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「言えなくて辛かったよね。」

「実は、話そうと思いながらも話していなかったんだけど…。」


手術から三か月ほど経ったある日、近所の友人である八重子さんに夫のことを話しました。ガンのことどころか、入院や手術のことも何も話していませんでした。子供には病名を明かしていないことや、入院先が、がんセンターだけに、子供たちを連れて行ったら病名がバレてしまうので、子供たちをついてこさせないために時間を選んで洗濯物を届けに行っていたことも話しました。

八重子さんはとても驚いた表情をしながらも静かに聞いてくれました。そしてこんな一言を言ってくれました。

「本当のことを言えなくて辛かったよね。一人で抱え込まないといけなかったんだね。」

この一言に涙がにじんできました。言えない辛さを汲み取ってくれた八重子さんの優しさに感謝です。


都合の悪いことは適当にごまかすことだってあるのに、今回は本当のことを言えないことが本当に辛かったです。

家族のことだから悩みや状況を共有したくても、本当のことを言えないだけにそれができなかったんです。


今日も夫のピンクの色えんぴつの箸を見て、悩んでしまいました。家族で色違いで揃えたル・クルーゼのお皿を見て目頭が少しだけ熱くなりました。

色違いのお皿は、ガンと確定する少し前、アウトレットモールで夫が買ってくれたものです。普段ならこのような高い食器は夫がしぶるだろうに、このときは「新しいお皿を4人分、ル・クルーゼで揃えたい。」と言ったら、何も言わずにカードを切ってくれたものです。

お箸を見ては「このお箸ちょうだい!」と娘にねだったことを思い出し、お皿を見ては一緒にお皿の色を決めたことを思い出します。


ケンカもたくさんしたけど、たくさんの思い出があります。単身赴任とはいえ、帰ってきたときにいつも座っている場所に残像を見る日が予定よりずっと早くなるであろうことを思うと本当に切ないです。


前向きにならなければとは思うのですが、切ない気持ちでいっぱいです。

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