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パラサイト

作者: 西 一

 俺の名前は新牧徹(あらまきとおる)。17歳の高校生。部活等には入ってないし、ずば抜けて頭がいい訳でもない。まぁ、簡単に言うと、どこにでもいるような平凡な高校生だってこと。ただ、俺には一つだけ皆とは違うことがある。俺は、他の生き物に意識を移すことができるんだ。これは、俺が小学校に通ってるときに偶然わかったことなんだけど、あんまり人には言わないようにしてる。正直、自分でも気味が悪い。別のものに意識を飛ばしてるときは、俺本体の意識がなくなるみたいだから、つまり、軽い幽体離脱(ゆうたいりだつ)ってヤツだろ?

 けどまぁ、1人だけ、俺の親友に言ったんだ。「意識が飛ばせる」ってね。実際にやっても見せた。近くにいた蝶に、意識を飛ばし、そいつの頭の周りを飛んでやった。最初は戸惑ってたみたいだったけど、やっぱり慣れてくるもんだ。ケラケラ笑ってた。そいつの名前は北岡仁政(きたおかじんせい)。俺の小学校からの親友。

 俺は小さい頃、児童養護施設(じどうようごしせつ)ってところにいて、両親がいなかった。そのせいで、いろんなやつらにからかわれた。そんな中で仁政は俺と普通に接してくれた。仁政はクラスでも結構人気者で、なんとなくだけど、他のやつらよりもててたような気がする…


 そんなあいつが、ある日、急にこんなことを言ってきた。

「その能力(ちから)ってさ、何か役に立たないかな?」

 この言葉がきっかけだ。罪を犯そうとしているやつの意識に飛び込み、犯罪を未然に防ぐ、なんてこともしたし、死んだ人に意識を飛ばして、その人の記憶を辿り、死因や、家族に伝えたい事なんかを伝える、「代弁者」って感じのこともした。この頃、俺に「気味が悪い」なんて感情はなかった。ただ単に、いろんな人の役に立ちたかった。正直、自分で言うのもなんだけど、この能力(ちから)が、自分に備わって良かったと思う。悪人がこんなことできたら、国の一つや二つ簡単に滅ぼせるんじゃないか?


 このときは、まだこんな冗談を考える余裕もあった。


 あの日から、3ヶ月が経った。徹もあと2ヶ月で高校卒業。大学受験に向けても勉強を始めようと考えていた。そんな中、また彼が急にこんな事を言ってきた。

「知り合いの科学者が、お前のその能力をもっと詳しく調べたいって言ってるんだけど…ダメかな?」

 北岡仁政だ。徹は、少し考えた後、頭を掻きながら答えた。

「別にいいよ。暇なときなら。」

「マジ?!ありがと。じゃぁ、今度の日曜日はどう?」

「あぁ…。」

 少し面倒臭気に答えたが、それでも仁政は喜んで帰っていった。


 家に帰った仁政は近くの化学実験センターに走っていった。中に入るなり、息を荒げてこう言った。

「父さん、今度の日曜日だよ」

すると、眼鏡を掛けた、50歳前後の男性が振り向き口元に微笑を浮かべながらこう言った。

「そうか、よくやったな仁政。次の日曜日だな?覚えておく」

 人生はそれだけ伝えると、また家に戻ろうとした。しかし、そこを急に呼び止められた。

「ちょっと待て仁政、あくまで、私たちは知り合い。親子じゃない。そういう設定でいくから、彼の前で、父さんとは呼ぶな」

「分かってるよ」

 そう言って、仁政は家路についた。


 

 何も知らない徹は、1人暮しをしているアパートに戻り、1人勉強を始めた。あまりよくなかった成績も、今では、クラスで上位に入る。この成績を維持して、良い大学に入るためにも、徹は必死に勉強をしていた。まぁ、別にそんな事をしなくても、この能力があれば…と考えたこともあるが、それではこの能力を悪用してるようなもの。そういう事だけはしたくなかった。学費も、アパート代も、施設の方が出してくれている。だから自分は、ちゃんとした職に就いて、いつかお金を返せるようにと考えていた。

 この日の勉強は、午前零時すぎにまで及んだ。



 そして、日曜日。朝8時ごろに、仁政が迎えに来た。

「徹〜、起きてる〜?早く知り合いの科学者ん所行こうぜ」

 下から叫ぶ仁政を、黙らせるために、徹はベランダの窓から顔を出して、「すぐに行く」と伝えた。

 それから、すぐに洋服に着替え、眠たい目をこすりながら下へ下りた。下に来ると、仁政は眩いほどの笑顔で徹を見ていた。その笑顔に、徹も手を挙げて返した。

 仁政は徒歩で来ていたので、徹も徒歩でいいだろうと自転車は持ってこなかった。どうせ、簡単な検査とかして、軽く取り調べみたいな事されて終わりだろうと思っていた徹は、別になんの準備もせずに仁政についていった。その間、徹と仁政は、高校生活の事や大学の事について話していた。自分の夢についても話そうと思ったが、仁政はどうしてもそれを拒んだ。徹も、そこまでして聞き出すほど、意地悪でもなかったので、それについては触れないでいた。実験センターに着くまで、彼らからは笑顔が消えなかった。


 数十分後、徹たちは実験センターに着いた。徹は、実験センターなんて所初めてだから少しどきどきしていた。そんな気持ちを察したのか、仁政は優しく声を掛けた。

「別にそんな緊張すること無いって。体にメスをいれられるわけじゃないんだから。」

 どこか、病院を思わせるような独特の匂いから、自然と手術を想像(イメージ)してしまっていた。だが、その言葉で、完全にとはいえないが、徹の不安は和らいだ。すると、奥の自動ドアが、少し重そうな音を出しながら開いた。そこには眼鏡を掛けた50才前後の男性が立っていた。その人はゆっくり歩いてきて、にっこり笑ってこう言った。

「私は剛史(たけし)といいます。今日は、我々の研究のためにご足労いただき、ありがとうございます」

 (うやうや)しく頭を下げて「優しいおじさん」を演じているが、剛史は仁政の父親。そしてこの父親は何かを企んでいる。このとき徹はそんな事知る由もなかった。

 少し、ジュースでもてなされたあと、徹は先ほど剛史が出てきた自動ドアを抜け、さらに奥の部屋へと向かっていた。その間、三人には会話はなかった。それぞれの鼻息が聞こえるほど静かで、渡り廊下を歩くときは、足音がとても大きく聞こえた。実験室らしきところに着いたのは、数分後のことであった。

 中は、ガラスで二つに分けられており、一方にはたくさんのパソコンなどの機械、もう一方には、一つ、ごちゃごちゃした機械と、座り心地の良さそうなイスが置いてあった。剛史は、徹を、そのイスに座るように促し、仁政には外で待っているように指示し、代わりに、何人かの研究員をいれた。徹の頭には、無数の吸盤のような物をつけられ、ガラス越しに「誰かの意識に飛び込んでくれ」と言われた。徹はいつものように意識を飛ばした。相手は、剛史のすぐとなりにいる研究員。そのとき徹は、この研究員の記憶を通して、衝撃の事実を知った。

 隣にいる、剛史という男の隣に、幼き日の仁政と一緒に並び、研究室のようなところで何かしていた。目の前のガラスケースの中には徹そっくりの少年が寝かされており、もう一つのケースにも、そっくりな少年が寝かされていた。一つには、「新牧徹」というプレートがあり、もう一つには「人型寄生虫(パラサイト)」というプレートがあった。その後、新牧徹と書かれていたほうは、手錠をかけて、牢屋に放り込んだ。さらに、この研究員の意識から、徹の能力を自分たちのために使おうという嫌な考えまで伝わってきた。そのとき、急に剛史の声が入り込んできた。

「誰の意識に入ったんだ??」

 その問いに、慌てて、この研究員の体を動かした。

「ハイ。ここに入ってます」

 すると、剛史は驚いて、椅子から立ち上がった。

「おぉ、そこだったか。やはり、他の人に意識を移しているとき、君自身の体は活動を止めてしまうようだ。では、今から自分の体に戻ってくれ。今日はこれで終わりだ」

 そう言われて、徹は、自分の体へ意識を戻した。長いため息をついて遠くを見つめていると、徹の方へ、1人近づいてきて、頭につけていた吸盤のようなものをごっそりのけてくれた。首を軽く回し、椅子から立ち上がった徹は、無言で部屋を出た。剛史の「ありがとう」という言葉も耳には届かなかった。ずっとあの記憶の映像(ヴィジョン)のことを考えていた。自分は造られたのか??だとしたら、基礎になったオリジナルをもつレプリカ??そもそも「人型パラサイト」ってなんだ。仁政もグルなのか…

 そんな事を考えているうちに、いつの間にか外に出ていた。外には、仁政が待ってくれていた。

 帰りは、上の空だった。隣にいる仁政(こいつ)を信じていいのか…。(おれ)という存在はなんなんだ。そして気になるのはオリジナルの新牧徹。今どこにいるのだろう。まさか殺されたりはしていないだろう…。

「徹、徹!!」

 その声でふっと我に帰った。

「ん?何?」

「何?、じゃねえよ。ずっと黙ったまんまで。どうかしちゃったのか?」

 確かに、どうかしてしまいそうな状態にあった。徹は無意識のうちに斜めに歩いてしまったり、赤信号でも渡ろうとしてしまっていた。

「わりぃ、たぶん大丈夫。ちょっと俺、用事あるから、先に帰るわ」

 その場から、とにかく抜け出したかった徹は、用もないのに駆け足で家へと急いだ。

 家についた徹は、部屋に入るなり鍵を閉めてベッドに倒れこんだ。まだ昼だというのに、自分の周りだけ、やけに静かに思えた。すると次の瞬間、部屋の隅から顔を隠した4人の男が現れた。あっという間に徹は押さえ込まれてしまった。

「なんなんだよお前ら!」

 そのとき、ふわっと、匂い覚えのある匂いがした。実験センターの匂いだ。そう。この四人組は、剛史の命令で、待ち伏せていたのだ。徹は焦らず、精神を落ち着かせ、一番外で押さえ込んでいる男に、意識を移した。そして、瞬く間に、残る三人を抜け殻になった徹本体から引き離した。すごい(パワー)だ。鳩尾(みぞおち)を強く殴れば、たった一発で気絶させてしまう。その後、ゆっくり記憶を辿った。すると、案の定オリジナルの徹についての記憶があった。化学実験センターの、地下。ひんやりした、コンクリートうちっぱなしの牢屋に彼はいた。やつれてはいるものの、死んではいない。むしろ、挑戦的な目で睨みつけていた。この体格からして、最近の記憶だろう。すると急に、オリジナルの徹は、体をひねって、叫ぼうとした。しかしその瞬間、レプリカの徹の意識は、徹本体に引き戻された。このとき初めて知った。時間制限があることを。気付けば、目の前の男は、徹の鳩尾を殴りつけていた。徹はぐったりとなり、その男に抱えられて家を出た。残る三人も、数分後には意識を取り戻し、それぞれの足で家を出た。


 運ばれていく途中、徹は意識を取り戻した。が、あえて、眠っているふりをした。オリジナルの徹がいる場所は分かった。あとはこいつをうまく使えば…と思っていたのだ。数分後、徹を担いだ男は実験センターに着いた。男はそのまま剛史のいる部屋に向かった。エレベータの二つとなりにある部屋の前に来た所で、男は足を止めノックした。その瞬間、徹は男に意識を飛ばした。出てきたのは剛史だった。中には誰もいない。

「おぉ、戻ったか。どれ、そのこをこっちへ」

 その瞬間、徹の意識をもつ男は、剛史を殴り飛ばした。その拳には、憎しみもこもっていた。そして、その部屋にあった鍵という鍵を全てポケットに詰め込んだ。その後、剛史の体を、紐で柱にくくりつけ、男も、一緒にくくりつけた。そのまま、くくりつけの男から意識を戻した。

「なっ、貴様!」

 必死にもがくが、括りつけにされていては、力は出せない。徹は無言でその部屋を出た。そのまま、来た道を少し戻り、階段から地下に下りた。

 どこにも見張りはいないようだ。少し進むと、あの記憶でみた映像と同じ風景の所に来た。そこには、ぐったりとした人が横たわっていた。足音を聞くなり、そいつはキッと徹を睨み上げてきた。しかし次の瞬間には、驚きの表情に変わっていた。それはそうだ。また研究員かと思えばそこには自分と瓜二つの男が立っていたのだから。

「お、お前もしかして…パラサイトか?人型パラサイトなのか?」

 その問いに、徹は頷き、質問を返した。

「じゃぁ、あんたは、本物の、オリジナルの新牧徹な…」

「あぁ」

 その質問を、オリジナルの徹の言葉が制した。

「なぁ、俺ってなんなんだよ!教えてくれよ。なんなんだパラサイトって。俺たちって一体なんなんだ。あの時、研究室で何があったんだ?」

 今まで口に出さなかったことを全てぶちまけた。

「頼む、全て説明するから、ここから俺を出してくれ。話はそれからだ」

 そう言われて、徹は、鍵をいくつか試した。なかなか当てはまるのはなかったが、どうにか手錠は外れた。その後も、いくつか繰り返し、どうにか檻の鍵も見つかった。そこからは走った。ずっと監禁されていたオリジナルの徹の足下はおぼつかなかったが、感覚を取り戻せば、普通に走れるようになっていた。

 全力で走った二人は、息も絶え絶えに実験センターのドアをくぐった。それでも尚走った。どんどん走り、家と正反対の方向の橋の下に来た。そこで二人は走るのを止めた。オリジナルの徹は、服もぼろぼろ、紙もぼさぼさ、とても清潔とは思えなかった。

 呼吸を整えて、最初に話し始めたのはオリジナルの方だった。

「お前、別にこんなことしなくても、俺の意識に飛び込めばよかったんじゃないの?」

 すると

「あんたの口から直接聞かないと、気が済まない。」

「そうか…」

 それからしばし、沈黙が流れた。2人とも口を開こうとはしなかった。初対面で緊張しているわけではないし、まだ呼吸が整っていないわけでもない。ただ、レプリカの徹はオリジナルの徹が話してくれるのを待ち、オリジナルの徹はどこから話そうか、整理をしていただけだった。その沈黙の中、オリジナルの徹は話し始めた。

「まずは、呼び名を決めないか?オリジナルの、とか、レプリカのっていうの、何かいやだし、そもそも面倒くせぇだろ?」

 思いもよらない問いに、少し戸惑ったが、とりあえず「あぁ」とだけ返事をした。

「じゃぁ、俺のことは新牧だからマッキーって呼んでくれ。お前のことは今まで通り、徹って呼ぶから。別に恥ずかしくねぇよ」

 マッキーなんて、抵抗も無しに、呼べるはずもないが、ここで詰まっていたんじゃ話が先に進まないから、そこもとりあえず、「あぁ、わかった」と返事をした。それに満足したのか、マッキーは話し始めた。

「17年前、俺はある家庭に生まれた。けどな、そこの家庭に、俺は受け入れてもらえなかったんだ。俺が物心ついた頃には、既に虐待をされてた。そして俺が5歳になった12年前、俺は何らかの理由で児童養護施設に入れられた。明らかに邪魔だったんだ。その同じ年、俺は、あるおっさんに引き取られた。」

「それが、剛史…」

 徹が、マッキーの言葉を制した。

「あぁ、正確には、北岡剛史。北岡仁政の父親さ…」

 このとき徹は、さほど驚かなかった。逆に「やっぱり」と納得した。既に徹は剛史の隣で立っている仁政を見てしまっているから。その後もマッキーは話しを続けた。

「俺はあのあとすぐに、研究室に連れて行かれた。このときのことは、今でも鮮明に覚えてる。俺は無理矢理台に縛り付けられ、腕に、太い注射器、頭には無数の吸盤みたいなヤツを繋げられた。そして、俺の隣に寝かせてあった何かに繋げた。それが徹、お前だ。俺はわめきながらもあいつらの会話を聞いていた。人間を基盤とした、変形動物ができるかもしれない、と楽しそうに話しているのを。しかし、あいつらの計画は失敗だった。俺の遺伝子が予想以上に多くコピーされちまって、俺そのものがそこに出来上がったんだ。研究員は戸惑い、この現場を知る俺を牢屋にぶち込み、ついさっきできたばかりのお前を施設に返したんだ。それからさ。あのときのお前の脳の動きを見て、ずっと研究。そしてようやく三年後にお前の能力(ちから)に気付いたんだ」

 徹は、その話に聞き入っていた。自分が施設にいた理由、科学者側が、自分を狙う理由もよく分かった。そこで徹には、やり場のない怒りが生まれた。自分は誰を憎めばいいのか。誰を信じればいいのか。そんな思いが交錯していた。するとマッキーが

「こっからは俺の勝手な推測だが、おそらく剛史は、同い年である息子仁政を、同じ小学校へ通わせた。もう一度連れ戻すために。しかし、簡単には見つけることができなかった。なぜならお前は施設から通う身として、特別学級で生活していたからだ。その後、お前と人生は違う中学へ進学。ようやくこうこうで一緒になったってわけだ。どうだ?筋が通ってるだろ?」

 確かに、これと言っておかしなところはない。つまりこれが真実…。と、そのとき、研究員が追いかけてきた。あの時縛り付けた怪力のヤツだ。2人は立ち上がり、また走った。あいつに捕まれば、終わりだ…。しかし、必至で走っているのにも関わらず、距離はどんどん詰められる。2人は歩道橋を駆け上った。しかしそれがダメだった。向こうからも研究員が来るのだ。

「マジかよ…」

 徹がそう洩らした。しかし、マッキーは

「まだまだ…2人を捕まえるのは無理だぜ」

 こう言って、徹を担ぎ、歩道橋から投げ飛ばした。すると、下を通るトラックに荷台にドンと鈍い音を立てて落ちた。

「マッキー?!」

 そう叫んでも、マッキーは一緒に来なかった。遠退いていくマッキーが、研究員に捕まえられているのが見えた。

「何で…何のために俺はあんたを…」

 もうわけが分からなくなっていた。徹は信号で止まっているうちに、荷台から飛び降り、歩道へ戻った。膝がガクガクしている。とりあえず来た道を戻ろう。そう思い、引き返そうとしたが、まだ研究員が追ってきていたらと思うと、引き返す気にはなれなかった。徹は少し遠回りしながら自分の家へ急いだ。


 

 数十分後、徹は家の近くまで来ていた。足取りは重く、何回か通行人ともぶつかった。自分の中から何かがかっぽり抜けたような…虚しい気持ち。埋める事のできない深い穴ができてしまったような気分だった。そんな中、徹はまた通行人にぶつかった。しかし、まるで無気力の徹には、謝る事もできなかった。しかし、顔を見た瞬間、徹は全身の血が騒ぐのを感じた。それが誰かを認識するよりも早く、徹の体は臨戦体勢に入ったのだ。ぶつかったのは仁政だった。あのときの帰り道で別れて以来、会っていなかった仁政がそこはにいた。仁政も、徹を見た途端、目を見開いた。しかし、仁政はすぐに向き直り走りだした。まるで徹から逃げるように。すると徹は、逃げる仁政を追いかけた。何故だかわからないが、ここで仁政を捕まえなければいけないような気がしていた。

 仁政はすぐにつかまった。徹は問い詰めた。

「お前、剛史ってヤツの息子なんだろ?!マッキー…徹はどこだ!!」

 しかし、仁政はとぼけた顔で切り返した。

「な、なに言ってんだよ。徹はお前じゃねぇか…」

「とぼけるな!!全部分かってんだよ。徹はどこにいるんだ」

 ここまで言った徹は、急に喋るのを止めた。そして、そのまま倒れた。その体を、仁政が支えた。そして呟いた。

「最初からこうすりゃ良かったんだ」

 仁政の中には既に徹の意識が入っていた。このまま、抜け殻となった徹を抱えて実験センターに向かった。少々周りからの目が気になったが、今行動してるのは外見からはどう見ても仁政。怖がる事はなかった。不安だったのは、制限時間。実際どれ位なのか分かっていない。せめて、マッキーがいるところまでは…


 実験センターへは、すぐについた。そして、急ぎ足で地下に向かった。あの時と同じ場所へ。しかしそこにはいなかった。さすがに学習したのだろう。徹は、さらに下へ向かった。そして一番奥の突き当りまで走った。するとそこには、鞭で打たれたような傷をつけたマッキーが手錠もつけずに横たわっていた。徹は、鉄格子を何度かガチャガチャしたが、簡単には外れない。そこで、近くに落ちていたコンクリートの破片で鍵を壊そうとした。しかしそれでも壊れない。そろそろ制限時間だろう…。そう思って腰に手を当てると、ポケットに何か入っていた。もしやと思い取ってみる。するとそれは鍵だった。最後の頼み。開いてくれ。そう願い、鍵穴に差し込んだ。鍵はカチャリと音を立てて開いた。徹はぐったりしているマッキーを引きずり出し、徹の体を外に置いたまま仁政の体で牢屋に入った。扉を閉め、意識を自分の体に戻した。そして、すぐに、鍵を閉めた。鍵をポケットに入れ、マッキーを起こした。そのとき、仁政が叫んだ。

「徹!どういう事だよ!!出してくれよ!!俺たち親友じゃねぇか!」

 その言葉に、徹の中の何かが弾けた。

「親友?この数年間、騙し続けて、親友か!?結構な事じゃねぇか。親友ってのは、心を傷つけ会う相手なのか。そうか、いい勉強になったよ。じゃぁ、親友の俺からのささやかなプレゼントだ。しっかり休んでな糞野郎!!」

 今まで、こんな事を言うとは思っていなかった徹が、急に狂ったように怒鳴り散らしたので、さすがの仁政も、返す言葉がなかった。ついさっき目を覚ましたマッキーも、現状を掴めずにいた。

「わりぃ、徹。またお前が助けてくれたって事は理解できたんだが、今どういう状況?」

「見ての通り。こういう状況」

 そう言って、マッキーの手をとり、歩き出した。必ず、あいつらに復讐する。腹の中でそう決めていた。すると、マッキーがこんな事を言ってきた。

「なぁ、徹。助けてもらっといてなんなんだが、テンポ良すぎねぇ??」

 必死だった徹にはよく分からなかった。

「だって、俺には手錠もされてなかったわけだし、見張りもいなかったんだろ?」

 そういえばそうだ。仁政のポケットに鍵が入っていたのも気になる。仕組まれているのか…?

「考えすぎだってマッキー。とりあえず、まずは出よう」

 いい終えたそのとき、2人は、後ろに冷たい物を感じた。

「人口パラサイトをこちらへ渡せ」

 それは、あの時部屋にいた四人組だった。そのうち2人は銃を持っていた。リーダー格の男は続けた。

「ここで、パラサイトを渡せばお前の脱走の罪を許し、解放してやる。さぁ、早く」

 マッキーは、少し戸惑ったが、ふっと、拳を徹の鳩尾に入れた。徹は、ふらりと倒れて、気を失った。

「これでいいんですか」

 マッキーは冷たい目でこう言った。四人組も満足したのか、顔を見合わせて頷き、気絶している徹を抱え、奥へと消えていった。




 あれから2ヵ月。俺、新牧徹は卒業を向かえた。普通に証書を受け取り、普通に体育館を出た。

 

 本日は晴天。どこかすがすがしかった。けど、びっくりだ。その場しのぎで使った作戦で、こんな事になるなんて…。

 実は、あの時、俺は意識をマッキーに移したんだ。そして、既に意識のない徹の体を殴り、向こうに引き渡した。制限時間が来るまでは…というその場しのぎのつもりだった。けど、俺は今でも、ここにいる。オリジナルの新牧徹、マッキーの中に。これは俺の推測だけど、俺が他の人に意識を移すときは、その人とうまく波長が会わないから、制限時間があったんだと思う。けど、俺の体を造るもとになった、オリジナルの新牧徹とは、波長がぴったり合う。だから、こうして「一つの体に二つの意識が共存」っていう状態になったんだと思う。けど、俺の体が抜け殻だってのはすぐにばれて、また捜索を始めやがった。けど、オリジナルの新牧徹に入ってるなんて考えなかったみたいだな。

 まぁ、まだあいつらへの恨みはまだ消えてないし、これから、2人で1つの体で倒していこうかな、なんつって…









皆さん初めまして。

僕はあまり長い文を書くのは得意ではないので、いろいろ切り捨てていったんですが、何か、最終的に味気ない感じになってしまって…

いろいろ、教えてもらえると光栄です。

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