3話 運命の急展開
ー次は紅茶橋~、紅茶橋です。ー
そのアナウンスで重い腰を上げ下車をする。
さて、紅茶橋に下車したが僕がこんなところにいてもいいのだろうかと問いたくなるような世界が目の前に広がっている。まだ改札を出たばかりであるのに東口を向けば人通りが多そうなおしゃれな女子高生やらイケメンなどのための僕とは縁のないようなおしゃれな店ばかりが目に付き、反対側を向けば西口方面はどうやら構内のお店ばかりでやはり人が溢れかえっている。
「とりあえず、西口方面へ出るか……」
電話の後詳しい内容をLaneで聞いたがどうやら駅を出て東口方面にあるらしいのでせっかくなら今日は通らなそうな西口方面は次訪れるときのための情報収集として役立つであろう。とりあえず適当に散策するとしよう。
人混みの中で邪魔になりそうな場所で立ち止まっていた足を動かし、西口方面へ向かおうとした瞬間であった。
「あれ? ジンさんですか?」
ふと後ろから今日の朝交わした聞き覚えのある声が聞こえ振りむくとそこには買い物袋を片手に下げ少し疲れたような顔つきのラナちゃんがそこにいた。
「ジンさん、どうしてここに?」
「ちょっとカフェに行こうとしてね、ガーヴァってカフェらしいんだけd……」
「あ~、ならこちらではなくて反対の東口を出て右に曲がり、少しすると左側にコンビニがあるのですがそこを左に曲がると看板があるのですぐわかると思いますよ。なんならご一緒にお食事でもとりませんか?」
なんと美女からのお誘いである。悪いなデイズ、お前より先に女の子と行くことになりそうだ、と言いたいがあいつと先に約束したので今回はお断りさせてもらうか……
「あぁ……その件なんだが、さすがに今日はパスで――」
「ならデイズさんから許可いただくので大丈夫ですよ」
満面の笑顔でラナちゃんは返答したが不思議なことはなんでデイズのLane知っているんだよ……いや、心当たりがあった。あいつとりあえず好みの子には片っ端から交換する奴だった。
「そう……ならいいけど」
なんて間抜けで素っ気ない返事をしたが、その間にデイズと連絡を取りOKをもらったようだ。途中デイズに対して脅しみたいなのが聞こえたが聞かなかったことにしよう。デイズ、なんか、ごめんな……今度なんか奢るわ。僕は遠くの空……は見えなかったので駅の天井を見上げた。
「とりあえず疲れたでしょ? 荷物持つからさっさと教えてもらったカフェ行こうか」
実際、今日は30度超えるほど暑く少し歩くだけで額や背中から汗がダラダラ垂れるし僕も彼女も無意識に手で仰いでいる。そんな中であちこち訪れたであろう荷物を持っていれば早めにどこかで休みたいであろう。てか、僕もなんだかんだ屋内に行きたい。ここまで暑くなるとは思わなかったため朝着替えた服装で来てしまい後悔せざるを得ない。
「本当ですか! さすがジンさん、モテないけどやることはイケメン!」
「だから最後は余計だって……ほら行こう。なんか人気のカフェ店らしいから入れなくなっちゃうよ?」
東口側へ行こうとした僕に慌てて裾を掴み、ナンセンスと言わんばかりに左手の人差し指を自身の顔の前でチッチッチと小ぶりに振り、その指で西口側のほうを指さした。
「ガーヴァもいいところですがあちらのほうに私のおすすめ店がありますからそちらのほうへ行きませんか? マスターさんと仲いいので何か一杯くらいなら奢ってもらえますし特にデザートがおいしいのですよ!」
そう説明している時の彼女の目はとても生き生きと輝いておりこれでは反対もできない。そもそも反対する理由もない。
「ならそこへ行こうか? そこまで言うならちょっと気になるしね」
「では、ジンさんは絶対わからないでしょうから私がカフェまで案内させていただきます。それではおよそ60m先を右に……」
頼む普通に案内してくれ、と心の中で祈ったが無邪気な子供がガイドさんごっこをしているように案内しながらあたりを説明している姿はいとおしく感じると同時にやはり友達がいないんじゃないんかと心配になってきた。ただ精神年齢が低いだけな気もするけどここまでギャップも激しく口調が変わってしまえば不安になる、情緒不安定すぎるからな。
「……なんか、嫌なことあったら相談してね?」
「ん? なんか言いましたか? あっ、そろそろ着きますよ~」
毎度のことであるが彼女のことが心配すぎる、ほら、気が付けば目的地に着いてしまった。行く道なんて最初の20mまでしか覚えてないし、途中で別のおすすめ店を教えてもらったり学校での出来事を話してくれてた気もするがこれっぽっちも記憶にない……てか、学校の話は聞いておけよ僕! 友達いるかどうかわかったじゃないか。
無駄に頭をフル回転させながら彼女のおすすめする店は人通りの少ない古びた建物の2階にあるようなので階段を使って上ったが、彼女が先に上っているため健康的なお尻が僕の前で誘惑している。胸にばかり目がいってしまっていたが結構エロかったため釘付けになってしまった。彼女はまた何か話しているがもちろん話は聞いていない。
~チリーン~
「いらっしゃい」
「マスター、お久しぶりです」
マスターと目が合った僕は軽く会釈した。ところどころ黒が混じったグレーで染まったオールバックヘアー、右目は黒目であるが左目はルビーのような美しさの鋭い眼光、そして高身長でドスのある深い声……つまりイケオジってやつだ。
店内はカフェというよりバーのような昼間であるのに薄暗い照明で照らされており明かりはほとんど窓から照らす太陽を頼りにしているようであった。その窓も決して部屋を照らすのに向いておらず、言っては悪いが店内はいつ潰れてもおかしくないほど集客率がひどく僕ら以外誰一人いない閑古鳥が鳴いている状態だった。本当におすすめ店であるのだろうか、はたまた知る人ぞ知る隠れ家的名店なのかもしれない。
「ラナはいつものでいいか? あとこれ、彼氏さんにメニュー渡して」
「メニューはありがたいですが冗談は顔だけにして……ください、ジンさんは彼氏ではなくただのお隣さんですから、そうですよね?」
いつのまにか先程の話し方が嘘だったかのように元通りの口調のクールなラナちゃんに早戻りしていた。
しかも地味に二つの意味で振られるし天然なんだろうがこれ以上僕のメンタルを削らないで! ジンのメンタルはもう0よ!
「ふっ、まぁいい。それよりもとっとと座って何を頼むか選びな。飲み物と何か一つ奢るぞ」
マスターは彼女へ向けていた視線をチラっと僕のほうに向けて鼻で笑った。そしてどすい声でせかされ僕は彼女に手招きされた日当たりの少ない端のテーブル席へ向かい合って座る。
(どれ頼んでもおいしいので直感で頼んでも大丈夫ですよ。ちなみに私のおすすめは看板メニューでもあるこのデカ盛りストロベリーパフェですね。なんと、マスターこだわりのクリームでわざわざ世界中から素材を探したほどなんです)
とささやき声で僕に訴えかけてきたが
「ラナ、お前が食べたいだけだろ。それだけは金払ってもらわないと困るんでね」
「それは気のせい……ですよ」
その割にはちっ、バレたかという顔つきである。まぁ、マスターこだわりなら食べてみたいし別にラナちゃんのためではないからね!?
「あ、それはお金払うのでこっちのサンドイッチいいですか?」
僕はメニューを持ち上げメニューの左真中あたりを指さし、イチゴの生クリームサンドイッチを頼んだ。あまり甘いものは好きではないがここのマスターは余程甘いものに目がないようだ。デザートメニューが基本クリーム三昧であるのがその証拠、そのなかで僕の好物でもあるイチゴのサンドイッチを選択。短絡的であるがおそらくイチゴもこだわっていると思われるためである。
「……」
無言になったマスターは数十秒間オッドアイの鋭い眼光で俺を睨みつけたがしばらくすると「ふっ」と鼻で笑い店内より少し明るい厨房の奥へと消えていった。
「安心してください、あの人悪い人ではないんです。ただ言葉数が少なくて誤解されやすいだけなんです」
そう言いながら余程仲が良いのだろうか、厨房で調理するマスターのほうへわざわざ振り返り誰なのかわからないクールな口調で時折急かし、そうするたびにマスターのうるせーぞというくだりを繰り返していたが飽きたのかそのままテーブルに突っ伏しそのまま睡眠モードに入ってしまった、と思いきやすぐに姿勢を正しそれと同時に厨房から頼んだ料理がマスターの両手に乗せられてテーブルに運ばれてくる……厨房から出た瞬間から目を疑わざるをえなかった。
確かに僕はデカ盛りストロベリーパフェを頼んだ、だが顔の3倍以上もあるサイズだなんて一言も聞いていない。見ているだけで胸焼けしそうである。ラナちゃんのほうはというと慣れているためか目を輝かして食べてもいい? まだ駄目? という犬のようなジェスチャーで待っている。僕はどうぞというジェスチャーを彼女の覗き込んだ右側から見えるように左手で仕草を見せた。大丈夫だとわかると彼女は食べなれた手つきで食していく。今日でわかったことはおそらくこの子は気を許した人間以外ではクールを装っていて、日頃慣れていないことをしているため発散の矛先が僕やマスターに向かっているのだな。しかし、これで1000円は安いうえにラナちゃんのことが知れたので元以上を取り戻してしまっている。
「ねぇ、マスター」
その発した言葉で場は僕を除きピリッとした空気になり不穏な空気が流れ始めた。先程のような和やかな雰囲気はもう存在しない、目つきの変化、呼吸が殺気をまとっている。
(あぁ……正確な数は何人だ、ラナ)
彼女は耳をすませ即座に
(店前に少なくとも2人、階段には1人待機しているわね。それ以上はわからないわ。数を考えてかなりの手練れかしらね、そうでなくてはここまでの少数部隊を送り込んでくるほど頭が回ってないなんてことないわ、と思いたいけど金で雇われたただの賞金首かもね。歩きがわりと雑)
(まぁ、昼ということもあるからだろうがそうか……なら俺が行こう。万が一のためにやつを呼んでおいたからそしたらお前はそいつと一緒に本拠地に逃げな)
(……わかったわ)
話が見えてこない、質問しようと口を開いた瞬間、マスターの腕から放たれた何かが頬をかすめる。恐る恐るかすった場所を手で拭うと乾いた鮮血が拭った指先に伸びているのがわかる。
(すみませんが今はただ私たちだけを信じてください)
彼女は声を潜めてクールな口調で諭した。僕はただ雰囲気に飲まれただ首を縦に振ることしかできなかった。
数分後外から黒服のコートに身を包んだ男2人が玄関を蹴破り銃を構えるが店内は人の気配すら感じない。男たちは静かに銃器をおろすと急に視界がぐるりと360度回転し身体から力が抜け膝から落ち目の前が暗くなる。もう一人の男はそれを見てまた攻撃態勢に入るがもう遅い、同じように男は崩れ落ちた。
「ったく、俺の店を汚すんじゃねえ……さてあと1人は……なんだラナがやったのか。彼氏どうしたんだよ」
階段から引きずられ遺体となった亡骸をラナによって雑に投げられた。
「血は流さず殺したよな? あと彼氏どうした」
「もちろん、こんなの朝飯前よ。あとジンさんは彼氏じゃないわよ!! ジンさんは……」
「ここだ、ギリー」
そういうと後ろから別の人物が入ってきた。少しこもった声に電車で席を1.5人分使うほどのなかなかの巨体でマスターと変わらぬ身長のはずが圧倒的存在感示し、そして丸眼鏡とキャラクターとしてはかなり濃い男が扉をくぐって入ってきた。
「ジンとやらは僕の空間魔法で安全にかくまってますぞ……でこいつらもいつも通り収納して処理すればいいんだな?」
「あぁ、すまないがいつも通り頼む、アグリー」
「アグリーいつもごめんなさい、面倒な仕事ばかりやらせちゃって……」
「いえ、僕は戦闘系の能力ではないのでいいんですよ、お二方。とりあえず先にジン殿を出してからにしましょうか」
そう言うと彼はおもむろに右手を上げ魔力を込めはじめると即座に時空が割れ始めかくまっていたジンを丁寧に出し、入れ替わるように遺体たちを異空間に放り投げながら、
「ふう……とりあえずみなさん、あらよっと、基地に帰ります?」
処理しながら質問する彼にギリーはドスの利いた声を部屋に響かせ即座に
「あぁ、あと俺の店のほうの処理も頼む。ったくもう喫茶店なんてやらね」
「それがいいと思いますよ、とりあえずみなさんここに入って」
アグリーという人物の言う通り先程とは違い4人一気に入れる幅の異空間に入ると僕らは別の部屋の中に転送されていた。
それはまるでどこでも〇アのごとくあっという間で知らない部屋に知らない人物たちが溜まっていた。
「3人ともおかえ……そいつ新人?なら今日は歓迎会だな」
小4くらいのロリ身長に煌びやかな金髪、睨みつけるような鋭い眼光、しゃべるたびに見える八重歯からの身長のわりにふくらみのある適度に発達した胸といわゆる美少女だ。
「え、僕が新人? てか、なんで仲間になることになって……」
慌てふためく僕に金髪ロリには滑稽に見えたのであろう、高く耳に刺さる笑い声が部屋に響く。
「おいおい、お前ら3人のうち誰も説明してないのかよ。んじゃ、とりあえず簡易的説明をするとうちじゃここに連れてきたやつはみんな強制でファミリーになるんだ。ボスは帰ってきていないが私が代表して言おう。ようこそ『革命軍:FRA』へ」
30秒もない言葉が平凡な僕の毎日をたった一日でひっくり返し、歩むはずであったであろうありふれた道が僕の頭の中で崩れていく音が確かに聞こえた。
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