第20話 天城VS木更津
天城と木更津は向かい合う。
聖華の肩には黒猟犬が牙を研ぎ澄まして座っている。
それに対し、木更津の背後には肩車をしている二人組の妖かしが立っている。下にいる妖かしは足が長く、上にいる妖かしは腕は長い。
「じゃあまずは俺から行かせてもらうよ」
木更津は背後にいる妖かしへ両手を向ける。
「双刀」
背後にいた妖かしは銀色の欠片のように変化してその集合体が木更津の両手へと向かう。右手には刀が、左手にも刀が握られている。
「それがお前の妖器か」
「ああ。是非とも君の妖器も見せてくれ」
「木更津。私の仲間を倒したんだ。仇は討たせてもらうぞ」
その発言に木更津は首を傾げた。
聖華は腕を黒猟犬へと向ける。黒猟犬は黒い霧状へと変化し、聖華の手元へいくや霧はある武器の形状を形取る。
「拳銃」
「それがお前の妖器か」
「舐めたら即死。分かっているだろうな」
「ああ。俺は誰であろうと油断はしない。一秒も隙を与えない」
木更津は強く刀を握り直す。
「さて、行かせてもらう」
聖華は走りながら銃口を木更津へ向け、引き金を引く。銃弾は放たれる。
「無駄だ」
木更津は銃弾の動きを見切ったように端的な動きでかわすと、避けきれない銃弾を刀で弾いて聖華へと突撃を仕掛ける。
聖華は木更津と距離を取ろうと走り続け、それを追うようにして木更津は走っている。
聖華の銃弾は全て見切られ、銃弾では手も足も出ない。
「銃弾だけか。お前のできることは」
木更津は聖華の懐まで駆け寄ると、刀を腹へ振るって壁まで吹き飛ばした。
「ぐはっ」
ぶつかった衝撃に嗚咽と苦痛の叫びが吐き出される。
体へ走ったその痛みに聖華は壁に背中をつけたままゆっくりとしりもちをついた。
「天城聖華、君の妖器では俺を倒すことはできないよ」
「ああ、そうだな……」
聖華はうなだれながらそう呟いた。
聖華は静かに頭上を見上げた。
開放的になっているため空いている天井、そこには何匹もの鳥が群れを成して羽ばたいていた。
観客席に座る無数の観客に見守られながら、聖華は少しずつ体から力が抜けていく。
「諦めたか。なら大人しくしていろ」
「諦める?私はな、これまでの人生の中で何百何千回と諦めてきた。そんな私だから諦めることなどに今さら躊躇いはないんだよ」
「では降参するか?」
「敗けを認めるのも良い。だがな、私は今君を倒す策を思い付いてしまった。なら戦うしかないだろ。木更津、覚悟しろ」
聖華は立ち上がった。
「妖器解除」
聖華の手に握られていた拳銃は黒い霧へと変化し、黒猟犬の体を生成した。
「聖。どうするつもりだ?」
「なあ黒猟犬、ぶっつけ本番でいけるか」
「何をするつもりだ?」
「妖器とは妖かしと主の絆とも言える。だからこそ妖器という武器は絆によって強さも変わり、それによって稀に形を変える」
「ああ。そうだが……」
「黒猟犬、私の思いを感じているか?」
「ええ。勝敗にこだわってこなかった聖が、初めて勝ちたいと思っている」
黒猟犬は驚いたような表情をしながら言った。
「私は勝ちたい。だって、今の私はできる奴だからな」
聖華は黒猟犬へ満面の笑みを向ける。
「自分で言いますか。それ」
「ありのままでいこうぜ」
「聖らしいですね」
「じゃあ始めるぞ。黒猟犬」
「倒しましょうか。あの男を」
「ああ」
聖華は自信満々に笑みを浮かべ、黒猟犬へ手をかざす。
そして叫ぶ。
「???」
黒い霧が激しく吹き荒れ、聖華を覆った。
木更津はその中へ突撃するのを躊躇い、霧の外で刀を構えて立っている。
霧が晴れるとともに、黒猟犬の姿は消え、聖華の手には拳銃、ではない銃がその手に握られていた。
「散弾銃」
聖華の手に握られていたのは散弾銃。
その銃口を木更津へ向ける。
「なあ木更津、とどめを刺そう」
「さっきと形が違う?それに銃口が妙に……まさか……」
「私の勝ちだ」
引き金は退かれた。
無数の銃弾が木更津を襲い、木更津は無数の銃弾を真っ向から受けて手に持っていた刀を手離した。
全身に力は入らない。
(負けた……?)
「最初に言っただろ。仇は討つと」
地へ背をつけて転がる木更津へ、聖華は散弾銃を拳銃へと変化させ、木更津の額へと当てた。
「私の勝ちだな」
「負けちまったか」
銃弾は放たれた。
この勝負に勝敗はついた。
「最低でも三位は確実か。なら上出来だ」
聖華はそう呟くと、妖器を解除した。
肩には黒い霧とともに黒猟犬が座る。
「賞金だけ貰って帰ろうか。黒猟犬」
「そうしましょう。お腹も空いていますし、早く帰りたい気分ですし」
聖華は会場から去っていく。




