第32話 故に、
天城聖華は散弾銃を白鳥南雲へと向ける。
だが白鳥南雲は笑みを浮かべ、黒い何か禍々しいオーラを放っている剣を手にし、天城聖華へと呟いた。
「天城。この前は確かに俺が負けた。だがな、残念ながらこちらは用意が整っている。お前を殺すための作戦が」
白鳥南雲は立ち上がり、剣を片手で構えて聖華へとかざす。
「消え失せろ。流黒」
剣からは黒い禍々しいオーラが放たれる。そのオーラは聖華を飲み込もうと放たれた。
聖華はもう一方の手で構える槍を振るい、黒い禍々しいオーラを吹き消した。
「その槍……神木のか……」
「南雲。私が背負っているのは死んでいった闘妖の者たちの意思なんだよ。だから、絶対に負けてあげないんだよ」
聖華は槍で黒いオーラを弾きつつ、南雲へと突撃を仕掛けていた。
南雲は苛立ち、オーラを放つのを止めた。すぐに剣を両手で構え、槍を持って駆け寄ってくる聖華へ備える。
オーラが消えたと同時、聖華は散弾銃を南雲へと向け、放つ。
「何……」
南雲は机を蹴り上げて弾丸を防いだ。だが数発、机を貫通した弾丸が体をかすっていた。
「早く来い……。早く」
焦りながら、安勢理ながら南雲はそう呟いた。
聖華は周囲へ警戒を払いつつ、天井へ足をつけ、南雲へ向けて飛びかかる。
「仕方ない。爆弾」
南雲は腰に下げる札を取り出し、天井へ向けて投げ飛ばす。札はある妖器を創造し、その直後に爆破する。
爆炎に飲まれ、聖華は体が黒こげになりながら佑果へ転がる。
「爆弾の妖器……何だそれ……」
「世界は広い。故に、天城、お前はまだ世界を知らなすぎる。お前が今敵に回しているのが誰か、よく考えろ」
南雲は黒い剣を握りしめ、倒れる聖華のもとへ歩み寄る。
「爆弾だけで終わると思うなよ。感電爆弾」
南雲は腰に下げている札を一枚手に取ると、それを倒れる聖華へと投げた。聖華は力を振り絞って立ち上がろうとしていたが、間に合わない。
札が妖器を創造すると同時、電撃が聖華へと流れる。
全身に電撃が走り、聖華は動けず床へ倒れる。起き上がることすらもできはしない。
「さあ、まずは三種の妖器の一つ、あの白い剣を返してもらおうか」
「ざ、残念だったな……。あの剣なら、マグマの中に消えて今頃欠片も残さず消えてるよ。どうせお前が裏で繋がっている何者かが欲しがっているのだろう」
電流がまだ全身へ残っている中、その痛みに耐えながら聖華は言う。
「あの剣を……白月剣を……ふざけんな。小僧が。あの剣がないと、俺は裏の世界で生きられなくなるんだよ」
南雲は憤怒し、勢いよく剣を聖華へと振り下ろす。振り下ろされた剣は、一人の男の心臓を貫いた。
「何をしている。お前は!?」
南雲の振り下ろした剣を木更津は聖華をかばってその身に受けた。既に銃弾を浴び、意識を保っているだけで限界だったはず。そんな彼が、しかも敵であった聖華をかばう。
その行動に南雲も聖華は驚いた。
「天城聖華。どうやら俺は勘違いしていたようだ……。全部……話は聞いていた……」
「木更津。私をかばう理由はないはずだ」
「あなたは俺のライバルですから……。あなたは俺に二度も勝利した。だからあなたには……生きていてほしい……。妖かし連盟を変えてくれ。俺の後輩を……どうか護ってほしい…………」
木更津は最後に聖華へとそう言うと、静かにゆっくりと倒れた。
聖華は隣に倒れている木更津を見て、思わず言葉を失った。
命懸けで自分を護ってくれたその少年に、聖華は動揺していた。その少年とは敵同士、そこまでの信頼関係もないはずだ。それでも彼は聖華を信じた。彼女を信じ、自らの命を懸けた。
「…………」
「ちっ。邪魔が入ったが、まあ良い。今度こそは死ね。天城」
再度、南雲は剣を聖華へと振り下ろす。
(ああ。このまま動かなければ私は死ぬ。だが動けるのならとっくに動いているさ。動けないから私は死ぬ……。
なあ木更津、お前は、なぜ私を護った?私は臆病でやる気のないただの妖かし語り。才能があったから妖かし語りになっただけで、正直闘うなんてこと、面倒だと思っていた。今も思っていたーーはずだった。
だがお前が私をかばったせいで、私は私が分からなくなったよ。
今までの私は金さえ手に入ればどんな依頼でもこなしてきた。だけど神木という男に出会ってから、私の人生は一変した。金も得られず闘う日々、そんな毎日に私は思っていた。面倒だと。
面倒だ、本当に面倒だ。
それ故、私は自分に素直になれない。
それ故、私は闘うことを拒んでいる。
それ故、私は命すらにも執着がない。
だけどもう、私はやめる。
私は、私は天城聖華。妖かし語り。
それ故、私は闘う。)
「なあ南雲、お前、ちょっと調子に乗りすぎだよ」
聖華は足を振り上げ一回転し、しゃがみこむようにして床に立つ。
「まだそんな気力が……」
「私は私を全うする。故に、私はお前をここで倒す」
南雲はすぐさま聖華へと剣を振り上げた。聖華は飛び、剣の上に着地するや剣が振り上げられると同時に更に飛び上がる。天井に足はつく。
聖華は散弾銃を腰に下げ、槍を両手で握り、南雲へと降下する。
「貫け。槍」
天井から飛来せし聖華の握る槍、その槍は南雲への怒りを晴らすかのように心臓を貫いた。
「終わりだ。白鳥南雲」
白鳥南雲、今彼は討たれた。
天城聖華によって。




