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〈間話〉流行りの競技 と シスの旅立ち


次からはちゃんと本編に戻ります。

 悪魔が運営していると言われている孤児院。そんな孤児院では今日も元気な子どもの声が響き渡っていた。

 

 

 

 私は広大な孤児院の敷地にある競技場に教官として立っている。私の目からも地面はしっかりと踏み均され、しっかりと整備されているのが伺える。そこでは今日も10人くらいの少年少女が、魔法の遠距離射撃の練習をしていた。

 

「アンちゃーん、もう始めていいの?」

「いいわよー、さっさと始めなさい」

 

 そう返事をして少し思う。

 たぶん孤児院の外の連中が見たら、度肝を抜かれるのだろう。私の目から見てもこんな小さい子があんな魔法を使えるなんて異常だ。

 

「えーい! そこだッ!!」

 

 バチバチッと紫電が迸り、甲高い高音が耳を貫く。

 

「おい、外しなら次は僕だぞ!!」

「ちぇっ……惜しかったのになぁ。なかなか頭に当たらないよね」

「そりゃそうだよ、100m先の人間の頭を魔法で撃ち抜けるのなんて冒険者最高ランクのあの人とアンちゃんくらいだからね」

 

 

 何をやっているかというと所謂、マト当てというやつだ。このマト当てを行うためには、まず100m先に孤児院の敵を磔にする。

 体の部位ごとに付けられた点数が異なるのでそれを当て、より多く制限時間内に点数を稼いだ人が勝利となる。

 ちなみに脚が20点、腕が30点、胴体は5点。最後に頭は100点だが、マトが既に死んでいる場合は当たったとしても0点扱いになる。

 つまり高得点を取るコツは、マトをいかに殺さずに1分間で脚の先や、腕の先を削るように当てていき、制限時間の最後にブザービーターのように頭を撃ち抜くことなのだ。ちなみに、私が最高得点を叩き出している。ふふ、簡単に抜かれてたまるもんですか。

 

 

 そんな子ども達が切磋琢磨しているをぼーっとしながら眺める。愛するお父様が近くに居ないので、気だるげに子ども達に指示を飛ばす。

 

「あんた達ー、そろそろ休憩にしないと凍らせるわよー」

「「はーい、分かりましたー」」

 

 子ども達は素直に私の指示に従う。一回だけ私の指示に従わない者を凍らせた過去がある。もちろんあとで、他の幹部にこっ酷く怒られたが……。

 

 

 そんな鋭くなっていく私の目から隠れながら、休憩に向かう子ども達。移動しながらバレないように小さな声で話し合っているが聞こえてるっつーの。

 

「アンちゃんほんと怖いよなー」

「サン君とか居ないと直ぐにキレるのやめて欲しいよ」

「ねね、サン君と喧嘩して負けたらしいよ」

「そうなんだ、だからアンちゃん機嫌悪いんじゃ……」

「「それある!! あははははは」」

 

 もう気にしてはいなかったが、舐められないためにも喝を入れる。

 

「糞餓鬼共ッ!! 聞こえてるからなッ!!」

 

 

 そんな怒声を聞き流し今日も子ども達は、技術を学ぶ。今ここで私から魔法を習っているのは、魔法に特に才能がある子達なのだ。この孤児院では最低2つの殺しの方法を学ばなければならない。たとえば、私ならば魔法と徒手格闘、クソ犬ならば剣術ともちまえの牙や爪を使った体術、と言ったように獲得しなければならない。

 

 教鞭を振るうのは概ね私たち幹部が行う。子ども達は、自分の才能に合った授業を選択し受けるのだ。

 

 そんな己に合った技術を学んだ子ども達は、才能の差もあるが約15歳程度で外に出て仕事に就く。ある者は商人、ある者は冒険者、ある者は医師、ある者は騎士。しかし1番なりたい職は幹部である、孤児院の院長の側に侍りお護りする。そんな職に就きたいが為にもっと先にもっと強くなろうとする。すこしでも近くにいるために。まぁ、誰にもこの座を奪われるつもりもないけどね。

 

 

 

 

 

 

 #

 

 その頃、大型総合闘技場、通称体育館では狼顔の青年と薄茶色の髪の少年が激しく剣戟を鳴り響かせていた。青年は片手で少年の嵐のような二本からなる乱撃を捌ききっていた。

 

 

 ──くっそ、まるで巨大な鉱石に剣を打ち付けているみたいだ。まるで手応えがない。それもそうだ僕みたいなやつが、幹部の一人でもあるサン君に勝てる訳がない。いったい、何度打ちのめされたのだろうか。手足に力が入らない。身体は痛くない所を探す方が難しいし、息も荒く満足に酸素を取り込めない。万全な状態とは程遠い。

 

「どうした? もう終わりなのか? そんなものでは何も得られない、全てを失うぞ」

「まだ、まだだ…………まだやれますッ!!」

 

 

 

 でもでも、動かなきゃいけないんだ。院長のために!! 手足がそこにある限り、眼下に排除すべき存在がいる限り諦めてはいけない……それがルールだから!! 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁッ!!」

 

 喉が張り裂けんばかりに叫びながら踏みだし前に走りだす。サン君は獣人だ。懐に潜り込み耳元で大声を出せば、一瞬怯むんじゃないのか? 一瞬、一瞬あれば…………。

 

 

「うん、その気迫があれば合格だよ。少しだけ僕に本気を出させた、誇るといい」

「!? ッ」

 

 何が起こったのか分からなかった、閃光のようにサン君がブレたと思ったら背後を取られて剣を突きつけられていた。

 

「みんなもこの子を見習って修練に励んでくれ、以上解散ッ!!」

 

 ぱらぱらと周りの子が帰り支度をするなか、僕はサン君に駆け寄り決意を込めて宣言した。

 

「サン君! 次に会うときには負けないから、もっと強くなって帰ってくるから、首を洗って待っててください!!」

 

「ふっ。そうかでは今の内、生を謳歌していよう」

 

 そう言い残してサン君は、漆黒のような毛を翻して颯爽に去っていった。

 

 ──騎士になろう、帝国には馴染みのある人も在籍しているし、より己の剣に磨きをかけられるだろう。まずはその人の配下になり、力を付けて幹部になるんだ……そうしたら僕は、僕は初めて『シス』という院長に頂いた名前に相応しい存在になれる気がする。

 

 以前よりも大股で決意を込めて歩き出す。今日僕はこの孤児院を離れる。でもそれは卒業などではない、実家に帰るのに卒業という言葉ないように、この場所は帰るべき家なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 ##

 

 コンコンと扉をノックする音が響く、俺は音に反応しそちらを見る。そこには黒い狼をまるで二足歩行にしたような外見のサンが居た。たぶんサンはさっきまで激しい運動をしたのだろう、隠しきれない獣特有のニオイが鼻を刺激する。

 

「失礼します父上。少しお時間のよろしいでしょうか?」

「あぁ、サンならいつでも歓迎するよ」

 

 嘘だよ、来るなよ。せっかく俺が考え事をしているのに邪魔しやがって。今日の夕飯、何食べようか考えるのに必死なんだけど。

 サンは少し優しくすると尻尾振るから分かりやすい。でも尻尾振ってないと顔が犬だから、全然表情分からないだよなぁ。俺は元々大きな犬が苦手だし怖いし。兎の見た目だったら思ったことを素直に言えたのかなぁ……それも無理か、コイツ強いし諦めよ。

 

「父上、今日もまた一人ここを巣立って行きました。その報告をさせて頂きます。勿論、父上もご存知の通りその者の名前は二代目シスです。初代も剣術に優れていましたが、二代目はそれ以上です。やはり、初代を処分したのは正解だったと思います。それにヤツは優れた師をみつければ直ぐにでも、我々と同じステージに立てると思われます」

 

 そんなに一気に言われたら分からないだろ、俺の脳のスペックはそんなに高くないんだよ!! てか、理解しようとするのを脳が拒否するんだよな。あーあ、多分巣立つと剣って聞こえていたから、剣が得意なヤツが孤児院から出るのだろう。あっ、そうだ。ついでに部屋にある邪魔な物をあげよう。埃かぶってるし無骨で趣味じゃないし。俺は無造作にお目当ての物を掴みサンに渡す。

 

「そうか、では何か餞別を贈ろうかな、んー、この短刀をその子に渡してもらえるかい?」

「なッ!? なるほど……そこまで父上はシスに期待しているのですね。分かりました、このサンが届けておきます」

 

 俺は、にこっといつものように愛想笑いを浮かべて話はこれで終わりだ、というようなポーズをとる。するとサンはあの短刀を届けに俺の部屋から数本の毛を残し出て行った。

 

 もー、サンが部屋に入ると毛が抜けるから掃除面倒くさいんですけど。なんか驚いてたっぽいけど、そんなに使えない短刀だったのかな。前に俺の唯一の友達からもらった短刀だったんだけど……。

 

 

 

 

 ###

 

 

 僕──シスは今、孤児院の正門に立っていた。そこには数人の警備兵が魔物や侵入者を防いでいる。警備兵も勿論この孤児院出身である、見慣れた顔もちらほらと確認できる。

 

 数日分の食料と金銭を持たされ、この荒野を突破しなければならない。不安がないと言えば嘘になる。そんなことを考えていると、後ろから僕を呼ぶ声がする。

 

「おいシス、餞別だ。受け取れ」

 

 シュッと空中を切り裂く音と共に、短刀が飛んできた。このくらいの速度なら孤児院で腐るほど経験をしたので、掴むことなど造作もない。

 

「サン君何ですかこの短刀? これ結構な業物ですよね」

「ああ、それは父上からの贈り物だ。それを渡されるとは……それほど期待されているということだろう」

「……えっ?」

 

 ふと、頬から何かが滴れる感触がした。手を伸ばし確認してみるとそれは涙だった。何が起きたか理解できない、もっと強くならないと感じられないと思った父からの贈り物。

 

「院長に感謝の言葉を伝えてください。この剣に見合うような男になって帰ってきます、それまで僕の代わりに院長をお願いします」

 

 晴れ晴れとした顔しながら、強い意志を込めながら伝える。

 

 

 少し慣れ親しんだ孤児院から離れるのに、足取りが重い気がしたが今では軽やかに前に進むことができる。今はまだ父と言葉に出すことはできないがいつか必ず己の口で伝えてみせる。

 

 あっ、まだ最後に言ってない言葉があった。これを言わないで外に出て行ったら、また怒られちゃう。よしっ、孤児院の正門に体の向きを変え、キレのある動作で頭を下げ、大きな声でハキハキと。

 

 

 

「いってきます!!」

 

 

 

 

 

 

 そうして一人の少年の旅立ちの儀が終わった。向かうは帝国、ある人物の元へそこで少年はさらなる飛躍を果たすだろう。

 


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