。摩天楼」

捕々野々は憤りを感じていた。


「妖器はやがて進化する。故に鎖よ、強固な鉄となって奴を捕らえよ」

捕々野々が握る鎖は銀色が剥がれ、金色の輝きが周囲へと解き放たれた。


黄金弾巣(おうごんダンス)

捕々野々の持つ黄金の鎖は限りが見えないほどに伸び、胴体より先の見えない摩天楼の体へ強固に縛り付けられた。


先ほどよりも長い鎖は摩天楼の全身を捕らえ、摩天楼は鎖を引きちぎろうと全身へ力をいれるも、鎖が千切れることはない。

先ほどとは格が違う、そう思わせるほどに鎖は頑丈であった。


「このまま動かないでもらおうか」


捕々野々は鎖を握る手に力を込め、必死に摩天楼の動きを封じる。

鎖は千切れない、だがそれに比例することはない捕々野々の力は摩天楼に敗北しかけていた。


「強い……」


鎖は千切れず、だがそれでも摩天楼は鎖を宙へ投げ飛ばし、摩天楼の拘束を解いてしまった。

直後、解放感とともに摩天楼は捕々野々へ拳の一撃を進める。捕々野々は体勢を崩し、避けられない。そんな彼女へ拳は振り下ろされた。


摩天楼が拳を振り下ろしたことにより周囲には白煙が立ち込める。家屋の多くが吹き飛び、拳の下敷きとなった捕々野々は血を流し、全身の骨が粉々に砕けた。


「捕々野々さん……」


社員たちは動揺を隠せない。

幹部ーー捕々野々は敗れた。

今、誰一人として武器を構える者はいない。

今、誰一人として勝利を掴もうとしている者はいない。


捕々野々の敗北とともに摩天楼は畳み掛けるように周囲の者たちへ拳を振り下ろす。

妖かし連盟の妖かし語りたちは懸命に戦うも、既に戦意喪失している闇本警備会社の社員たちはその拳に身を投げ出し、吹き飛ばされるのみ。


「交太。まずい状況になってしまったよ」

音寝は精霊を抱えつつ、安全な場所へ逃げるだけで精一杯。交太も彼女を守るようにともに走っている。


必死に戦うは妖かし連盟の者のみ。

対して、闇本警備会社の社員たちは敗北を確信したのか、それとも象徴を失ったのか、はたまた自分よりも強い彼女が摩天楼を倒してくれると信じていたのか。

答えは結局全てであった。

故に、彼らの絶望は大きい。


たった一人の敗北に、彼らはーー


「ーーまだだ。まだ、戦えるだろ。闇本警備会社」

一人の少女は言った。


唯一残っている家屋の屋根の上で、彼女は叫んだ。

薄れゆく意識の中で、捕々野々は薄目でその少女を見た。


「コタツ……か……」


屋上に立っていたのはまだ駆け出しの妖かし語りーー村霧コタツ。

彼女は一刀を手に、絶望する社員たちへ言う。



「お前たちはその程度か。お前たちはその程度の弱者なのか。本当に、本当にお前たちはか弱いな。それでよく妖かし語りが勤まるものだ」

コタツのその上からの態度に、闇本警備会社の社員たちの視線を釘付けにした。

その瞬間に彼女は上から目線をするように笑った。


「まだ上を見ることができるじゃないか。下ばかり見てんじゃねーよ。お前たちは黒妖街の守護者だ。私たちが戦わないで、今誰が戦う?妖かし連盟か?違う。ここは私たちの支配下にある。故にここを守るのは私たちしかいないだろ。そうだろ。お前ら」

コタツの言葉に、彼らは掻き立てられていた。


「決めるのはお前らの自由だ。さあ、進みたい方を選べ。ここで戦わず黒妖街を、いや、黒妖市がなきものとなるのをただ呆然と眺めるか。それとも私たちでこの場所を守るか。選べ。お前たちは、どうしたいか。私の答えは一つ。もちろん、戦うさ」

コタツは一刀を握りしめ、摩天楼へ斬りかかる。


勇敢なる彼女を見て、彼らはこう思った。

ーーなんて恥ずかしいのだと。

だからこそ彼らはもう一度武器を構えた。だからこそ彼らはもう一度上を見上げた。遥か天より先にあるその顔面へ、一撃をいれたいと思ったから。


「進め。奴に、コタツにとどめを上げてたまるか。俺たちベテランの力を見せつけろ」


コタツの背中を追うように、一斉に彼らは走り出す。

摩天楼、今その怪物へ闇本警備会社が立ち向かう。

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