おいコラ、二股ヤロー。
『後乗車ありがとうございます。このバスは~~...』
プシューーッ..ブォォォォーーッ....
帰りのバスの中、私は今、絶体絶命な局面にもがき苦しんでいる。 もう、パニック発作寸前だ。 バスの中がこんなにも危険なところだったなんて!
今、私の隣にはブライアンが座っている。
行きの車内では全然気にしていなかったが、バスの席の隣同士ってもの凄く近い! 触れるか触れないか寸前の腕とかもうヤバすぎるし、安易に横を向こうものなら、かなりの至近距離でブライアンと目が合い爆死確実。 ならば見なければ良いと思索すれば、何のその。この距離は嗅覚にも攻撃を仕掛けて来るのだ! イケメン特有のフェロモン臭、恐るべし!!
ドッドッドッドッドッドッーーー
落ち着け、私! 余計なことは考えるな! 無になれ、無の境地を目指すのだ!
無無無無無無無無.......
『ちょっと~、後ろの席にめっちゃカッコいい人座ってるんだけど~!』 キャキャ..
『マジだ! モデルかな?!』『となりの子、彼女? いいなぁ~!』 キャキャ..
高校生らしき女子達がこちらを盗み見してはキャッキャ言って騒いでいる。
グワァーッッ!! 勝手に盛り上がってんじゃねーーよ! 彼女じゃねーし! ただの友達だし!! こちとら平常心を保つのに必死なんだよ!!
私の『無』を邪魔するなーーーッ!!!
無無無無無無無無.......
『、、モモ、今日は楽しかった?(ニコッ)』
ドキッ!!
「う、うん。」 フィ...
うわっ、、間近でこの笑顔は強烈! 『無』ムリーー!!
『、、そっか。 良かった。』
ブライアンは普通だ。 おかしいのは私だけ。
山頂に着く頃には胸の高鳴りは収まったが、必死にこうして平静を装わなければふとした瞬間に直ぐにドキドキしてしまう。
『モモ、今日はごめんね、、やっぱり上級者コースは疲れちゃったよね、、。』
ブライアンはずっと私を気遣ってくれている。 変な態度をずっとしている私に気分を害してもおかしくないのに。 いい加減、ちゃんとしなきゃダメだ。 頑張れ私!
「良い運動になったし、大丈夫だよ! ブライアンこそ疲れたでしょ? まだ駅まで30分もあるし少し休んだら? 駅に着いたらちゃんと起こしてあげるから安心して寝ても良いよ!」
『じゃあ、ちょっとだけ...』 ウトウト...
『...スヤスヤ...スヤスヤ... 』
チラッ、、、 どうやらブライアンは寝たようだ。
正直、今の私にはこの状況で30分もブライアンと話すなんて無理だ。 寝てくれると有り難い。
チラッ、、 うわ~~っ、まつ毛の長さえげつなっ!! 肌もツルピカやないか!! 何これ、ホントに同じ人間? これはもう、天使じゃない?
キラキラ... 太陽の日差しがバスの窓から差し込み、ブライアンの蜂蜜色の髪に反射して宝石が散りばめられているようだ。
「綺麗...」
本当に綺麗な子。 性格も良くて頭も良い。 ブライアンを知れば知るほど誰もがその虜になってしまう。
学園に入学して1ヶ月たったが、ブライアンフィーバーは収まる処か更に先鋭化され、此ではいけないと学園公認のブライアンを愛でる会が発足されたくらいだ。
因みにリーダーは懐かしの三浦ミルクちゃん。 彼女は中1の終わりにセナ君に告白したが敢えなく玉砕し、ここ最近は大人しくしていた。 ブライアンを見つけミーハー心に再び火がついたようだ。 毎日のようにブライアンに話しかけに特進クラスにやって来る。
まぁ、気持ちは分からないでもないけどね。 ブライアンは誰から見てもとても良い奴だ。 ファンの子達がどんなにウザイ絡み方をしても冷静に接し、決して面倒臭いと蔑ろにしない。 この前なんかブライアンと一緒に写真を撮った子が抜け駆けしたと集中攻撃を受けていたのを助けるために、希望者全員と写真を撮ってあげていた。 少なくても50人近くはいたから昼休みが全部写真撮影で終わってしまっていた位だ。 そんなこと中々出来る対応じゃない。
「凄いな、、ブライアンは、、。」
『..んん..ムニャムニャ...』 コテ.. フワッ..
ーーー ドキッ ーーー
ブライアンが私にもたれ掛かってきた。 体温と香りを否応なしに意識させられる。 触れている腕と肩がジワジワと熱をおびて、鼻から吸い込む息がブライアンの香りを私の脳まで届ける。 ムスク系の爽やかな香りと、仄かな汗の香りが混ざりあって、何かもう、、、
「もう、、ムリ。 苦しい、、」 キュ~~ッ...
パチッ 『...モモ.?』
「うわっ!!」
この距離の上目遣いヤバいって!! ドクンドクン... 心臓がうるさい。
不味い、、ブライアンにバレる!!
『モモ、、顔が赤い。 それに、心臓の音が、、』
バ、バレたーーーーッ!!! どどどどうしよう、、どう切り抜ける?!!
『モモ、もしかして、、僕の事意識してるの? ...天狗山でおかしかったのも、そのせい?』
ドッドッドッドッドッ...心臓がこれでもかっていうくらい脈打つ。
頭が真っ白になり言葉が浮かばない。
かぁぁぁぁあーー... バッ!! 恥ずかし過ぎてもう顔を上げられない。
「いや、、あの、、これは、、その、、、ごめん! キモイよね?! 時間がたてば直ぐ元に戻るはずから、今は許して!」
ギュ...「ギャッ!!」
急にブライアンが抱き締めて来たから変な声が出てしまった。
『気持ち悪くなんかない。 ずっとそのままでいてよ。 僕はずっとこの時を待ってたんだから。』
待ってたってどういうこと?
意味が分からず、思わずブライアンを見上げる。
『プファ..♡ 、、嬉しすぎて顔がニヤけちゃう。 僕の方がキモイよね? ニヨニヨ...』
何だ、この表情は? どういう心情?? 友達だと思ってた女が、バカみたいに自分のことを意識してるのに、それが嬉しくてニヤケが止まらないだと?? ...何故???
『キャー♡抱き合ってたよ~♡』『ラブラブ~♡』ザワザワ...
他の乗客達が私達の様子に気付きだしてザワつきだした。
『ごめん、急に抱きついて驚いたよね。 続きはここじゃ何だから、バスを降りたらちゃんと話すね♡(ニヨニヨ) 』
何だか良く分からないが、話を聞けば私のこの良く分からない気持ちも何なのかハッキリするかも知れない。
プシューー...『後乗車ありがとうございま~す。』
ブォォォォーー...
『モモ、家まで送っていくよ。話したいこともあるし、ね♡(ニコッ♡)』
「う、うん。」 ドキドキ...
やっぱり2人切りは気まずいな。 今すぐにでも走って逃げ帰りたい衝動に駆られる。 だけど、それをやったらそれこそブライアンとの友情はなくなってしまう。 ここはちゃんと話を聞かなきゃ、、。
『クスッ、、ヤバい。 可愛すぎる。』 ボソッ..
「え? 何か言った?」
『ううん、何でもないよ。 さぁ、行こう!』
テクテクテクテク...
もうすぐ家に着いてしまう。 結局、ここまで大した話はしていない。
まぁ、それならそれで良いけどね。 私は早く一人になって、この浮わついた気持ちを整理したい。
「ブライアン、今日は変な態度ばかり取って本当にごめんね。」
『モモ、謝らないで。 僕は本当にモモが僕の事を意識してくれる事が嬉しいんだ。』
テクテクテクテク...
「さっきもそれ言ってたけどさ、おかしいよブライアン。 普通、友達に変に意識されたら困るでしょ? しかも、私には先輩もいるんだし、厄介事に巻き込まれたくないじゃん。」
『僕はモモに関われるならどんな事でも進んで関わりたいよ。』
「(ドキッ)、、あのさ、ブライアン。 簡単にそんな事言っちゃダメだよ。 私は友達だから大丈夫だけど、他の女の子にそんな事言ったら誤解されちゃうよ。」
『他の子になんて、こんなこと言わないよ。』 グイッ..
ブライアンが立ち止まり私の手を取る。
「ブライアン?」
ブライアンに掴まれた手が熱い。
『4年前、僕は日本に来れたことを運命だったと思ってる。』
「運命?」
『そう、、運命。 ここでモモに会って僕の人生は大きく変わった。 友達も出来て、両親との仲も改善されて、人生に光が差したんだ。』
ブライアンの目が私を絡めとるように憂いを帯びているように見える。
まさか、だよね?
『モモ、君が僕の光だよ。 僕が日本を離れる時に言った言葉、覚えてる? 僕はモモに会うために日本に来たんだよ。 ずっとモモを忘れられなかった。 会えない間もずっとモモが心の中にいた。』
この流れは、、 《 ブライアンは異性として見ているから 》
ナヨ君は間違っていなかった。 間違っていたのは私だ、、。
『 僕は、モモが好きだ。 』
ブライアンは4年間もの長い間、私の事を思ってくれていたのに、ずっと気付かずにいたなんて私はなんてバカなんだ。 私には先輩がいるのに。
「ブライアン、私は、」
『簡単に答えを出そうとしないで。 モモが先輩を好きな事は分かってる。 でも、今日初めて僕の事を一人の男として意識してくれたでしょ? お願いだ、モモ。 僕のことをちゃんと見て。 今の気持ちから逃げないで、ちゃんと向き合ってよ。』
「で、でも、、」
ギュ、、『よく考えて、モモ。 僕なら何時でもモモの側に居られるよ。モモが会いたいとき、モモが話したいときに僕はモモの側に行く事が出来る。モモに寂しい思いなんて絶対にさせないから。』
「ブライアン、、。」
『今日は疲れただろうからゆっくり休んで! じゃあ、明日学校でね!』
チュッ♡ ーーー !!! ーーー
「ちょ、ちょっと!!」
完全に不意打ちを食らった。 ブライアンにキスされてしまった。
『フフッ♡ これで益々、モモの頭の中は僕でいっぱいになるでしょ♡ じゃあね、モモ!』 バイバイ..
ブライアンは帰って行った。
「うぅぅぅ~~、、も~~っ、こんなの洒落にならないって、、」
『おいコラ、二股ヤロー。』 ボソッ
ドキッッ!! 「ギャッ!! ナ、ナヨ君!! 人の家の前で何やってんの?!」
グゴゴゴゴゴゴーー...




