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第13話 再会

”キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン!”

 終業のチャイムが鳴ると、少佐と俺は校長室を後にした。

 俺は台車を押しながら少佐殿についていく。


「ブィブヒブ。ブヒヒブヒブフブヒヒフフヒブフ?」

(少佐殿。説明会はどこでやるんだい?)

「階段状の多目的教室ね。あそこは大画面プロジェクターから3Dディスプレイも完備してあるし」


「ブッヒブ、ブヒヒブヒーブフビブヒッブブヒーブヒブ」

(だったら、デジタルデータで配ればいいのによ)


「下手にネットに漏れたらそれこそ世界中にばらまかれて、我が特殊情報部の末代までの恥よ! むしろこういうアナログ的な方が、漏洩(ろうえい)の出所がはっきりするのよ。資料の紙だって、あんたら(スパイ)が使う非合法のカメラとかには役に立たないけど、コピー機やデジタルカメラで写すと真っ黒になるヤツだし」


「ブビヒブヒフブ、ブビフブヒフビ?」

(これが終われば、帰れるのかい?」

「午前と午後、二回あるわ。さすがに講義や教練の関係で一度にはできないからね」


「ビヒフブビヒブフビ?」

(メシはどうするんだ?)

「あたしは食堂で食べるけど、アンタの分は校長殿が準備してくれるみたい。さすがに生徒達の前で被り物を取って食事はできないし。もっとも、メニューは私も知らないけど、校長殿のことだから期待していいんじゃないかしら?」


 まぁいいさ。非常食の缶詰や少佐殿の《破壊飯(デストロイフード)》じゃなけりゃ、N国名物のイナゴや蜂の子でもかまやしねえぜ。

 ん? 廊下の奥から二つの靴音が、かすかに聞こえてくる。

 ……男と女。男はかなりがっしりした体格の持ち主、いや、この靴音、聞いたことがある! 


 もしかして国家保安部の大尉殿か!?

 女は歩き方から靴音からすると、少佐殿より”すべてにおいて”小柄な、まだ若いな。新任の士官か?

 二人は廊下の端で立ち止まると、少佐殿に向かって敬礼をする。どうやら俺に潰された右手は治ったみてぇだな。


 少佐は歩きながら敬礼し、俺も台車から右手を離して敬礼する。

 おっと、せっかく某国亡命下士官ていう”設定”だからな。どうせなら、そうだな、Δ(デルタ)公国軍式の敬礼を返すとするか。

 俺たちが通り過ぎると、二人は校長室の方へと歩いて行った。

 互いに見えなくなるまで離れると、大尉が女性士官に声をかける。


「どうした少尉。歩幅が乱れているぞ」

「あ、し、失礼しました! あ、あこがれの少佐殿に見とれてしまって……」

「それだけか?」

「あ、はい! あの豚の着ぐるみの中は某国の亡命下士官と聞いておりましたが、敬礼の仕方がΔ公国軍式でした。そんな情報は聞いてませんので……」


「ほほう、そこに気がついたか。いい目の付け所だ。少尉、本日午前0時現在、特殊情報部が保護している亡命者は何名だ?」

「は、はい、α国の『教授(プロフェッサー)』と呼ばれている科学者のみです!」


「その情報から導ける結論は?」

「は、はい! え~と、もしかして、あの中に入っているのは、特殊情報部の下士官? いや、士官殿?」


「そうだ少尉。他国軍の敬礼を真似することなぞ、情報部や特殊情報部の人間にとっては朝飯前だ。それに『教授』は老体で身長も低い。あの着ぐるみを着て、あの姿勢であの歩幅で歩けるとは思えん。いくら事務職とはいえ国家保安部に配属となった以上、少尉もせめて背格好から姿勢や歩き方まで注視し、判断して欲しいものだな」

「はっ! 勉強になります!」


「……そうか! その手があったか!」

 いきなり立ち止まり、眼と口を開く大尉。

 少尉は何とか背中にぶつかるのを防ぐことができた。

「きゃっ! ど、どうなされました大尉殿!」


「もしかしたら少佐殿は、あの着ぐるみが行う敬礼はどこの国か? そして中に入っている人間が実は特殊情報部の人間だと、生徒達に見破らせるテストを行うおつもりかもな」

「そんなことを!? で、ですが、あの着ぐるみを見破ることができる生徒がいれば、貴重な戦力になります! いや、むしろ我々が欲しいぐらいです!」


「そうだろう。どこの部も優秀な人材は欲しい。もしかしたら今のうちからつばを付けておくおつもりかもな。いやぁさすが少佐殿だ。いや、大佐殿のお考えか? 少尉、このことを記録しておきたまえ。次回の説明会に、我々も何か生徒達へテストを行おう」

「はっ! 了解しました!」


 少尉の声を背中に受ける大尉だが、ふと何か引っかかりを覚えた。

(着ぐるみ……顔から体つきまで隠せることができる。まさかな。いくら何でも校長殿と面通(めんどお)りをしているはずだし、《女王蜂》と呼ばれたあの校長殿が見逃すわけは……)

 

 多目的教室とやらは結構遠いみたいだな。ま、どこの国の士官学校も広いからな。

”キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン!”

 あらら、始業のチャイムが鳴っちまったぜ。


「ここよ。くれぐれもしゃべらないようにね」

 俺は無言で敬礼をする。

”ガラガラ”とドアを開ける少佐殿の後を、俺は台車を押しながら


”ズボッ!”


 ん? 動かない……げっ! もしや! ドアにブラックピッグの頭がはさまったぁ!

 ぬかったぜぇ! 地下駐車場の通用口や校長室のドアは大きかったからな。全然気がつかなかったわぁ!

 俺は慌てて台車から手を離し、頭を押さえながら体ごと前へと押し出すが……ビクともしねぇ!


”え? ちょっとぉ! なにやっているのよぉ!”

 振り向いた少佐殿は小声で俺を怒鳴りつけるが、知るかぁ! そもそも少佐殿、いや、部長殿のせいだろうがぁ!

 ”ふんぬぅ~~~!”

 少佐殿も引っ張ってくれてるが、余計食い込むだけだ。


「少佐殿、いかがなさいましたか?」

 この色香漂う女の声は、女教官か!

 くそっ! 女教官を前にしてこんな無様な姿を見せちまうとは、プレイボーイの名が泣くぜ!


「手伝います! せいやあぁぁ~~!」

 お、ちょっとずつ動いているぞ! がんばれ女教官!

”スポッ!”

 抜けたぁ!

「きゃあっ!」

”ドッシャ~ン!”

 おっとあぶねぇ。危うく少佐殿を押し倒し……。


『ダ、ダメよこんなところで……せ、生徒が見ているわ』


 はあぁぁぁ!? なに言ってンだぁ少佐殿はぁ!?

 ん? 被り物のメッシュからのぞく二つの膨らみ……。

 そうか、頭がデカイ分、コイツの鼻が少佐殿の豊満な胸を押しつぶしているのか!?


 あと、着ぐるみの上から俺の左右の腰を締め付けるモノは……もしや少佐殿の太ももかぁ!?

 なんというお約束! しかも、着ぐるみを着ている為、俺自身全く恩恵を受けられない。これぞN国のことわざで言う『三すくみの生殺し』!


「亡命下士官! 直ちに少佐殿から離れなさい!」

 離れろったって、少佐殿の脚は俺の体を、よっと!


『ああ~ん! 動いちゃイヤァ~!』


「くっ! やむを得ません。ショックガンを!」

 ちょ! 待て待て! 離れるってばぁ! うおおぉぉりゃぁぁ!

”ドン!”

「あっ!」

 ん? 頭に何かがぶつかったぞ。女教官殿か?

 わりいな、こちとら着ぐるみには慣れてなくてよぉ……おおおおぉぉぉぉ!


 メッシュに写る光景、それは、尻餅をついて大股開きの女教官の痴態だった!

 ナチュラルカラーのパンプスが包み込むのは、純白の下着! なるほど、元教務主任である監査官殿の言いつけをちゃんと守っているってかぁ!

 ブラックホールならぬホワイトホールへ引き寄せられるように、俺の体が一歩、二歩と前へ進む。


『いいかげんに! し』


 ……じつはな、ここから少しの間、記憶がないんだわ。


『総員起立! 特殊情報部少佐、及び某国亡命下士官殿に敬礼!』

 女教官殿の号令で、立ったまま気絶していた俺は眼は覚ましたんだ。

 あとで少佐殿から聞いたんだが、俺は少佐殿のアソコ蹴りを土手っ腹に喰らって、天井と壁のさかいに叩きつけられたらしい。

 そして、気絶したままの俺をマネキン人形のように立たせたってわけだ。


 ひよっこたちは一斉に椅子から立ち上がって、初々しい敬礼を捧げてくれる。

 少佐殿は完璧な敬礼をして、俺もΔ公国の敬礼で返した。

 二百人は座れる多目的教室に、生徒は全部で四~五十人ぐらいか? この年代の生徒が三百人で、少佐殿は一応全員分作ったみたいだが、こりゃ骨折り損になりそうかな?


 おっと、俺の股間も女教官殿の白い下着へ向けて、”たくましく敬礼”しているぜ!

 着ぐるみってのはこんな時、人目をはばからず敬礼できて便利だよな。

 男子生徒諸君! 君の股間も少佐殿へ向けて敬礼しているかい? よかったな、今晩の”おかず”を存分に拝めてよ。


『総員着席! 少佐殿、お願い致します』

 俺は段ボールのふたを開け、手袋の上から資料をわしづかみにし、列の一番前の生徒へ後ろの人数分を配る。


 ― ※ ―

 ここでちょっと回想な。回想だからブヒブヒ語はなしだぜ。


『俺はなにをすればいいんだい?』

『プロジェクターとかの操作は教官殿が手伝ってくれるから、資料のプリントを配ってくれればいいわ』


『もし生徒から俺への質問があったら?』

『私が適当に代弁するわ。もし”どこの国か?”と聞かれたら、いろいろな国の敬礼や民族踊りとかして、生徒達を翻弄(ほんろう)させなさい。あと、くれぐれもしゃべってはダメよ。例えブヒブヒ語でもね』


『意外と意地悪だな』

『簡単なテストも兼ねているわ。さすがに《トップスパイ(アンタ)》だと見破る人間はいない……と思うけど、某国亡命下士官じゃないって見破る生徒がいれば、今のうちに粉をかけておきたいからね』

 ― ※ ―


『みんな、資料は行き渡ったかしら?』

 少佐殿がマイクで確認すると

「少佐殿! 一つ足りません!」

 列の一番後ろの女子生徒が手を挙げて叫んだ。


『ごめんなさい。すぐ持って行くわ』

 少佐殿の視線が着ぐるみごと俺を貫く!

 俺は資料を一部手に取ると、あわてて階段を上り、女子生徒へ向けて両手で差し出した。


『ブヒブ(どうぞ)』

 おっといけねぇ、ついブヒブヒ語がでちまった。

「ありがとうございます、亡命下士官殿!」

 女子生徒はわざわざ立ち上がり、資料を受け取った。律儀だねぇ。

 俺もΔ公国の敬礼をして、階段を下り、少佐殿の横で待機の姿勢をとる。


『それでは、ただいまより特殊情報部の説明会を行います。すでに何度も説明を受けていると思いますが、当資料は『軍事機密レベル二』に相当します。皆さん、くれぐれも紛失、漏洩(ろうえい)には気をつけて下さい。それでは資料の表紙をめくって下さい」


 ”ペラペラ”と紙のめくる音が教室中に響くが、俺のシナプスは別の方向を向いていた。


(なんだ……さっきの女子生徒は?)

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