第37話 黒妖街の秘密、
今現在、黒妖街に流れる不穏な噂の正体を掴むため、闇本警備会社と合同で妖かし連盟のメンバーが派遣されていた。
メンバーは赤羽心、木更津、交太、音寝などを筆頭に十名。
今彼らは闇本警備会社の会議室に案内されていた。二十人ほどが囲める長机、そこに代表である赤羽、木更津が座り、その対面に闇本警備会社副社長ーー来巣妃芽と幹部の今々が向かい合って座っていた。
「聞いたところによると、先日妖かしが出現したようではないですか」
「ああ。だが奴はエースが一瞬で倒してくれた。だがどういうわけか、最近黒妖街に出現する妖かしの数が著しく増加している。それは少し不可解である」
赤羽は始めた話へ、来巣はそう話を返した。
「そこで君たち妖かし連盟へ依頼をしたというわけだ。黒妖街には何かがある」
来巣は何か確信しているようであった。
「それに対抗するには我々妖かし連盟の力が必要だと」
「ええ。あなた方の力がなければ黒妖街に存在しているであろう何かを倒すことができない。我々は倒したいのです。その何かを」
来巣は極めて真剣であった。
「分かりました。では我々も最善を尽くさせていただきます」
赤羽はそう言い、闇本警備会社との交渉は成功に期す。
「良かったコンコン。これで黒妖街での事件に終止符は討たれるコンコン」
今々は笑みを浮かべてそう呟いた。
その夜、黒妖街。
そこに建てられたある館の中で、表舞台へ姿を現すことのない暗躍組織〈妖かし殺し〉の統率者、クロウは真夜中の黒妖街を見てほくそ笑む。
「クロウ様。どうかされたのですか?」
彼の傍らに立つタイタンは、笑みを浮かべたクロウへとそう問いかけた。
「タイタン。明日、いよいよ例の妖かしが目を覚ます。その前夜祭を始めようと思ってな」
「例の妖かしですか。ですがあの妖かしはまだ謎が多く、街に放つのは危険では?」
「問題ない。この街が壊れようと、まだ幾つかも街がある。それまで妖かしの実験をできるじゃないか」
クロウは冷徹にそう呟く。
「妖かしの実験って……」
「どうかしたか?タイタン」
「いえ。何でもありません」
タイタンは向けられた視線に顔を背け、そう言葉を返す。
「次は、そうだな。篝火にやってもらおうか。確か前回は冷気を纏う寒柝が氷に閉ざされたようだけど、今度はそうは行かないよ」
クロウは一枚の札を手にし、その札に封印されている妖かし今黒妖街へと解き放った。
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一匹の妖かしが世に解き放たれた。
その気配を最初に感じ取ったのは、コタツとともに黒妖街の団子屋でお婆さんからご厚意で団子を頂いていた白夜であった。
何かを感じ取ったようにスッと立ち上がるよ、刀が腰に差してあることを確認し、お婆さんとコタツの方を振り返る。
「お婆さん。また妖かしが現れた。早く店を閉めた方がいい」
「また出たのか」
「コタツは会社へと戻って報告だ」
「白夜様は?」
「俺は、妖かしを狩りに行く」
白夜は刀を鞘から解き放ち、白いマントを風になびかせ連なる家屋の屋上に立つ。
「このにおい。また同じにおいだ」
白夜は妖かしのいる方角を睨む。
「そこにいるのか。お前は。待っていろ。すぐにお前を狩りに行く」
白夜は屋根の上を走り、妖かしのいる方角へ足を進める。
そこへ足を進めて見た景色、それは燃え盛る黒妖街、その一端。
「この妖かし、火炎を……」
燃え盛る黒妖街に動揺していたせいか、背後から迫ってきていた妖かしに気付かなかった。
気づいた時、既に妖かしはすぐ側まで近づいてきていた。火炎を纏った熊のような容姿をする妖かしの拳が腹へ直撃する。
「ぐはっ……」
その妖かしの拳が直撃し、白夜は吹き飛んで燃え盛る民家の壁に勢いよく背を打った。壁は壊れ、家屋の中に転がった。
背を押さえつつ、白夜は周囲を見渡した。
そこで見た光景、それはーー
「どうして……」
燃え盛る民家の中には、燃えて黒焦げになった人が転がっていた。
激しく動揺し、白夜は再び迫る妖かしへ意識を向けることを忘れていた。
白夜の頭を叩き潰すように、火炎を纏う妖かし拳が振り下ろされる。




