表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

1話 日常

 ―ガタガタ―

 

「……、……い、おい! 起きろ! ったくよく戦争前だってのに寝ていられるよな。その図太い神経、皮肉込めて褒めてやるよ」


 いかつい声が鼓膜を突き抜け頭に響き耐えられず俺は目を覚ました。

 ここは……どこだ?ものすごくガタガタ揺れている。俺も無理やり揺らされたため目覚めが悪い。加え半目で寝ぼけているせいであろうか、霧のようなもやのせいでよく顔が見えない。とりあえず男のようだ。俺の倍もあるような大男のようだ。

てか、皮肉って言っては皮肉にならないのでは……そんなことを思いながら誰かが瞼にぶら下がっているのではないかと思うほど重い瞼を先程より大きく開いてみせた。

 すると女性であろうか?覗き込むようにこちらを見ているのだろうが、やはり同じく顔がぼんやりと霧がかかっているように見えない。が、服装でわかるし特に……豊満な胸が俺の目の前にあるのだ。


「もー、xxxさんも気楽にいきましょうよ~!。戦争前で興奮しているのもわかりますが、休むのも大事ですし、ね? ね? はー、なんでxxxさんってこうすぐ興奮するんだろう」


 やはり女性だが正確には話し方からして女の子だ。どうやら俺はこの女の子に膝枕してもらっていたようだ。その女の子は興奮気味な声であどけなさがあるが息交じりの声は艶っぽく、そうなると是が非でも顔を拝んでおきたくなるものだが残念ながらそれは叶わない。俺って白内障にでもなったんかな。でも顔限定だしな……


「まぁ、最低限起きて戦闘に加わってくれればそれでいい、そんなに眠いなら寝てろ。戦闘中に支障が出ては困るしな」


「最初からそういえばいいのにxxxさんったら相変わらず素直じゃないんだから。というわけでまだ私の膝上で寝ていても大丈夫よ? 私が勝手に膝枕させてもらったんだけどね。それに私も戦争に参加するけど、足手まといだしせめてこれくらいはしておきたいの……本当はこの肌と肌の温もりを共有していたい、このまま時が止まればいいと思うほどに……」


 彼女の声はまるでどこか行ったきり帰ってこない飼い犬のように顔を見なくてもわかるほど不安げで弱弱しい声であった。そりゃそうだ、戦争だ、命を懸けたこれから戦争であるから軽々しく生きて帰ってくるとは言えない。それでも……


               大丈夫ですよ


 その一言を言いたかっただけなのに急激に瞼が重くなった。霧のかかった彼女の顔が遠くの彼方へ薄れていく。また目を覚ますとき彼女の顔を見られるのだろうか、それよりなぜ彼らの顔を思い出せないのだろうか。たしかに初めてのはずなのに親しみのある彼らを……そんなことを思いながら意識は光も届かぬような、届かせぬような深淵へと沈降していった……


 チュンチュン×2


ふぁー……もう朝か?

なんだか不思議な長い夢を見ていた気がする……それは今まで生きてきた世界とは違うところで生きていたような、でも不思議と親しみのあるそんな現実味のある夢であった。少しの間、どのような夢であったか思い出そうと懸命に努力したがその努力を嘲笑うかの如く掴もうとする指の間からスルスルと抜けていく。

 仕方ないか……夢という幻なのだから……

 まぁ、それはいいとして今、何時……


「……あ! やべ、寝過ごした!」


 時刻はすでに7:40になるところであり、普段大学へ7:55に1限に間に合うために乗る電車の1本前であった。

 僕は昨日部屋干した服、ズボンをハンガーから外し、前後ろを瞬時に確認し腕を通す。そしてズボンに足を通しながらリビングへベルトを探し着替えに30秒。おっと、靴下を忘れていた。再び寝室に戻ったため少しロスしてしまったが、あとは荷物を持って出かければ最悪一本逃しても間に合うだろう。時計を確認すると7:44であった。家から駅まで5分ちょいであるためこれなら確実に間に合うな。そう確信した僕は余裕をもって毎日億劫になるような外界に繋がるこの重い玄関の扉を開けた。


「きゃっ!」


 右側から聞き覚えのある女の子の声が聞こえた。この声は……


「ラナ……ちゃん?」


「あ、ジンさん、おはようございます」


 この子は隣の部屋のラナちゃん。背はさすがに僕よりは低いけれどもモデルのようにすらっとしていてそれなのに同年代の子より目視でもわかるくらい発育している。髪は淡い青で傷んだ様子もなく光沢もあり毛先まで美しく、そして肩にかかるかな程度の長さのショートヘアーに切れ長の髪と同色である澄んだかっこいい系の目をした子だ。

 初めて会ったのは2年前……最初の頃は不良なのかと思ったほど目つきが悪く見えたが、言葉遣いはしっかりしており、挨拶は会えば毎回してくれるし何か困ったことがあれば手助けしてくれるとてもいい子で人は見た目ではわからないものだと勉強になった出会いだった。ちなみにこの子あの日たまたま眠かったため目つきが悪かったようだ。

そして玄関扉でケガさせそうになったにも限らず、今日もいつものように挨拶してくれた。この子に会うだけで一日中頑張れるよ、神様ありがとう!

なんて妄想していると顔に出かねない。ついうっかり自分の世界に入る妄想癖のおかげでこの方、女子に、はては友人たちにさえ「キモい」などと言われてきたのだ。同性の友人に言われるということは本当に気持ちの悪い顔をしているのだろう。せめてこの子だけには嫌われたくない。

 先程までの邪念をコンマのスピードで消し去り、そしてまるであなたのことなんて考えていませんでしたよというばかりの朝起きたばかりの人間のようなけだるそうな声で、


「あぁ、おはよう。あれ?今日って祝日だっけ?」


 ととぼけてた返事をしてみせる。

 しかし、僕がそのように聞いたのにも理由があり、制服ではない私服のラナちゃんがそこに立っていたからである。

 2年も経つのに私服を見たことがほとんどない。大体見たとしても……記憶がないな……ズボンなのは記憶にある。動きやすいとかなんとか言っていて。

 たしかに上から目線の意見ではあるがギャップ萌えでスカートも悪くはない。しかし、やはりあのスタイル、顔ならズボンであろう。

 さて、ごくたまにしか拝むことのできない私服に感極まっているが、先程説明したように気が緩むとどんな面になるかわかったものじゃない。気を緩めるな自分。

しかし、同じ学生であるのに羨ましい限りである。大学は祝日でも学校なのだかr……


「ふふっ、今日土曜日ですよ?」


 彼女らしい慎ましい笑い声が先程の焦燥から徐々に安堵へと僕を解放するがそれと同時に僕の慌てていた声などが聞こえていないだろうか? という羞恥心が込み上げてきた。そして僕は携帯を開き時間及び曜日を確認する……たしかに土曜日である。

 すると、獲物を見つけたかのような目で


「もしかして、平日と間違えていたんですか?意外とうっかりさんですね~、なら、平日は毎日のように呼び鈴鳴らしてあげましょうk……痛い痛い!! 痛いです!」


 とまぁ、いい子はいい子なんだがこのように見た目に反したお調子者キャラに急に変わるんだよなぁ、変なとこで調子乗るし、もしかして友達いないんじゃ……と勝手に想像しながらこめかみを両のこぶしで強く押し続けた。このキャラの時は僕も先程とは打って変わって強気に出られる。


「ひ、ひどいですよ、てかもうやめてください……っと冗談なのに……だからモテないんですよ!!」


「おっと、悪い。だが、最後のセリフはいらなかったぞ。たしかにモテはしないけど……」


「まぁ、私も悪かったですから謝ります。すみませんでした。これでおあいっこにしましょう」


 おおう、先に謝られるとは……しくじった。謝罪の心理戦(そんなものあるのか知んけど)として、謝ったもの勝ちというものがある。

双方がそれなりの非があった場合、先手として先に謝罪することにより出遅れた後手のほうがまるで悪者のように扱われてしまう。後手は強情に謝らずにいれば体裁も悪いため周りの目、社会的地位、その人の人柄、良心に左右されるがかなり有効であり謝罪を受け取れることによりある意味勝ちも当然である。経験上できるだけ知人が多く、静かなところであれば相手も雰囲気に飲み込まれてか比較的うまくいく。

しかし、世の中先に謝ったほうが負けというどうしたらそのような思考ができるのか問いたくなるような、人間性を疑う捻くれた性格をした人間もいるため慎重に実行しなければならない。最悪こちらから謝罪すればしぶしぶ(上から目線であるが)謝罪する人間もいる。しかし、不思議とそのような人間はこちらから謝罪したところで謝り返すことは十中八九ない。低確率だ。しかも、最悪なコンボはそこからマウントを取り始める。

これらのことから謝罪の心理戦と僕は勝手に名付けさせてもらっている。まぁ、謝罪に勝ち負けを考えている時点で人としてダメだと思いますけどね。

 まぁ、つまり本当に非がない時以外は謝りましょう。


「ぼ、僕も悪かった、ごめんね」


 そう謝罪するといつも通りの顔で


「でもなんでモテないんですかね? 悪い人じゃないのに勿体無い」


 ……やはり余計な一言が多い。


「それより、出かけるんじゃなかったの? 友達とか待たせたら悪いしそろそろ行ったらd……」


「一人なんで大丈夫です! でも、そろそろ行きましょうかね。行きたいところたくさんあるので。あ、お土産も買ってきてあげますからね、それでは行ってきます。朝からお話楽しかったですよ~」


 食い気味に答えそのまま言いたいことだけ言い急ぎ足で駅のほうへ向かって行ってしまった。やはり、先程想像した通り友達がいないのだろうか。そう思いながら、よほど楽しみにしていたのだろうか、軽い足取りで駅へ向かって歩いていく彼女のうきうきした背中をこのアパートの2階から左手で柵に頬杖をつき見えなくなるまで見守った。そして僕は朝食をとるために少し軽くなった玄関扉をまた開いた。

お読みいただきありがとうございます。月1を目指して頑張ります。

一部どうしても他作品のアイデアをパクる部分が(他に思いつかない場合)ありますが今後ともよろしくお願いいたします。

誤字・脱字があればご指摘お願いします。

意見・感想お待ちしております。

文字数:3966文字

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ