第15話 絆とともに。
朧霊。
その妖かしは宙を泳ぐと言われている妖かしである。だが時に体を休めるために地上へ降りる時がある。
そんな妖かしは今空から落ち、妖かし語り学校へと落ちた。
校庭を駆け抜け、聖華は拳銃を片手に朧霊へ銃口を向ける。弾丸が朧霊一体一体を貫くも、数が多く到底一人では捌ききれない。
苦戦が強いられる中、巨大な朧霊が聖華へと拳を降り下ろす。
避けようと左右へ行こうとするも、地面から手だけ出した朧霊に足を掴まれ、避けることができない。
「まずい……」
だが巨大な拳は突如現れた才花の盾によって防がれた。
才花は拳がぶつかる瞬間に盾を押し、それによって朧霊はバランスを崩して後ろへと仰け反る。
聖華は咄嗟に才花の横へと移動し、巨大朧霊へと弾丸を放つ。幾つか部位を破壊し、そして額へ弾丸は当たるーー寸前で弾丸を防ぐように一体の朧霊が自らの身を犠牲にして受け止めた。その朧霊は消失するも、巨大朧霊は瞬時に再生して体は健在。
「本当に厄介な相手だな」
「それに小さな朧霊が地味に面倒ですね」
「ああ。速くこの妖かしを倒さなければ、近隣に暮らしている市民にも被害が出る」
「ではとっとと倒しましょうか」
才花は盾を構え、朧霊へと視線を向ける。
「黒猟犬、本気で行くぞ」
聖華は拳銃を握り、朧霊へと駆ける。
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朧霊が妖かし語り学校へと襲いかかる中、学校の倉庫の中、一人の少年は深々と落ち込み、体育座りで壁に寄りかかって小さくうずくまっていた。
そんな彼のもとへ、一体の妖かしは歩み寄る。
「風士」
少年は顔を上げ、名を呼んだ者を見た。
そこにはランタンが立っていた。
「何の用だ。今は一人にさせてくれ」
「嫌だ」
ランタンは覚悟を決め、風士の前へ立つ。
「風士、この際だからはっきり言わせてもらう。風士は臆病で腰抜けで頼りない、その程度の存在だ」
「それはーー」
風士が喋ろうとした言葉を遮り、ランタンは言う。
「ーー当然ボクもだ。ボクも腰抜けで弱虫だ。だけどこのままじゃ駄目なんだよ」
風士はランタンへ意識が釘付けになっている。
「ねえ風士、ボクを信じてよ。お願いだ。ボクじゃ頼りないのは分かってる。ボクじゃ力になれないのは十分理解してる。それでも一度くらいはボクを信じてよ。風士を信じるこんなボクでも信じてほしい」
ランタンは風士へそう心の声を漏らした。
正面からぶつかったランタンへ驚いた風士。
風士は戸惑い、固まっていた。
(どうしてこんな僕を信じてくれる?僕は弱くて愚か者だ。どうしてそんな僕を信じてくれるんだよ。僕は弱虫なんだ。僕は頼りないんだ。もう僕を信じないでくれよ)
風士は頭を抱え、葛藤していた。
そんな風士へ、ランタンは優しさを漂わせながら歩み寄る。
「ボクは君が好きだよ。今すぐ信じてくれとは言わないさ。ただボクが君を信じているということは覚えていてほしい。だって君は、ボクの最初の主だからね」
「そうか……。なあランタン、」
風士は立ち上がり、そして勢いよくランタンへと抱きついた。
「すまない。僕はやはり臆病者だ。嫌われていると思っていた、僕はランタンの力にはなれなかったから。でも気付かせてくれた」
風士は感情をさらけ出すのを躊躇っていた。だがその躊躇いを今、彼は壊した。
「ランタン、僕を信じてくれてありがとう。だから僕も、ランタンを信じる。これからも一緒に戦おう」
「うん」
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校庭に群がる無数の朧霊。
聖華は拳銃で対抗するも、無数の敵に接近され、あまり得意ではない接近戦に持ちかけられていた。才花も盾で守るも、地面からわき出る朧霊には手も足も出ない。
危機へ陥っている最中、一人の女性が竹刀で聖華に群がる朧霊を斬り裂いた。
「鬼灯先生、助かりました」
「ああ。感謝しろ」
鬼灯は竹刀を構え、聖華と才花へと言った。
「二人とも。あの妖かしを屋上付近へ誘導しろ。理由はすぐに分かる」
「了解」
聖華はすぐに動き出した。
それに続くように、才花も盾を構えて動き出す。
聖華は屋上の真下まで移動し、そこから銃弾を放つ。自ずと巨大朧霊の足は聖華のいる屋上付近へと動き出す。
だがそんな聖華へ無数の小さな朧霊たちが襲いかかる。それらを空中で無重力かと疑うような動きで漂い、朧霊を斬る鬼灯。
そして巨大朧霊が屋上付近へ進むとともに、才花は盾で巨大朧霊を背中から押して屋上へ頭が埋まった。
「さあ、とどめだ。風士」
鬼灯の期待。
それが向けられる屋上には一人の少年が立っていた。
「ランタン、行くぞ」
風士はランタンへ手をかざす。
「茶刃刀」
ランタンは光を纏って風士の手もとへと流動体のように移動する。そしてその光が風士の手もとへと来ると、光はある武器の形を作る。
それは茶色い刃の刀。
「とどめだ」
風士は巨大朧霊の頭の上へと乗り、そして首もとへ向け刃を振り上げる。だがそれを防ぐようにして朧霊が群がるも、風士は刀を振り下ろし、その朧霊ごと巨大朧霊の首を斬り裂いた。
首を切断された巨大朧霊は周囲へ灰を飛散させ、そして消失する。
「ランタン。僕の相棒はお前だけだ」
「ああ。ボクもだ」




