第11話 連戦、
激しい銃声が響き渡り、金属音も何度か響いていた。猛獣の雄叫びが空気を振動させ、木々を激しく揺らしていた。
地面は隆起し、それによって盾を構える一人の女性は宙へ舞う。そんな彼女のもとへ側面から音の衝撃波は宙を流れて女性を襲う。女性は咄嗟に盾を構え、音を防いだ。
森の中での戦闘。
今現在、聖華と才花は依頼によって妖かしーー玉響と戦闘を繰り広げていた。
才花は河童の愁という妖かしを仲間にし、聖華は退院直後で鈍っている体で妖かしと戦っている。
「耳栓をしている状態じゃ、ろくに連携も取れやしないか」
玉響、その妖かしの近くでは常に爆音が響いていた。それを対策するため、二人は耳栓をつけての戦闘をしていた。だがそのせいで、言葉での連携は取れずにいる。
だがたとえ連携を取ろうとも、玉響を覆う音の壁に攻撃は防がれる。それに厄介なのは攻撃であった。
まるで複数の楽器が組み合わさったようなそんな容姿、そこから繰り出される一撃一撃がとても重い。
「また来るか」
玉響の右半身に存在しているトランペットからは音の砲弾が放たれ、周囲へ激しい音の爆風を吹き荒らした。周囲の木々はその風圧に足場を失い、宙を舞う。
盾により攻撃を防いだ才花、聖華はその背に隠れるしかなかった。
だが攻撃は止まない。
腹部に位置するヴァイオリン、それを奏でるように弓がヴァイオリンの弦を振動させていた。鳴り響くヴァイオリンの音色に、周囲は音の振動で斬れていく。
才花は盾で何とか受け止めてはいるものの、盾となっている河童は既に限界が来ていた。
「行くしかないか」
その攻撃が止まった瞬間、聖華は拳銃を手に玉響へと駆け抜ける。
狙いを聖華へと定めた玉響は体のいたるところに付けられたフルートから音の弾丸を聖華へ放つ。それを走りながら聖華は正確に撃ち抜いた。
「そろそろ本気を出そうか。退院はがてらにこの仕事は、さすがにしんどいがな」
聖華は地を駆け、そして木々を足場として玉響の頭上へと飛んだ。そこから何発も銃弾を放つ、しかし銃弾は玉響を覆っている音の振動に防がれる。
だが聖華はまだ諦めていない。
頭上から落下し、玉響の胴体へと降り立った。
「零距離での狙撃、これで終わりだ」
拳銃を玉響の胴体へ当てて放つも、銃弾は玉響を貫くことはなく、跳ね返って聖華の額をかすった。
聖華は仰け反り、額から血を流しながら玉響の胴体から落ちる……寸前で踏ん張り、聖華は玉響の胴体の上にとどまった。
「零距離でも無理か。なら仕方無いな」
聖華は胴体の中心にあった巨大なホルンという楽器の中へと入った。
「一か八か。ここで私も終わりか」
音の風圧に投げ飛ばされそうになるも、聖華はそれに耐えながら中へと入る。そしてその中に見えた。
巨体である玉響の体の中心、そこには音源であろう音符がそこには浮いていた。
「届け」
銃弾は放たれた。
音符が銃弾によって貫かれたと同時、圧倒的なまでの爆音が響き渡った。それに投げ飛ばされ、聖華はホルンの中から飛び出て地に転がった。
玉響はというと、体のいたるところが崩れていき、少しずつ灰となって消えていった。
「何とか勝ったな」
「そうですね。にしてもかなり強い相手でした」
才花は膝から崩れ落ちる。
河童は盾の状態を維持できず元の姿に戻って尻をついて荒い呼吸を奏でていた。
黒猟犬も同様に、拳銃から元の姿へと戻り、丸まって疲れを癒していた。
「天城聖華。あの妖かしを倒してくださり、本当に感謝しております」
そう言ってやってきたのは依頼人であるタイタンという男。
「依頼料は貰ったしな。帰るとするよ」
「帰る?そうですね。帰れれば、良いですね」
タイタンは手に一枚の札を取り出した。その札を天へ掲げるとともに、札をは灰のように消失して一体の妖かしを形作る。
五メートルはある巨大な足、五メートルはある胴体、それに五メートルはある巨大な腕、それらを見て、聖華と才花は言葉が出ない。
圧倒的なその巨体、見上げるまでの図体の大きさには言葉を失った。
「我が妖かし、巨人よ。今ここで奴らを踏み潰せ」
巨人、そう呼ばれた妖かしは足を振り上げ、そして疲弊しきった聖華たち目掛けて振り下ろす。




