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妖かしの使い方  作者: 総督琉
妖かし連盟の反逆者
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第30話 闘い、

赤妖市から去ったイッカクとイッカクにくわえられた聖華。聖華は拳銃を黒猟犬(ブラックハウンド)へと戻し、闘妖のアジトにて深い虚無感を味わっていた。


黒猟犬(ブラックハウンド)……神木は何のために死んだんだ」


「聖、一番辛いのはイッカクのはずだ。あいつの妖かしであったイッカクが我慢している。なら俺たちは静かに見守ってやろう」


「ああ。そうだな」

そう呟き、聖華は呆然としているイッカクを眺めていた。


イッカクは微かに呻き声を上げると、唇を噛み痛みで悲しみという感情を押し殺そうとしていた。

だが悲しさはそい簡単には消えない。イッカクは必死に声を殺そうとはしているものの、悲しみを表す声は小さいながらも漏れていた。聖華と黒猟犬(ブラックハウンド)はそれが聞こえてはいるものの、聞こえていないような素振りで誤魔化していた。


「なあ黒猟犬(ブラックハウンド)。これからどうする?闘妖は火山にて殲滅された。それに妖かし連盟に通じていた神木も死に、私も闘妖側なのだと疑われた。つまり、どう足掻いても私たちは妖かし連盟を倒さなきゃいけないわけだが……」


「ああ。実際今までのように生活はできない。陰でこそこそ生きる他ないのだろう」


「だが妖かし連盟を倒すにはこれでは力不足。どうしようとも妖かし連盟はーー」


「ーーー倒せる」

聖華の言葉を遮り、一人の男はそう言った。

姿を現したのは聖華へ業を教えた老人ーー尺一だった。彼の背後には才花が歩いている。


尺一は聖華の前で足を止めると、その場にいたイッカク、聖華、黒猟犬(ブラックハウンド)、才花を眺め、そして言った。


「これだけの者が集まれば十分じゃ」


「十分って……まさか師匠、妖かし連盟へ戦いを挑めと、どうおっしゃっているのですか」


「ああ。その通りじゃ」

驚く聖華へ、尺一は迷うことなく言い放つ。


聖華の目には迷いがある。

妖かし連盟、その会長が裏切っているとあらば、当然幹部や部下も裏切っているに違いない。たとえ裏切っていなくても、会長が闇に手を染めていると知らなければ聖華たちを敵と言えば簡単に潰すことができる。

勢力が違いすぎる。


「師匠。どうか考えてください」


「では、あと一日考えたところで、お主は"闘う"以外の選択で最良の選択を取れるか」


「そ、それは分かりません」


「曖昧な答えなど不要。曖昧になるということは、その覚悟など元から無いに等しい。ですが……」


「聖華。お主は恐れているだけだ。死ぬのが」


「死ぬのは怖いじゃないですか。それで戦えなんて、最悪全てを失うのですよ」

聖華は尺一へ感情をぶつけて言った。

だが尺一は聖華の言葉に自らの意見は変えるつもりはないらしい。


「聖華。妖かし語りは何故存在するのか。それは人々を悪い妖かしから守るため。だが今、人々の危険は脅かされている。会長が闇に堕ちたことによって。もしお主に妖かしを操る才能がなかったとしたら、今の我々に闘うなと、そう言うのか」


「それは……戦ってほしいと、思いますかね」


「その通りじゃ。いつだって力がある者は戦ってきた。それは力を持って生まれたから故の責任という奴じゃ。故にお主らよ。今下を向いている暇はあるか?」

イッカクは顔を下ろしたまま、思い詰めたような表情で嘆き悲しむ。


「我々は妖かし語り。そして唯一妖かし語りを倒すことのできる存在じゃ。闘う覚悟がないのなら今すぐ首を切って死ねば良い。ここで奴らを止められなければどのみち同じ運命を辿る。

お前たちには力がある。そしてどの力を使ってこれまで戦い続けた責任がある。故に、我々は今闘わなくてはいけない。支配されたこの世界を変えるために」


イッカクは顔を上げていた。

先ほどまで戦う姿勢すらも見せなかった聖華でさえも、戦おうと立ち上がった。


「それでこそ妖かし語りじゃ」


その場にいた者は誰一人として怯むことはしなかった。


「そんな君たちになら、あの妖器を託すことができる。怪盗灼猫、彼女が命懸けで奪ってきた妖器ーー命の水(セイレーン)を」

尺一が指を鳴らしたと同時、彼の持っていた札は水と変わって正方形を作り出す。

目の前に現れたのは聖華が一度目にしたことのある妖かし連盟本部へ保管されていたあの妖器であった。


「この水は無限の力を与える。これを聖華、君へ託した。君ならばこの妖器を大切に使ってくれそうだ」


「では受けとりましょう。取り消すならもう遅いですよ。これは私のですから」


聖華は手を妖器へかざす。

「"札封(さっぷう)"」

そう呟くとともに、妖器は聖華の手へ吸い込まれるように消えて札へと変わった。


「託した。聖華、君へ」


「託された、なんて大層なことは言えませんよ。私は責任も負いたくないし、何の見返りも得られない闘いをするつもりもない。けど、私には一つ許せないことがある。それは仲間の死を笑う者」

そう言った聖華の脳裏には、妖かしを平気で犠牲にした白鳥南雲の姿が浮かんでいた。


「故に私は白鳥南雲を許さない。故に彼は私は倒す」

聖華の目には覚悟が映る。

それはイッカクや才花、尺一も同様だ。


「さあ行こうか。妖かし連盟を破壊しに。白鳥南雲、あの世で泣いてももう遅い」

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