第34話 少年の葛藤、
天城聖華。
彼女は妖かし連盟により、今は地下深くに幽閉されている。
彼女の罪は妖かし連盟会長、白鳥南雲を殺害したこと。彼女の罪は非常に重く、大きな罰が彼女へは下ることが予定されている。
だが一つ不可解なことがあった。
雨が降った後の妖かし連盟本部、そこでは無数の妖かし語りが血を流して倒れているはずだった。だが誰一人として血を流してはおらず、それどころか皆体が元気になったと言っていた。
木更津、彼も心臓へ空いた穴はなく、状況に理解できていない。未だにここが地獄なのではないか、そう思えてしまうほどだ。
妖かし連盟は尺一と才花を逃しはしたものの、天城聖華という大罪人を捕らえたことで満身創痍、だが殺されたはずの木更津たちは、どこか不思議な気持ちを味わっていた。
その内の一人である妖かし語り、圦峠は地下牢へ続く階段に立って警備をしている木更津のもとへ向かった。
「木更津さん。俺、あの天城とかいう人が殺されるの、別に良いと想うんすけど、白鳥会長の部屋の外に転がっていた妖かし語りは皆言うんですよ。白鳥会長は殺されても仕方のない人だったって。木更津さんも部屋の近くにいたんでしょ」
「ああ。俺は確かに白鳥会長の部屋の前で警備をしていた。だが、だがな、奴は最初から分かっていたんだよ。こんな結末になることくらい、あいつは分かっていたんだよ」
「ですが木更津さん、天城さんという方は正義を全うしたのでしょう。なら彼女は大罪人なんかじゃ……」
「確かにそうかもしれない。でも彼女は自らを大罪人と、そう呼んだ」
「でも、救いを求めているんです。彼女はきっと」
圦峠はそう言ったが、木更津はその言葉をどうにも受け止めることはできなかった。
「違うんだよ。あいつは、死んでいる俺に言った」
ーー木更津。君は私のライバルだ。君がそう言ったのだから、今さら曲げないでくれよ。だから木更津、最後に君が私を殺してくれ。道を踏み外してしまった私を、君がその手で裁いてくれ。
「俺は返答することもできなかった。だって死んでたから。死人に断ることのできない願いを届け、そして今彼女は死を待っている。彼女が待っているのは救いではなく、罪からの解放である死。だから、だから殺さなきゃいけない」
木更津は過ぎ去った時間の中、過去へ戻りたいという願望が叶わないことを解っていた。故に、彼は大罪人天城聖華を殺す処刑人となる。
だが、躊躇いはあった。
圦峠の話は木更津の心を揺らがせた。だが、彼女が決めたことに、部外者である彼は従うしかできなかった。
「圦峠。お前、何しにここへ来た」
「それは、天城聖華が大罪人ではーー」
「ーーそれ以上喋るな。今の俺は、すぐに人でも殺してしまいそうなんだ。まずはお前が処刑の練習台になってくれるのか?」
恐ろしいほどに鋭い視線、それに加えて手には刀を握り、圦峠の首の横を素通りし、壁に突き刺さる。
圦峠は壁へ背をつけ、木更津の放つ殺気に身を震わす。
「立ち去れ。ここから」
圦峠は逃げるように走って去る。
木更津は刀を抜き、その反動かのように後ろへ仰け反り、地下牢へ続く階段の前にある鉄の扉に背をつけて座る。
(なあ天城、お前は本当に、死にたいと、殺してほしいと、そう想っているのか?)
ーー俺にはその答えが解らない。




