第31話 繰り広げられる攻防、
地を駆け、天を駆ける三人の妖かし語り。
一人は妖かし連盟本部からの攻撃を盾で受け止め、その隙に老人は妖かし連盟本部に構える妖かし語りの持つ妖器を次々と"奪器"という業にて奪い取っていく。
「俺の妖器が……」
「何だ……あのジジイ……」
妖かし語りは口々にそう呟く。
妖器を奪われた妖かし語りは無防備となって立ち尽くす。そんな彼らへ無数の銃弾が降り注ぐ。
唯一息が残っていた一人の男は、薄目で本部へ入ろうとしている人影を見た。
「お前は……」
「やあ。そしてさようなら」
彼女は銃口を倒れる男へと向ける。即座に銃弾は放たれ、男の眉間を貫いた。
眉間から噴き出るは紛れもなく血であった。一人の男を殺しても尚、彼女は後悔などしている様子ではなかった。
彼女のもとへ、無数の妖器を持った老人と盾を構える女性が姿を現す。
「聖華。第一関門は突破だね」
盾を構える女性ーー才花はそう言う。
「ああ。だが休む暇はくれないらしい。向こうを見てみなさい」
老人ーー尺一が見た方向、そこには大勢の人の群れがここへ向かってきている様子であった。
「恐らく他の市にあった妖かし連盟の支部から駆けつけてきたのじゃろう」
「では、初めから私たちが奇襲することがバレていたか」
「そうだろうな。というより会長である南雲は自分を狙いに来ていると分かっているはずだ。故にここで奴を倒せば、全てに決着がつく」
尺一はそう呟くと、手に持つ無数の妖器の中から二丁の銃を選んで手に取る。
「天城。ここはわしと才花に任せておけ。だからあとは任せた」
「了解した」
尺一と才花を背に、聖華は妖かし連盟本部の中へと駆け抜けた。
それを確認し、尺一は迫り来る無数の妖かし語りへ銃口を向ける。
才花も勇気を振り絞り、盾を構えてそこに立つ。
「才花。お主、あれから上達したか」
「当然です。師匠より教わった全てを、ここで出し切る」
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天城聖華、彼女は妖かし連盟本部の中をひたすらに走っていた。
時々道を塞ぐようにして数名の妖かし語りに阻まれるも、聖華は柔軟で軽快な動きで彼らの攻撃をかわし、銃弾を浴びせて先へ進む。
彼女が目指す場所はたった一つ。
尺一より教えられた"ある部屋"の場所への道を辿る。右へ曲がる角を曲がり、直進し、右へ曲がって待ち構えていた妖かし語りを銃弾で沈める。すぐさま階段を駆け上がって右へ曲がると、そこには厳重に警備されているのか多くの妖かし語りが立ち塞がる。
「来たぞ。大反逆者、天城聖華だ」
妖かし語りの一人がそう呟くと、その部屋の前に立ち塞がっていた数十名の妖かし語りは一斉に聖華を見る。
「大反逆者って、ダサい名前だな」
聖華は拳銃を片手に次々と妖かし語りを倒していくも、一人、銃弾をもろともせずにかわす猛者がいた。
「久しぶりだね。天城聖華」
二本の刀を構え、そう呟く木更津。彼は全身に鎧を身に纏っている。
「お前は、語り部以来だな。木更津」
「ああ。君対策に鎧になれる妖かしも久しぶりに使っているんだ。もう負けないさ」
「それはそれは、必死だな。木更津」
「それもそうさ。俺へ久しぶりに敗北を刻んだのはお前なんだ。俺は全力でお前を倒してやるよ」
木更津の構える二本の刀は前よりも鋭く、大きくなっている。その刃を聖華へと向けた。
「刃物を人に向けるなよ」
そう言いつつ、聖華は銃口を木更津へ向け銃弾を放つ。だが木更津はいとも容易く銃弾を刀で流し弾いた。
「無駄無駄。拳銃でも散弾銃でも、俺には勝てない」
聖華は一度拳銃を黒猟犬へと戻し、そして「散弾銃」と叫びながら手をかざすと彼女の手には散弾銃が握られる。
それを構え、遠くから木更津へ向けて引き金を引く。無数の銃弾が銃口から解き放たれ、木更津へと直撃……だが鎧は銃弾を弾いた。
「無駄って言っているのが分からないのかな?天城聖華」
「鬱陶しい。いちいち名前を呼ぶ人は、私、生理的に受け付けないのですけど」
聖華は散弾銃を腰に提げ、両手を空けた。無防備にも武器も持たず木更津へと駆け抜ける。
「血迷ったか。貴様」
木更津は二本の刀を後ろへ振るい、聖華の攻撃へ備えた。
「血迷う?なあ木更津、貴様の刀よりも間合いが大きければ、間合いに入らずとも貴様を斬れる」
「だが大会を見た通り、君はその銃しかーー」
「ーー馬鹿か。お前が妖器を二つ使っているように、私も妖器を二つ使っているのさ」
聖華は腰に提げた袋から一枚の札を取り出した。
「まさか……」
「ようやく出番だ、イッカク。喚問」
札は光り出し、それとともに聖華の手にはある武器が形取られていく。その武器を手にし、眩しさに目を腕で隠す木更津目掛けてその武器をーー槍をーー槍を振るう。
横一閃に振るわれた槍での一撃は、木更津の鎧を斬り裂いて彼を床に屈させた。
すかさず第二の刃である散弾銃を抜き、木更津へ向ける。
「終わりだ」
銃弾は木更津を撃ち抜いた。
一つの扉を守護していた数十という数の妖かし語りは、一瞬にして一人の女性に倒された。
彼女はというと、その扉の前に立ち、散弾銃と槍を片手に扉を蹴り飛ばして部屋の中へ入る。部屋の中には扉が壊れたことにより煙が舞い、その中を掻き分けて彼女は進む。
「気分はどうだ?裏で暗躍しているお前が、反逆者と私を蔑み、徹底的に潰そうとしていたのだ。だがそれも今日で終わり、そうだろ。腰抜けで弱者のーー」
彼女はーー天城聖華は吹き飛んだ扉を踏みつけ、優雅に椅子に腰かけていた男へ向けて言い放つ。
「ーー大反逆者、白鳥南雲」




