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妖かしの使い方  作者: 総督琉
黒妖街
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第40話 一休み、

黒妖街にて、篝火との闘いに終止符は討たれた。

被害は著しく大きなものであったもの、白夜が街を凍らせたことにより、火災での被害は最小限にとどめられたと言えよう。

とはいえ、その白夜は現在、今々の下で療養中。つまりは白夜と今々という精鋭のいない状況がしばらく続くということになる。

それには闇本警備会社はどこか不安な様子であった。


「来巣副社長。社員たちが皆不安がっていますよ。白夜と今々の消失、これはかなりの痛手だって」

闇本警備会社本社の廊下を歩く来巣副社長へそう話しかけてきたのは幹部の一人ーー捕々野々(ほほのの)鎖々(ささ)であった。


「まあそうだろうな。特に白夜がいたおかげで妖かしを早期発見することができたが、今となっては難しいだろうな」


「実は私、近況をちょくちょく社長へ報告してまして、そこで現在出掛けてしまっている社長から伝言を頂きまして、読んでみます?もしかしたらこの危機を打開する策があるかもしれませんよぉ」

そう言い、捕々野々は手紙を渡す。


「社長からか。あの社長が珍しいな」

手紙を受け取り、その内容を吟味する。

そこに書かれていることを読んだ副社長は、小さく頷く。


「なるほど。捕々野々、どうやら臨時としてフリーだった妖かし語りがこの闇本警備会社へ入ってくるそうだ。白夜と今々が戻るまでの間だそうだけど」


「でもその人強いんですか?弱かったらがっかりですけどぉ」


「ああ。それなら大丈夫らしい。どうやらその男は第二十六回語り部で勝ち抜いたほどの実力者らしい」


「へぇ。それはそれは、期待大じゃないですかぁ」


「ああ。だが、信頼できるかどうか、だな」

来巣副社長はどこか不安に思っている節があるのか、いまいち乗り気ではないように思えた。


「副社長。何でそんなに思い詰めているのですか?」


「何でもない。ただ妖かしにとって、黒妖街は太陽の光を閉ざされた快適な空間だ。故に、我々闇本警備会社を潰したいという思想のひとつや二つあるだろうな」


「でも来てくれる人は人間ですよ。妖かしが来るわけじゃないんですし」


「ああ。そうだと良いのだがな」

来巣副社長はその手紙を憂鬱に眺めていた。


かつての平穏は過ぎ去り、今では争いばかりが黒妖街では起きている。

ただ彼女らは現れた妖かしを倒すという、常に後手に回る戦法しか行うことはできない。

戦えど戦えど、その根元には近づけない。

故に、彼女は苦労する。


「捕々野々。また妖かしが現れる。だからその時は任せた。白夜と今々のいない今、うちのエースはお前だ」


「了解ですよ。副社長」



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



篝火との戦いを終え、木更津は裏路地で家屋の壁に背をつけて考え事をしていた。

白鳥南雲を連れていった漆黒の羽を生やした男と、篝火を倒した赤羽心の背中に生えている紫黒色の羽が気になって仕方がなかったからだ。

もしかしたら、もしかしたら、などという疑念が木更津の脳裏を駆け抜ける。


「ああ。もう分っかんねー」

篝火は頭を抱えてそう嘆いた。

既に頭がいっぱいで、考えても考えても答えが出ないその謎に頭を悩ませる。


そんな彼のもとへ、一人の女性が歩み寄る。


「どうしたんですか?木更津準幹部さん」

彼女は頭を抱える木更津を覗き込むようにしてそう問う。


「お前は……誰だっけ?」


「忘れないでくださいよ。私も妖かし連盟よりここへ派遣された妖かし語りの一人なんですから」


「そうだったか」

見覚えがないのか、木更津は首を傾げる。


「もう、ちゃんと覚えてください。私は白百合(しらゆり)、覚えましたか」


「ああ。そういえばいた気がするな」

木更津はようやく思い出し、その女性を眺めた。

透き通るようなほどに純白な瞳と髪、髪には百合の髪止めをつけており、優しい雰囲気が落ち着く。


「で、木更津準幹部さん。なぜそんなにも悩んでいるのですか。私がその悩みを聞いてあげましょう」


「別に、悩んでないよ」


「悩んでますよ。あなたは絶対に悩んでいます」

彼女は確信しているのか、そう木更津へ詰め寄る。


「木更津準幹部さん、困った時は助け合いです。だから話してください」

優しい彼女の口調で、木更津はつい抱えていた悩みを話し始めた。


「もしかしたらなんだが、裏切り者がすぐ側にいて、その裏切り者がまた大切な人を失わせようとしてくる気がするんだ」


「大切な人……ですか」


「ああ。一度俺は大切な人を失った。たった一人のかけがえのないライバルを失った。だからさ、もう二度と同じ過ちは繰り返したくない。それに彼女から託されたんだ。この世界の未来を」


「そうだったんですか」


「だから俺は戦い続けなくちゃいけない。でも苦しいんだ。嫌なんだ。もうこれ以上進みたくないんだ……」

木更津はいつの間にか話そうとしていなかった自分の感情まで打ち明けていた。

そんな彼の心を優しく溶かしていくように、温もりが彼の手を包み込んだ。優しく、どこか温かい彼女の手が、木更津の手を包んだ。


「進みたくないときは進まなくて良いんです。時には一休みしてください。だけど託されたんですよね。なら少し休んだらまた進めば良いんです」


「だけど、頑張らないと」


「頑張りすぎなくていいんですよ。私たち人間はずっと頑張れるほど強い生物ではないんですから。だから木更津さん、休んで良いんですよ。休んで休んで、そしてまた頑張りましょう。それでもきっと、世界は変えられるんですから」

彼女は立ち上がり、木更津へ手を伸ばす。


「あなたが進む道は険しいのでしょ。なので私もともに歩ませてください。あなたが辛いと苦しむのなら、私がその苦しみを一緒に背負います」


「何でお前は、俺にそこまで……」


「当たり前じゃないですか。私があなたのことを好きだからです」

白百合はそう言い、さらに言葉を続ける。


「あなたの頑張り屋さんなところが好きです。あなたの強くあろうとし続ける姿が好きです。あなたの心が、優しいところが、全部全部大好きです。あなたが自分で嫌っている部分も私は全て愛したいんです。木更津、私があなたの一歩の手助けをしたいんです。構いませんか?」


木更津は彼女の姿を見て、ある一人の少女のことを思い出していた。

幼き頃に離れ離れになった、ある少女のことを。


「なあ白百合」


「はい。何ですか」


「これからさ……よろしくな」

少し恥ずかしそうにしながらも、そう言って木更津は白百合の手を取った。


「はい。私の方こそ、よろしくお願いします」

白百合はそう言い、満開の笑みを見せた。

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