表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

どこかで誰かが不憫なシリーズ

友想いな私の限りなき挑戦

作者: 北西みなみ

うちのクラスは結構、仲が良い。


虐めももちろんないし、誰かが困っていたら皆で助けようと協力も出来る、結構いいクラスだと思っている。


そんなうちのクラスで、エイミーと呼ばれる子がいた。このエイミー、報われぬ片想いに悩み、困っていた。


困っていたら助けるのが私達。その時も、エイミーの恋を実らせるべく奮闘したんだけど……。


とにかく、大変だった。


エイミーの話では、既に色々やっているらしい。部活に差し入れをすれば、マネージャーにすげなく追い返され、わざと入ってきたのとは異なる遠い出口を指差される。幼馴染みの恋愛物を一緒に観に行っても、特に意識してる様子もなし。はっきりと好きだと言っても、にっこり笑って「僕もだよ」と返されるに至っては、もう開いた口も塞がらない。これは一人ではどうしようもないだろう。


まず、見た目を大人っぽくしてどきどきさせようと、高校生でも違和感のないメイクを教えてみたり、皆で一緒に服を買いに行ったり。大事なのは中身でも、やっぱり外見の変化は分かりやすいもの。クラスの女子でああでもないこうでもないと話し合って、いつもと違うテイストの服を選んだ。


メイクも併せると、いつものエイミーとはかなり変わった、と満足の出来だったのだけど。


「うぅ、反応がいつもと全く変わらなかったぁ……」


相手はとても手強かった。


それとなく好きだとアピールしても伝わらない。いっそ色仕掛けだ、と、いきなり手をぎゅっと握ってみろと言えば「どうしたの、虫? それとも冷えちゃった? って言われた……」抱き着いたりしてしまえ、とけしかけた日には「足元気を付けてってさらっと言われたぁ」


流石に、女の子の「好き」を受け流せる男。その難攻不落っぷりに、段々とまだ見ぬたーくんに敵意が沸く面々。うちのクラスメイト、蔑ろにしたら許さないんだからね! と思いつつ、一途に想うエイミーに免じて、そんな男やめた方がいいよ、という言葉を無理矢理飲み込む。


けれど、このままでは埒が明かないと、私たちは強硬策に打って出た。


エイミーが何をやっても気にしないのは、きっとエイミーが彼に尽くし過ぎているから。彼は自分が好き勝手やっても嫌われず、ずっといられる自信があるのだろう。二人が会うのが、いつだってたーくんの予定のない時だというのが二人の今の関係性を表している。


ここらで一回、エイミーがたーくんに合わせるのが当然ではないのだ、ということを思い出してもらおうと思う。見てなさい、この鈍感男!


……と、意気込んで行った作戦。それは、うちのクラスの男子をエイミーが好きになったと告げるというもの。実際に実物を見なければ、実感がわかないかもしれないので、クラス一のおちゃらけ男を噛ませ犬につけて送り出した。


次の日、どうなっただろうと期待しながら教室へ行くと……。


「たーくんが電話に出てくれないの……」


一体何が起こったのか。いまいち要領を得ないエイミーを諦め、昨日一緒にいたはずのおちゃらけ男に話を聞く。


「まさかいきなり完全シャットアウトとは……」


それはちょっと予想外だった。エイミーの話では、幼稚園からずっと一緒の仲だったと聞いている。それなら、少しくらい馬鹿なことをしても許してくれると思っていた。たーくんはとても優しいという話だったし。


けれど、今更起こってしまったことを悔いても仕方がない。とにかく気落ちするエイミーのために、私達で誤解を解こうということにして、帰りのたーくんに突撃した。



衝撃だった。


何と、たーくんはエイミーと付き合っていたというのだ。


え?


頭が真っ白になった。けれど、聞けば聞くほど、付き合っていた。もう、疑いようのないほど付き合っている恋人同士のエピソードに、眩暈がする。


結局、最終的にはなんだかんだで元さやに戻れたけれど、私達のたーくんへの罪悪感たるや、この時点でもう既にマックスだった。


いたたまれない。誤解を解くついでに、あわよくば私らの努力の一端を披露し、謝らせてやろうとか思っていた私を殴りたい。たーくんに怒っていたクラスの皆に伝えたい。敵は、たーくんじゃない。真の敵は我が身の内に潜んでいるんだと。土下座すべきはたーくんではなく私達なんだと。


それから。


誤解の解けた次の日。主に、たーくんへの説得に赴いた私達を中心に、エイミーをとことん締め上げた。すると、まぁ出るわ出るわ。


曰く、毎日電話を欠かさず、最後の締めはお互いに「好き」と言い合うことだとか、洋服は下着を除いて九割がたーくんに選んでもらっているとか、しょっちゅうキスされそうになっては自分で逃げて、代わりにほっぺにちゅーしてるとか。


他にも、喫茶店では自分の食べたい物を二つ選んで、たーくんと二人、半分ずつにするのが通常とか、エイミーの言ういつも通りがどう聞いても恋人同士の睦み合いにしか聞こえないとか。


一緒に遊びに行くのに、財布を持っていかなくて平気とか、夏休みは両祖父母の家に一緒に遊びに行ってるとか、たーくんがエイミーのお父さんから家長としての心得を教わってるとか、たーくんの母親からたーくんちのしきたりを教わってるとか、既に、結婚してないだけじゃないか!


挙句、自分たちの理想の結婚式について聞かれ、全部実現してあげるよ、と言われたというくだりなんて、結婚式は誰とするものだー!! と叫びたくなった。いや本当に。


駄目だ。これ、私達がなんとかしてやらないと。


私達は、たーくんへの罪悪感も伴って、エイミーのボケ矯正を試みた。


「だってぇ。急にいきなりぎゅって抱き着くんだよ?」


「何言ってるの。そんなもの、もう二人とも大きくなったんだからやめようって言われたのに、しつこく一つの布団で寝てたあんたに比べたら可愛いものでしょう」


「それに、つい最近まではエイミーも気にせず抱き着いてたのよね? それで何で彼の方からは駄目なのよ」


「だ、だって、たーくん、すけべだったんだもん……」


「恋人に胸押し付けられて、興奮しない男の方がおかしいわ。寧ろその状態で毎回我慢してくれてる彼の努力を讃えるべきでしょう」


「うぅ、皆が冷たい……。付き合う前までは慰めてくれてたのに」


悲しむエイミーにほんの少し、仏心が顔を出しそうになるけれど、ぐっと我慢し鬼になる。


「どの口が言うか。希代の詐欺師相手にこんなにも寛容に接している私達に」


「エイミー。間違いは誰にだってある。重要なのは、間違いを犯した後、自分がどうやってリカバリーしていくかなんだよ?」


「い、委員長……」


我らが頼れる委員長の優しい言葉に眼を潤ませるエイミー。


「分かったら、練習してみようか。さぁ、言ってごらん? 『たーくん、私を好きにして』さんはい」


「委員長ー!! 言える訳ないでしょー! 馬鹿な冗談はやめて!」


「いや、こっちは本気だよ。彼の今までの無念を思うなら、君は自分の身くらい喜んで差し出すべきなんだ」


「え、えっちゃぁーん!」


我らが委員長の性格を理解していないエイミーが悪い。委員長は元からこういう男だ。


「個人的にはとてもいい案だと思うけど、あのたーくんが据え膳をそれじゃあ遠慮なく、と手を付けるとは思えないもの。余計な刺激は与えない方が彼のためよ」


「それもそうだね。なら仕方がない、諦めよう」


「えっちゃん……。私のためだよね? そのために諦めさせてくれたんだよね?」


「そうよ、貴女のため。貴女のために私たちは心を鬼にする覚悟が出来たの」


「え、えっちゃん……。何だか、怖……いえ、何でもありません」


出来るだけ優しく微笑みながら言ったのに、エイミーは何故だか怯えるように腕を抱いた。失礼な。


「さぁ、分かったらちゃきちゃき選んでもらいましょうか。たーくんの好みはどれ?」


「た、たーくんは私の好きなものをいっつも選ぶから、特に自分の好きなものってないんじゃ……ひぃ! 好きだと分かってるのは私くらいですぅー!!」


「ほら、やっぱりエイミーを渡すしか」


すかさず入る委員長の茶々にきっぱりと答える。


「駄目よ。エイミーったら緊張のあまり泣き出すか、宥められて安心してベッド占拠して眠りかねないもの」


「ひ、酷い……」


「酷いのはどっち? 私は、これ以上たーくんを悲しませるような真似をしたくないだけよ」


後ろでうんうんと頷く皆。


あの時、説得に行かなかったクラスメイトもエイミーの話を聞く内に事態の深刻さが分かり、全面協力してくれるようになった。当然だと思う。けれど、一人だけそれを理解できない者もいるようだ。


「ど、どうして一回会っただけのたーくんにそこまで……。まさか、たーくんのこと……」


「その勘違い、続けるようなら殴るわよ」


拳に息を吹きかけながら言うと黙るエイミー。


確かに、彼は、本人だけ見れば悪くはないと思う。どこかで偶然出会ったのなら、タイミングによっては好きになる可能性もあったかもしれない。可能性はそこまで高くないが、絶対にないと断言できるほど低くもない。


けれど、私が今、彼に抱ける思いはただただ罪悪感だ。


あの事件が起こった後。何と彼は、エイミーと一緒にやってきて、私達に謝ってくれたのだ。曰く、自分たちのために尽力してくれたのに、八つ当たりなどして態度悪くして申し訳ない、と。勿論私達は振り切れそうな勢いで首を振り、余計な真似をしてかき乱し、申し訳ないと反対に謝った。もう、本当に穴があったら入りたいとはこのことだった。


結局、皆で謝罪合戦をしていても仕方がない、ということでお互い顔をあげたが、その後の言葉が忘れられない。


『絵美のために力を貸してくれてありがとう。とてもいい友達に恵まれて、絵美も幸せだって思います。どうかこれからも仲良くしてください』


いい人だ。泣きたくなるほどいい人だ。人々を混乱に陥れた張本人は、皆が謝りあっているのをいまいち理解できないような顔して「もう皆、謝り過ぎだよー。大げさだなぁ。これじゃあお話しできないよー」とか言っていたっていうのに。


それでも彼は責めることなく愛想もつかさずに、すっごく優しい目をして愛おしそうに見つめてた。聖者様かと思った。


もう、泣きたくなるほどの申し訳なさしか浮かばない相手、恋愛対象にできる訳がないでしょうが! それもこれも全部、あんたのせいよ、エイミー!


私は若干の恨みも込めつつ、難航しまくる矯正を再開した。いつか私達のクラスメイトが真人間になれると信じて。

さて、今週まで仕事の作業がほぼ待ち状態だったので、突貫で書き上げたこのシリーズ。

出来れば、たーくん絵美ママンと、クラスメイトの愛の鞭を受けた絵美の奮闘まで書きたかったけれど、はてさてどうなることやら。


たーくん側との比較により輝く子たちなので、一緒にあげてみました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ですよねーw 詐欺師と言われても仕方の無いレベルwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ