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秘密の思い


最初はただ純粋に困っている人の力になりたいだけだった。

そうするように親からも尊敬する師範からも教えられていたから、それが当たり前だと思っていた。


『おいデブ!そのボールは俺達が使ってたんだぞ!返せよ!』

ゴンッ!! 『いたっ!!殴ったな!このヤロ!!』


「まって、大輝君!女の子殴ったらダメだよ!この子も一緒に遊びあたかったのかも。君も一緒に遊ぶ?」


『・・・(ニヤッ)』 バチンッ!!!

「痛!」

『勇気君大丈夫?!お前何で勇気君にボールぶつけたんだよ!あ、待てにげるな!』


今思えば最悪な出会いだったと思う。

でも、まだ小学1年生で幼かった俺は自分が心を開けば誰とでも友達になれると思っていた。

だから皆がアイツに嫌がらせされても、俺自身も嫌がらせを受けても諦めずにアイツに声をかけ続けた。

そうしてる内に先生達に席替えとクラス替えの事を相談された。最初は皆がそれで楽しく学校にこれるならそれでいいと思った。何よりアイツが望んだと聞いて、俺の気持ちを分かってくれたんだと嬉しくなった。


年を重ねていくとアイツは俺の事を好きだと言って纏わり付いてくるようになった。好きだと言ってるのに、やってることは俺にしてみれば嫌がらせでしかなくて、好きな相手に何故そんな事をするのか全く理解できなかった。それでも俺はアイツを突き放そうとはしなかった。どんな奴でも除け者のようにはしたくなかったから。


でも、どんなに俺が頑張ってもアイツは俺や皆に嫌がらせをやめなかった。寧ろ俺への嫌がらせは皆より酷くなっていた。理解しようとしても全部アイツが台無しにする。5年生になり、もう我慢の限界がきていたんだと思う。


「また、お前か。ボール返せよ。」

『イヤだ。このボールは私が使いたいの。セナ君には特別使わせてあげるから、あんな奴ら放っておいて私と遊ぼ。』


そうい言って捕まれた手に、今まで溜め込んでいた感情が爆発してしまった。



「いい加減にしろ!!」バシッ!

『ブヒッ!!』ゴロンゴロンゴロンゴロンーー


やってしまった。あいつに弱みを握られてしまうと思った。

アイツの怪我を心配するより先に、この後自分の置かれる状況の恐怖に囚われた。


その日、病室でアイツの寝ている姿を見て、自分に対して嫌悪感が込み上げてきた。俺は知らず知らずのうちにアイツに対して憎悪を抱いていたんだ。始めの頃の思いやりの心はなくなり、何処かでアイツを拒絶していた。俺はどんな時も相手の事を思いやれる人間になりたいと思っていたはずなのに。今度はちゃんとアイツに向き合おう、分かってもらえるまで自分の出来ることをしていきたいと思った。


アイツが学校に来ない間の学校生活は思った以上に平穏だった。

アイツに対しての罪悪感は忘れていないし、ちゃんと向き合うって言う気持ちは変わっていなかったけど、平穏な学校生活が心地よかった。そんなとき誰かがアイツが別人のように変わったと話しているのを耳にした。俺はアイツの問題ある行動を直したいとずっと思っていた。でも、別人のように変わったなんて想像できない。噂は噂だ。余り期待しないよう自分に言い聞かせ、噂話何て直ぐに忘れていた。





『おはよう、セナ君。朝から申し訳ないけど少し時間いいかな?』


「えっ?オレ?・・・いいけど、あんた誰?何でオレの名前知ってるの?」


『モモだよ。広瀬モモ。』


話し方も見た目も別人のようだったから誰だか本当に分からなかった。


『少し時間をもらえるかな。』


向こうから呼び出されることは覚悟していた。文句を言われることも、無理難題を言われる事も覚悟していた。それでも謝罪はしなくてはならない。


「うん、オレもお前にあったら言いたいことがあったしいいよ。」



連れられてきたのは校門から少し離れた、人通りの少ない花壇の横だった。

人気の無いところに呼び出された事で、俺の中で恐怖感がまた大きくなっていくのを感じた。


『あの、私が怪我をした事についてだけど・・・、「ゴメン!!」なさい!!』

「『えっ!?』」


思っても見なかった言葉を言われて頭が回らなくなった。


「あの、あの時の事は最初から最後まで私が悪いと思ってるから。本当にごめんね。それから、今までの事も。セナ君が嫌がってるのに付け回したり、しつこくしたりして反省してるよ。ずっと嫌な思いをさせてごめんなさい!」


俺が今まで心の何処かで抱いていた、一度も口に出したことのない不満に謝罪をされた。予想外の言葉に動揺したが、相手は今まで俺がずっと苦しめられていた相手だと思うと簡単に信用は出来なかった。


「今は、まだお前のやってきた事を許す事は出来ない。お前の事を信用も出来ない。・・・でも、あの広瀬が謝ったんだ。それだけは誠意として受け止めておく。」


そう答えるのが精一杯だった。


それからのアイツの行動は本当に別人のようだった。

周りの皆の力になり、自分に出された課題を一生懸命に取り組む。

自分のことを顧みない行動に自然と目がいくようになった。そしてアイツが頑張る姿を見ているうちに力になりたいと思うようになった。


でも、アイツから俺を頼ることはなかった。寧ろ俺と距離を取っているように感じた。それならそれでいいと自分に言い聞かせ、俺も自分から関わらないようにした。なのにアイツが他の奴と仲良く笑っている姿を見るとその姿にどうしても目が奪われてしまった。何でこんなに気になるのか理由が分からず胸が苦しくなった。

そんな思いも中学に行ったら解放される。そう思っていたのに、入学式の日同じ制服を着たアイツを見つけた時、落胆より嬉しいと思う気持ちが込み上げてきた。それが不思議で仕方なかった。


中学に入り暫くするとアイツがナヨと付き合ってるという噂を耳にした。

予想はしていた。ナヨとアイツは昔から一緒に行動してたが最近の2人は昔とは違って何時も楽しそうにしていたから。分かっていたはずなのに、いざ人から言われるとまた胸が苦しくなった。


『4組の広瀬さん、可愛いよな~。小宮君羨まし~。』

『ナヨと隊長は付き合ってないよ!ただの幼馴染みって隊長言ってたもん。』

幼馴染みの伊藤がクラスの男子に言った言葉に胸がまた高鳴った。でも、この胸の痛みが何なのかわからない。


「伊藤、誰かの事になると急に胸が高鳴ったり、苦しくなるのって何だと思う?」

『う~~ん、状況にもよるけど()じゃない?』

「恋?でも、相手が何考えてるかもわからない子でも?」

『だったら話して見ればいいじゃん。話してみたら分かって来るかもよ!』


それから少し強引だと分かっていたが、この気持ちが何なのかはっきりさせたくてなりふり構わずアイツに近付いた。思いがけず2人で過ごす時間も作ることが出来た。アイツといる時間は楽しかった。でも、まだこの気持ちが何なのかわからない。そんな時、アイツが部活の先輩を連れてきた。


先輩といるアイツは何時もと違っていた。今まで見たことがない目線で先輩を見つめ、頬をうっすら染めて楽しそうに話しかける。

全てが俺の知っているアイツじゃなかった。こんな表情もするのかと、その姿に見惚れてしまった。その顔を他の誰かにじゃなくて俺に向けて欲しいと思った。




あぁ、そうか、、。 俺は、、、広瀬に、恋をしているんだ。




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