第13話 その教師とその仲間、
大会が始まるまでまだ日はあった。
そのため、聖華は才花たちの修行のために懐かしきある場所を訪れていた。
「一秒一秒を無駄にせず、稽古に励め」
ある女性教師の声が響き渡る。
その声に感化されつつ、生徒たちは妖かしを妖器状態へと維持していた。
その光景を、修行へ来ていた才花と聖華は静かに見守っていた。
そう、彼女らが来ていたのは妖かし語りを育てる教育機関ーー妖かし語り学校であった。
その光景を横目に通り過ぎ、誰もいない大きな道場にて、一人の女性教師と聖華、才花は向かい合っていた。
「で、とうとう修行しに戻って来たか。聖華」
「そんなわけないでしょ。今日は私の会社で働く才花の修行をしてもらいに来たんですよ。鬼灯先生」
聖華は目の前で竹刀を持って立っている鬼灯というかつての教師へ言った。
「相変わらず御前からはやる気が感じられないな。それだからお前はまぬけだの怠け者だの死体だの言われるんだ」
「いや、そんなにだらだらしてましたっけ」
「そんなお前の鼻っ端を折れると思って楽しみにしていたのに、修行しに来たのは部下か。まあお前が仲間にするくらいなんだ。少しぐらいは威勢が良いんだろうな」
「そうですよ。それに才花は言っていましたよ。どうせアホでまぬけな教師なんでしょうし、とっとと倒して修行を終わりにしたいなって」
聖華は虚言を堂々と吐いた。
才花は慌てて聖華へ大声で「嘘つくな」と叫ぶも、時既に遅し。
鬼灯の逆鱗に触れた才花へ憤怒の眼差しが向けられていた。
目が合っていなくても感じられる凄まじい圧、それに加えて漂う威圧感、直後、鬼灯は竹刀を片手に才花へと走りかかる。
「才花、速く妖器を展開しないと殺されるよ」
「ころ……!?」
才花は咄嗟に河童へ手をかざす。
「盾」
河童の体は水のように変化し、才花の手元へと移動するや盾の姿へと変形する。
ちょうどそこへ鬼灯は握る竹刀で才花へと襲いかかる。だがそれを才花は盾で防いだ。
距離をとって深呼吸する才花、だが呼吸を整える間もなく鬼灯は斬りかかっていた。
「才花、休んでいる暇はないぞ。一呼吸するだけで死ぬと思え」
そう言う聖華は壁に寄りかかって座り込み、黒猟犬とともに才花を見ていた。
「聖華さん。助けてくださいよ」
才花は鬼灯の攻撃を受け止めながら聖華へと言う。
だがその光景を笑みをこぼしながら眺める聖華は止めようとはしない。
「才花、お前ならできるぞ。お前は私の仲間なのだから」
「でもぉぉぉお」
「才花。その様子だと、鬼灯はお前を殺すまで止まらないぞ」
「ならどうすれば」
鬼灯の竹刀を受け止めるだけの才花は、助けを求めるように聖華へと嘆く。
「鬼灯はお前を殺すまで止まらないぞ。戦え。お前はまだまだ強くなれる」
「強く……はあ、本当にあなたは面倒くさそうに励ましてくるのにどういうわけか心に響くのですよ。仕方ない。本当に仕方がない」
才花はため息を吐き、笑みをこぼす。
「愁、見せてやろうか。あのぐーたら聖華に、私たちの本当の実力を」
才花は盾を強く構え、そして走りかかってきた鬼灯へと盾で突進を仕掛ける。鬼灯はその突進を竹刀で受け止めるも、才花の突進に鬼灯の足は止まって必死にその場へとどまろうとしていた。
「なあ黒猟犬、どう思う?」
隅で見ていた聖華は黒猟犬へ問う。
「相変わらずシンクロ率は滅多に合わないからそこには期待できないけど、その代わり愁の頑丈さと才花の器用さで補えているよ。これなら新人賞くらいは取れると思うよ」
「なら残りの期間で十分に成長か見込めるか」
「うん。そうだね。妖器の状態を維持し、尚且つ戦闘に盾をどう使うか。そこに全てがかかっているだろうね」
「ならしばらく見学うぅううう」
聖華は突如自身に降りかかった災いに声を漏らした。
竹刀が顎を直撃するように振り上げ、聖華は仰け反るように宙へ舞って床に倒れる。倒れる聖華の眉間へ竹刀を押し当て、なぜか聖華を睨んでいる鬼灯を見た。
「せせ、先生、いきなりどうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもあるか。さっき私を挑発したのはお前だというのは分かっている」
「だとしたら演技はお上手なのですね」
「おいおい。それで逃げられると思っているのか。残念ながら、私は前を痛め付けることにした。だから今日はお前にも修行を受けてもらうぞ」
「才花さん……」
聖華は悲しげな眼差しを才花へと送る。
しかし……
「大人しく一緒に修行しましょう。聖華さん」
才花は悪魔のような笑みをこぼしながら聖華へと言った。
「そ、そんな……」
「では修行を始めるぞ」




