第17話 戦いの果てに、
聖華は右腕を矢で貫かれ、吹き飛んだ。右腕を失った聖華は黒猟犬の妖器化を解除した。黒猟犬は地を駆けすぐ側にいた男の一人の肩を噛み砕き、直後に聖華とともに逃げるように走り去る。
男は肩を押さえながらも追おうと足を一歩踏み出すも、肩に振動が走り痛みでしゃがみこむ。
彼のもとへ二人の妖かし語りは駆け寄った。
「弓式さん、大丈夫ですか?」
「ああ。ここではあくまでも仮死するだけで現実で死ぬことはない。だが奴はそれに半信半疑、無理もない。あの女の顔は今まで見たことがない。恐らく初参加だ。だからたっぷり味合わせてやろう。俺たちの強さを」
聖華のいる市街地では、既に半数以上が脱落していた。
それに加え、弓式という男の活躍により残り四名となっていた。
聖華は住宅の裏路地で息を潜めて隠れ、失った右腕を押さえていた。
「なあ黒猟犬、私の体はいつからこんなに脆くなった」
「確かにおかしいですね。たとえ妖器とはいえ、聖の腕はそんな簡単に吹き飛ぶはずがない。まるでその体が偽物のようですね」
「ああ。最初から違和感はあった。まるで夢の中のような、そんなダルさがあった。やはりあの少年が言っていた通り、この世界では死ぬことはない。だから腕も元通りになるのかもな」
聖華はなくなったはずの右腕に意識を集中させてみた。だが特に何か分かるわけでもない。
「黒猟犬、そろそろ行くか。ずっと隠れているままじゃ、ただの腰抜けになっちまう」
「了解。仕返しと行こう」
聖華は拳銃を片手に、いざ市街地の大通りへと飛び出した。
広い路地にたった一人、聖華は目を閉じ、立ち尽くしている。
「弓式さん、見つけました。先ほどの妖かし語りを」
弓式へ一人の男は言った。
「あと数人か。速くとどめを刺して終わりにしよう」
弓式は妖器を手にし、聖華から遠く離れた距離で弓を構えていた。
「お前たちは念のため近くの建物の中に隠れていろ。やられそうになっていたらすぐに援護を頼む」
「「了解」」
二人の男は建物の中に隠れた。
弓式は大通りに並ぶ建物の上に立ち、遠く離れた聖華目掛けて矢を構える。呼吸を整え、片目を瞑って照準を聖華へと合わせる。
「風はほぼなし。距離はせいぜい二百メートル。障害物はなし。絶好の場所じゃないか。とどめだ」
弓式は矢を放つ。
矢は空を駆けて聖華へと向かう。矢はそのまま進み、聖華の頭部を側面から貫く、寸前で聖華は目を瞑りながら矢を掴んだ。
「ようやく見つけた。弓矢の三人組」
聖華は遠く離れた位置にいる弓式を見つけた。
聖華は掴んだ矢を投げ、その矢は弓式の頬をかする。弓式は咄嗟に屋根の上を走りながら距離を取りつつ矢を放つ。しかし銃弾が刹那の如く放たれ、両足を撃たれて屋根の上に転がった。
聖華は大通りを走り、屋根の上へと飛び乗った瞬間、二方向から矢が飛んできた。それを読んでいたように聖華は回転しながらかわした。
「そこか」
聖華はそう言って銃口を向ける。その場所には弓式の仲間が一人隠れていた。
「速い……!」
聖華は銃弾を放つ。その銃弾は男の眉間を見事に貫いた。
「もう一人いたな」
聖華はバク転をしながら振り返り、建物の中に隠れていたもう一人の男へ銃弾を放った。
その男の眉間もプロスナイパー顔負けの実力で撃ち抜いた。
「やってくれたな。お前」
弓式は憤りを感じつつ、矢を聖華へと放つ。
聖華は頭だけを動かし、顔目掛けて放たれた矢を見事にかわしてみせた。
「な……!?あれを避けた!?」
それには弓式も驚いている。
「私の勝ちだ」
聖華は銃口を弓式の額へと向ける。
そして引き金を引いた。
「君は私を舐め過ぎだ。屋根の上に堂々と立って矢を放った時点で君たちの負けは確定していたんだ。舐めたら即死だ」
聖華は勝利した。
市街地で唯一生き残った聖華は喜びに浸ることはない。
ただ目の前に現れた扉をくぐり、控え室へと進んだ。そこには他のエリアでの戦いを終えた者が既に集まっていた。
彼らの視線は聖華、にではなくある場所へ集まっていた。そこには大きな鏡があり、そこには才花の戦っている姿が映し出されていた。
(才花か。あと一人倒せば終わりじゃないか)
才花のいるフィールドーー森林では既に二人しか残っていない。
そんな中で才花は盾を構え、もう一人の生き残りである青年と向かい合っていた。
「相手が悪かったね。君」
「笑わせるな。私はまだ負けちゃいないさ」
そう強がる才花であったが、明らかに息を切らして体力が消耗していた。
「諦めろ」
「諦めてなるものか。私は負けられないんだよ。必ず新人賞を取って帰るんだ。だから諦めてなるものか、ここで負けてなるものか。私は絶対に負けない、負けないんだ」
才花は強く盾を構え、大地に足を踏みつけてそう叫んだ。
「なら速く終わらせてやる」
青年は二本の刀を構え、才花へと走る。
「来い」
才花は盾を構え、青年へと突撃を仕掛けた。
盾と刀の攻防、それは一瞬で決着がついた。
才花の構える盾を一刀両断し、才花の体は斬られた。勝利したのは青年、才花は敗北した。
「もっと……もっと強くなりたいよ……」
彼女は嘆いた。
自分の弱さに。




