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聖教国では


上司からの解放されたので、投稿します

赤黒く変色した血、その影のように黒く塗りつぶされた闇の中。光源として灯された燭台の明かりが、聖職者と思われる男の顔を照らしている。

 

 顔を喜色に染め、口元はべっとりと赤黒く色づいていた。教壇に向かい立つ彼──エッダの前には、てらてらと艶やかに光る人型の肉塊が鎮座している。

 

 人型の肉塊の頭に当たる部分は一本の体毛もなく、異様に肥大化した芋のように膨らみ歪んでいた。顔も額縁のような巨大な仮面をつけられ表情を窺うことはできない。胴体もぶくぶくと醜く肥え、熟し過ぎた洋梨のようにぐずぐずとなっている。それに比べ、手脚は身体を支えるには頼りにないくらいに細い。そしてその身体すべてに、数えきれない程の噛み傷があり、じっとりと血液が滲み出している。

 

 そんな冒涜的な物体を彼はひどく真剣な眼差しで凝視している。 名状しがたいものを前にしてるとは思えないほど、妙に涼しい表情でエッダは佇んでいる。彼の顔を改めて見直すと、精悍な顔立ちでストイックな意志を感じさせながら、穏やかな優しい雰囲気を醸し出している。

 

「エッダ様……次の者の番が迫っております」

「あぁ、ライルですか。ええわかっていますとも、しかし今回の神はだいぶ長持ちしているため驚いているのです」

 

 そう呟き、エッダは静かにライルと呼ばれたもう一人の聖職者の方へ振り返った。

 

「まぁ、長く持ったからといっても何も変わらないのですがね。ふふ、では儀式を再開しましょうか」

「はっ、汝ら我らの神に信仰の証を刻み給え!!」

 

 ライルはその澄んだ声を張り上げ聖堂中に響かせた。わらわらと闇の中に潜み、静かに己の順番を待っていた者共が肉塊に幽鬼のように近づいていく。

 

 一人の信者を筆頭にその神に噛みつき己の信仰を示しだす。それを皮切りにダムが決壊するように集まり出し皆一様に噛み付き始める。

 

 噛むたびにその神から──

 

 ひィィィ……

 ぎィィィ……

 

 と痛々しい苦悶の声が漏れ出す。このような姿にされながらそれは生きていた。強制的な回復魔法を重ねがけされ、傷がついたとしてもそれ以上の過剰な回復で肉が盛り上がり再生する。そのような事を続けることであのような醜い肉達磨が完成する。

 

 また、その肉達磨の体液も絶えず供給される麻薬が身体に溶け込んでいる。もしも血を摂取したとしたら麻薬を普通にいれるよりも、濃縮され通常の数十倍または数百倍の快楽が頭の中を駆け巡るだろう。その危険な濃度に伴い、依存性も高くなるのは当然のことだろう。

 

 

 

 

 悲痛と快楽に溺れた甘美な声に耳を傾けて、エッダは神と信者達から満足そうに遠ざかって行く。それに続きライルも急ぎ足で追いかけて行く。

 

「エッダ様、あれはいったい何なんでしょうか。私は時々信仰がわからなくなってしまいます」

 

「良いですかライル。信仰とは魅力的な特質です。最近、入信者も少なくなってきているのは事実です。祈らぬ者達は具体的に何を信じて祈れば良いのかわからず見えていないだけなのです。その見えないものを私はわかりやすく実体化し、よりこの神の教えが素晴らしいものだと広めたいのです。それに、実際に主に現れてもらえれば腐り果てた者達にも信仰が再び戻ると私は信じております。信じる者は救われる……そうでしょうライル?」

 

「──はい。その通りです。今のこの体制を変えるには主に御降臨していただなければなりません」

 

 ライルは遠い眼差しで前を見据える。今この時も救われず、冷遇される者達がいるのだ。その者達の為にもこの教団から救いの手を差し伸べなければならない。再度決意を固め歩き出す。

 

 歩みを進めエッダは微笑みながらライルに注意する。

 

「あぁ、ライル分かってるとは思いますが、貴方はまだ神にその信仰心をぶつけてはいけませんよ? 噛みついた際に、幸福感が強すぎてあの者達のように成り果ててしまいますからね。……私たちは人間でなければならないのです。この意味、聡い貴方なら理解してくれていますよね? それでは掃除や処分諸々任せましたよ」

 

「もちろん心得ております。エッダ様。後の事は私にお任せください。いつものように血を拝借しておきます」

 

 ライルは深々と頭を下げる。

 彼らはそこで話を打ち切り、一人は外に続く階段を上り、一人は再び血と栗の花の匂いが鼻腔を擽る部屋へと戻って行く。

 

 エッダはその汚れた口元を拭きながら薄暗い階段を上がり、重い鉄の扉を開け儀式の間からゆっくりゆっくりと離れて行く。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 サイプレス聖教国、都市が1つという国土は他の国には到底及ばないが、各国から巡礼者が集まり聖地としての役割が強い国だ。その国の成り立ちから軍に所属する人数は少ないが、少数精鋭の神聖騎士が緊急時の護りを固める。

 

 首都は白を基調とした建物が多く、中央の神殿を中心とし円状に街が広がっており、神聖な雰囲気と綺麗な街並みから観光を目当てに訪れる人も少なくない。

 

 この国に住む、約6割がこのアークライト教に入信している、それほどまでにこの国と信仰は切っても切り離せないものとなっていた。

 

 アークライト教は唯一神アークライトを掲げている。そのアークライトの言葉を民衆に伝える役目を担うのが教皇となっている。教皇は民衆の中から偶発的に神の言葉を聞くことができる赤子が生まれる。教皇になる為に性別や容姿などは関係ない。

 

 ただ、エッダの個人的な好みではあるが、見目麗しい純粋無垢な幼児の方がそそられるのは間違いないだろう。そして、その選ばれた赤子を騎士や枢機卿がお迎えにあがり神殿でもって教育を施すのだ。

 

 しかし、教皇はその特異な能力故か寿命が平均より著しく短いのが常だった。例年では約12歳程度で御隠れになってしまうことが多い。

 

 今回の教皇であるフレインも未だ幼くその為、助言や援助をする役割が枢機卿であるエッダと元老院と呼ばれる者達であった。

 

 しかし、既に元老院は腐敗しきっている。どこの世界でも、長く続いた体制は歪む。そのまま放置してまったら最初は少しの歪みでも徐々にそれも大きくなるのは当然だろう。アークライトという唯一神のもとに信仰を集め、その信仰を金に換え女に変える。この歪みがここ聖教国でも起きていた。

 

 

 

 

 

 

 神殿の石畳み造りの廊下に2つの影が伸びる。

 

「なぁエッダよ。どうしたんだ、少し疲れが見えるぞ? お前はいつも忙しそうだからなぁ、僕が変わってあげらればいいのだが……」

 

 小さいな影の持ち主が疑問の声を投げかける。その声は変声期前特有の甲高いもので、あどけなさを感じさせる。

 

 その少年──フレインが信頼し自らの師でもあるエッダにそう問いかけた。フレインはプラチナブロンドの髪に淡い碧色の瞳を持ち、まだ年端もいかぬ少年だが、エッダと目が合うとまるで花のように明るい笑顔を作った。

 

「ご心配ありがとうございます。ですが、教皇様これでも私は元気いっぱいなのですよ」

 

 そう言うとフレインの頭を優しく撫で、お互いに顔を見合わせてクスクスと微笑み合う。

 

「むぅ……。そうやっていつも教皇様、教皇様と呼んで僕のことはただのフレインでいいと何度もいってるだろ? エッダはそういう所は融通が利かないのだな」

 

「ふふ、申し訳ありません。では、今日だけ今だけフレイン様と呼ばせていただきますね?」

 

「うぅ──ー。今はそれで満足するが、別にずっとフレインで僕はいいのだが……もっと親しくなりたいし……」

 

 不貞腐れたようにフレインは頬を膨らませ、納得いっていないという顔をする。そんな彼を見てエッダもはぁ……とわざとらしく溜め息をつく。これが2人の何時ものやりとりなのだ。

 

 

 その様子を慣れた様にフレインを守護する2人の神聖騎士がお互いに顔を見合わせて声を出さずに笑いあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教皇と別れたエッダは1人。

 

 

 虚空を見つめて感慨に浸る。

 

 

 儀式の間にある肉塊は、最終的に腫れて限界を超えその身が爆ける。そして、爆け飛んだ後には必ず胎児の様な黒い塊を遺すのだ。その黒い胎児を次の依り代に食べさせて、徐々に肉人形を育てることが、始まる。その後、時間がたち再度限界を超える……それを何度も何度も繰り返し、黒い胎児を育てているのだ。前回よりも今回の方が胎児は確実に成長している。

 

 

 人々にそこまで求められ、死しても復活する物体が

 

 あるとすれば

 

 それはきっと神に違いないだろう。

 




やっぱりショタは良い文明……

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