第27話 白鳥の目論見、
「じゃあ次の業の習得に行こうか。次の業は"妖縛"。妖かしが放つ妖気を使ってその妖かしを捕らえる術じゃ。まあ見ておれ」
尺一は黒猟犬へ手をかざす。
「妖縛」
尺一がそう呟くとともに、黒猟犬の体からは黒い線のようなものが浮き出た。それが黒猟犬へ絡み付き、動きを封じる。
「これが妖縛じゃ。お主もやってみてはどうだ」
聖華は動きを封じられている黒猟犬へ手をかざす。
「妖縛」
黒い糸のようなものが浮き出、それが尺一の時のように黒猟犬へと絡み付く。
「お主、なかなかのセンスがあるようじゃな」
「いえ。相棒の黒猟犬の妖気ならば簡単に引き出せますので、それの応用ならば簡単です」
「そうじゃったか。独学でそこまでできるとは妖かし語りとしてはかなりの才を有しておるようじゃな」
尺一は聖華へ感心の目を向ける。
「では妖縛は終わりにしよう。後は"封印"と"喚問"、この二つの練習をしようか」
尺一は一ヶ月ぶりの笑みをまだ会って一時間も経っていない聖華へと見せた。
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赤妖市。そこにある赤妖火山。
赤妖火山は噴火を始めようとしていた。既にマグマが溢れる寸前であり、危機はすぐそこまで近づいていた。
闘妖のメンバーは神木を筆頭に噴火を止めようとしていた。
だがしかし、神木は感じていた。すぐ近くまで妖かし連盟の者たちが近づいていることに。
「灼猫。どうやら奴らは既に動き出している。時間を稼ぐだけで良い。死ぬと想ったらすぐに逃げろ」
「了解」
灼猫は風とともに消えていく。
「僕らは火山の噴火を止める。もし止められなかったら、最悪の事態になるぞ」
神木は震えつつもそう言った。
もし火山が噴火すれば、この世界がどうなるか目に見えているからだ。
「火山か……。奴はとんでもないものを遺していきやがったな」
神木は焦燥に駆られるも、その気持ちを抑えて火山を見上げていた。
その頃、妖かし連盟会長は噴火を止めるという名目で火山の麓へ近づく。
そんな彼の前に一人の女性は現れた。
「会長。あの格好は……」
妖かし語りの一人が目の前に立っている女性を見て言った。
猫を連想させるかのような仮面、赤髪のポニーテールに全身タイツを纏うスタイルの良い女性、彼女は両手に短剣を構えて立っている。
妖かし連盟会長ーー白鳥南雲は天へ届くほどの漆黒色の巨大な剣を手に握っていた。電撃を纏い、周囲に激しい震動を放っている。
「規格外だろ。灼猫」
「どう勝てと……」
巨大な剣は振り下ろされた。
巨大すぎるが故、その剣は火山を真っ二つに斬り裂いた。
火山の頂上にいた神木たちはただではすまなかった。それだけではない。マグマを包んでいた火山が斬られたことにより、内に溜まっているマグマが一辺に外へ噴き出したのであった。
「ふざけるな……」
神木は槍を手にして宙へ舞う。
闘妖の仲間は皆マグマの中へと消えていった。
「白鳥ぃぃイイイ」
槍を持って浮いている神木は、そのまま火山の麓にいるであろう白鳥のもとへと向かった。
予想通り、麓には白鳥が十センチほどしかない剣を持ってそこに立っていた。
「まさかあの剣……使ったのか。大罪の剣を」
神木は真下にいる白鳥へと叫ぶ。
「誰かと思えば神木じゃないか。久しいな」
白鳥は見上げ、頭上に浮いている神木へ笑みをこぼしてそう言った。
「ねえ神木、これで世界は終わりだね」
「させてたまるか。そんなこと、させてたまるか」
神木は降下し、白鳥へと槍を振り下ろす。白鳥はもう一方の手で白く美しい色の剣を握る。それで神木の槍を弾いた。
「神木、"三種の妖器"の内二つを手に入れた私には、君が太刀打ちすることはできないよ」
その言葉通り、神木は白鳥に圧倒されて地へ横たわる。
隣に気配を感じ、見てみるとそこには灼猫が血を流して倒れていた。
その瞬間、神木の内から込み上げる感情があった。
無言で立ち上がり、神木は戦意を喪失したかのように槍を構えていた。その目には先ほどまで白鳥を殺そうとしていた感情はない。
「憤怒するか絶望するかの二択だったけど、君は絶望するを選んだんだね。やっぱ君って、弱かったんだね」
白鳥は神木の首へ白い剣を当てる。
「さようなら。神木将」
剣は神木の首を斬り飛ばすように振るわれた、だが、その寸前で白鳥の手は銃弾によって撃たれ、剣を手離した。
落ちた剣をすぐさま拾い、右手に拳銃、左手には白い剣を握る女性は神木を庇うように立った。
「貴様、語り部の時の」
「初めまして白鳥南雲。私は天城聖華。火山の噴火は阻止させていただきます」




