第19話 氷上VS雪平
氷上と雪平。
両者は互いに向かい合っていた。
氷上、彼は両腕を大きく広げ、
「冷装&氷剣」
そう呟くと、氷上は冷気を纏う和服を纏い、氷でできた剣を握る。
「手袋」
雪平はそう呟くと、雪平の手には手袋が装着される。その手袋は微かに冷気を放っている。
「雪平、勝つのは俺だーー」
「ーー先手必勝」
雪平は氷上の懐まで駆け寄り、手袋をはめた拳で氷上の腹目掛けて掌を振り上げた。氷上はその掌を寸前でかわすと、正面から雪平へ剣を振り下ろす。
「妖器解除」
雪平のつけていた手袋は妖かしへと戻り、二メートルはある巨漢の男の容姿をしている妖かしーー雪男へと変化する。
雪男は手の甲を分厚く凍らせ、雄叫びを上げつつその部位で剣を受け止めた。周囲へ飛び散る氷の欠片、だが雪男の手を斬ることはない。
「手袋」
雪男へと雪平は手を伸ばす。
氷上の懐へと再度忍び寄る雪平は雪男を手袋へと変化させ、装着する。その手で氷上の脇腹へ打撃を入れる。
氷上は吹き飛び腹が凍りつく。だが雪平もまた打撃を入れた左腕が肘辺りまで凍りつく。
「その服、我の妖器と匹敵するほどの冷気……!」
「突撃、斬り」
氷上は前傾姿勢で剣を振るう。
「まずい……」
雪平は凍りつく左腕で剣を受け止めるも、剣での一撃で腕は粉々に砕け散る。
体勢を崩した雪平目掛け、氷上はここぞとばかりに地へぶつかった剣を振り上げる。
避けられない、そう悟った矢先、雪平は地に手をつけ叫ぶ。
「凍てつけ。砂上の風よ」
氷上の剣が雪平の脇腹目掛けて振り上げられた。その剣は雪平の腹を斬るように見えた。
だが剣は突如砂上に生えた氷の木に阻まれる。
(硬い……)
氷上は氷の木に剣をぶつけ、その反動で手には痺れが走る。
すぐに後方へと距離をとり、氷上は剣を構えて雪平を警戒する。
(さすがに強いな。これがここまで勝ち抜いてきた者の強さか)
雪平は想像以上の強さに翻弄されていた。
(奴は既に片腕をなくしている。だが慎重に行かなければ)
有利な状況である氷上、だが必ずしも勝てる確証はない。
お互い向かい合い、短い時間の中で思考を巡らせる。
時を同じくし、二人は再び動き出す。
まばたきをした瞬間、次に広がっていた光景は氷上の剣が雪平の拳とぶつかり合っている様だ。
周囲へ冷気が吹き渡り、砂の大地は凍りつく。
手に汗握る攻防、一瞬の隙が命取り、敗北する瞬間はいつも隣通し、剣の一太刀をかわし、拳の一振りをかわす。
戦いは激化するばかり。
氷上の剣が振り下ろされた瞬間、雪平はこの時を待っていたかのように叫ぶ。
「妖器、解除」
「このタイミングで!?」
氷上は驚きながらも、雪平目掛けて剣を振り下ろす。
それを横へかわしたものの、雪平の右腕は頭上へと吹き飛んだ。
(ここでとどめを)
今しかない。
好機を見つけた氷上は大地を踏みつけ、雪平の首目掛けて剣を振るう。
「終わりだ」
「上を見ろ。氷上」
氷上はその言葉を聞き、頭上に気配を感じた。
「まさか……」
慌て立つ氷上。
頭上から降るのは一体の妖かし、それは雪男であった。雪男は氷上を踏み潰すようにして急降下していた。
氷上が雪平の首を跳ねるのが先か、それとも雪男が氷上を押し潰すのが先か。
その刹那、決着はついた。
雪男が遥か上空から落下したことにより舞い上がった激しい砂煙、それらが視界を遮って勝者は見えない。
開闢は絨毯に座り、会場を上空から見ていた。
「勝ったのは氷上か、それとも雪平か」
開闢は砂煙の中を掻き分け、そこに立っている一人の男を目を凝らして覗き見る。
「立っているのは誰でしょうか……」
その男は冷気を纏う和服を着、冷気を放つ剣を握る。
彼の背には何やら巨大なものが落ちた痕跡がある。
「勝者は、氷上だ」
決着はついた。
氷上は見事に勝利し、雪平はそこに崩れ落ちていた。
開闢は最後の二人が残る部屋へと移動し、二人へ視線を向けながら言う。
「では次の試合は、天城君と木更津君」
聖華の相手は前の戦いで才花を倒した青年。
彼は青年へと歩み寄り、そして指を鳴らした。すると彼の姿は変化し、鉄の鎧を纏う大男へと姿を変えた。
「これが僕の妖器の一つ」
その姿を聖華は一度目にしている。
この大会が始まる前に会っている男の面だ。
「あの時言っただろ。お前の心をバキバキに砕くと」
「そういえばそうだった」
聖華の顔は無表情に、だがそこから僅かではあるものの殺気を感じる。
「君、私の中に眠る女性ホルモンが全て拒否反応を起こしている。君みたいな男の心は何度も砕いているんだ。早く戦いたいね。君とは」
「ああ。お互い様だな」
木更津は変身を解き、青年の姿へと戻った。
「では天城君と木更津君、戦いを始めてくれ」
聖華と木更津。
今二人の戦いが、始まる。




