第21話 戦いは終わった。
戦いを終え、聖華は控え室へと戻った。
そこではここまで勝ち進んできた宍道と氷上がソファーに腰かけて待っていた。聖華は座ることなく、壁に寄りかかる。
するとそこへ絨毯に座る少年ーー開闢が現れた。
「ではこれより戦いを始めるのですがーー」
「私、辞退します」
聖華は挙手し、そう言った。
「辞退?なるほどなるほど。でもそれじゃ三位になっちゃうけど良いの?」
開闢は動揺する様子もなく、そう聖華へ質問を投げ掛けた。
「構いません。私は三位になれればそれで良いので」
「金目当てか。まあ仕方ない。良いよ、辞退して」
開闢は平然とそう言うと、聖華へ百万が入った封筒を差し出した。
「ちゃんと百万入ってるから。じゃあまたね。天城聖華」
開闢に見送られながら、聖華は会場を後にする。
七海才花。
彼女は会場近くの河川敷で座り込み、遠く空を眺めていた。静かに吹いている風にも鬱陶しさを感じ、彼女は苛立ち気味であった。
深いため息が風に流され、才花はうなだれていた。
そんな彼女の頬へ、紙のようなものが押し付けられた。見上げると、そこには分厚い封筒を持った聖華が立っていた。
「才花、飯行くぞ。腹減ったんだ」
「今日は奮発してくれるんですか」
「ああ。何て言ったって百万という臨時収入が入ったんだ。これは行くしかないだろ」
「行きましょうか。是非とも食べ放題に行きたいですかね」
才花はちょっぴり躊躇いがちに言った。
「傲慢だね。まあ良いよ。一日ぐらいご褒美を上げないとさ」
聖華は才花へ優しくそう説く。
才花は聖華の優しい言葉にあまえ、聖華へ連れられ食べ放題のお店へと向かった。
行った店には何でも揃っていた。
焼き肉に寿司、サラダにアイス、それに加えてチャーハンや野菜炒めなどのマイナーな料理までもがあった。
「たらふく食え」
「はい」
才花は飯へ込めた日頃の恨みを晴らすように、何度も何度も飯へかじりつく。
既に腹はいっぱいだろう。そうなっても尚彼女は食べることをやめなかった。食べて食べて食べ続け、腹を満たし、欲を満たす。
とうとう力尽きたのか、才花は席に寝転んだ。
「どうだった?」
「大、満、足……」
そう言葉を残すと、才花は満面の笑みで幸せそうに眠りについた。
聖華は才花の髪を愛で、頭を撫でた。それに反応するかのように才花の表情は和らいでいく。
「聖華……。頑張ったよね、私」
才花は寝言を呟いた。
「ああ。頑張ったな」
聖華はその寝言に答えるように言った。
聖華は眠る才花をお姫様抱っこで抱え、事務所へと戻った。
かなり疲れていたのか、未だ才花は起きることがない。才花をベッドへ横たわらせると、聖華はソファーへと向かう。
「黒猟犬、お前も寝ろ」
「サンキュー」
黒猟犬は丸まり、眠りにつく。
聖華も自分のベッドへと向かい、そして眠った。
まだ日は昇ってはいないものの、月明かりが部屋に溢れていた。才花の部屋のいたるところに置かれていた家具が日光へ照らされ始める。
才花は重たい体を起こし、伸びをしながら部屋を出てキッチンへと向かう。ソファーにはまだ黒猟犬が眠っており、聖華もまだ姿を見せていない。
それもそのはず、今はまだ深夜。
ただ一人起きている才花は、ベランダへと続く窓が空いていることに気づき、歩み寄る。
だがそこへ、猫を連想させるような仮面と猫耳のようなカチューシャをつけた赤髪のポニーテール姿の女性がそこに降り立った。
「あなたは……」
才花はその女性を前に固まった。
「すまないね。少しの間だけお邪魔させてもらうよ」
彼女はベランダに座り込み、呼吸を整えるようにして荒い呼吸を奏でていた。
才花はどうすることもできず、ただあたふたとしていた。
「安心しろ。私は君を殺すつもりじゃない。それに私は人を殺すことは得意ではないのでな」
「だ、誰なのですか?あなたは」
「ああ。そう言えば名乗っていなかったね」
彼女は立ち上がり、仮面をギリギリ顔が見えないくらいまで外して才花へと言った。
「私は灼猫。怪盗だよ」
「怪盗!?」
「そろそろ追っ手がここら辺にいることを嗅ぎ付けたようだな。ではまた会えると良いな。悩める少女よ」
そう呟くと、灼猫、そう名乗った彼女はカーテンが風に流され、才花の視界から姿が隠れるとともに姿を消した。
「怪盗……」
灼猫。
彼女という存在が才花の記憶には深く刻まれた。
「怪盗灼猫、君は何者だ?」




