第1話 妖かし語り
ここは天城民間除霊事務所。
悪い妖怪を倒す民間の警備事務所である。
今日も悪い妖怪の情報を聞きつけ妖かし語りが妖怪退治に向かう。
現場はビルの中。
「妖かし語りだ」
「本当だ。かっこいい」
一匹の妖かしを肩に乗せていた彼女を見て、そこにいた子供たちは指を指してそう言った。
その声に目を向けず、彼女はビルの中へと入っていく。
「聖。この現場、荒らされた形跡が無いぞ」
この者が天城民間除霊事務所の社長。天城聖華。彼女が妖かし語りである。
そしてその相棒の黒猟犬。彼女の妖器である。
妖器とは武器になることが出来る妖怪の事であり、妖かし語りには欠かせない武器である。
「妖怪が暴れたとしたならば、少しは部屋が汚くなってもいいように思うが……」
「そうだな。では依頼主に話を聞こう」
そして依頼主のもとに向かい、話を聞く。
机一つを挟み、天城聖華と依頼人の女性がソファーに座って向かい合っていた。
「私が部屋でくつろいでいると、突如後ろから狼が現れ気絶させられました」
「何か盗られた物は?」
「無いです」
「他に気付いたことは?」
「いえ。何も」
何かがおかしい。荒らされていない部屋。狼の妖怪。
「なるほどです。とりあえず速く解決できて光栄です」
聖華は大きな謎に気づいた。そして微笑んだ。
「どうしたんですか。聖華さん」
「あなたは妖怪で妖怪と仲良くする人を喰いたかった。って事ですよね。依頼主さん」
突如依頼人の顔は暗くなる。
「証拠は」
低い声。
それを静かに感じ取るも、天城聖華は先ほどまでと同じトーンと笑みを浮かべ、話した。
「コーヒーに睡眠薬が仕込まれてました。これはもう私が妖怪ですと言ってるようなものではないですか」
聖華は舌を出した。そこにはまだ溶けていない白いカプセルの薬がのっていた。
「やはりあなたは妖かしだ。睡眠薬の使い方も知らないのだから」
「喰らえ。子供達」
依頼人は言った。
「拳銃」
黒猟犬は黒い霧状になって聖華の手元へと移り、霧が晴れるとともに拳銃が手には握られていた。
「ヴぉるるるrur」
突如現れた狼の群れが天城聖華に襲いかかる。
「舐めたら即死」
天城聖華が放つ弾丸が狼を殺す。
「お前、」
依頼人は立ち上がり、怒りを剥き出しにしていた。
ここまでくれば自分が妖かしだと隠すつもりもないのだろう。
「先に喰おうとしたのはお前らだろ。それに、女だからといって舐めてる時点でお前らの負けだ」
依頼主も狼の姿に変わる。
「私は女王狼。狼の頂点に立つ者。この私を倒せるわけがないでしょ」
「あなたも女でしたか。ですが結局舐めてるじゃないですか。言ったでしょ。舐めたら即死」
天城聖華の弾丸が女王狼の頭を貫く。
妖かしは灰となって弾け、周囲にはその灰のみを残して消えていった。
「帰るぞ。黒猟犬」
今回の事件。これにて一件落着。
彼女は肩に狼を座らせ、静かに夜の中へと消えていく。