第49話 エマージェンシー・エクスタシー
「ん? N国軍はどうか知らないが、士官学校に入学すればいわば軍属だろ? α国も他国も、入学に辺り各個人のDNAを登録すると思ったが? 死体になった時の身元確認の為にさ」
「ああ、もちろんすぐさま士官学校のデータベースに”ハッキング”して、彼女のDNAを調べたさ。それこそ情報部のメンツにかけて」
「てめぇのメンツと言うより、女の”メンス”がなかったんじゃねぇの。ア~ハッハッハッハ!」
「……『トップスパイ』殿。今は大事な話をしているんだ。少し口を慎んでくれないか?」
部長は俺に真顔を向けてそう呟いた。『天の眼』を青白く光らせて……。
「わ~たわ~たよ! 『天の眼』をこっちに向けるんじゃねぇ!」
「それで秘密裏に私のDNAと照会させたら……99.999……%以上の確率で……父娘関係であるとわかったんだ」
「なんだ、よかったじゃねぇか、尻射よりすっきりしてよ。てかそれって、N国のOTAKUおっさんの理想じゃね? いきなり妙齢の美女が空から降ってきて、娘になるってシチュエーションはよ」
「……そうか、君は独身だからピンとこないんだな。情報部の人間が家庭を持つことの意味が」
「……あ、いや、こりゃうっかりしていたぜ。確かに何か事が起きれば花嫁、いや、あんたの娘が人質になるもんな」
「だから私は、すぐさま軍のデータベースにハッキングして、”自分の”DNAを書き換えたさ。もし私に何かあった時、私と彼女のつながりを消す為にね」
……そうか、アンタ、そこまで考えて、そこまでしちまったのか。
あの花嫁が父親と出会うのは、特殊情報部部長の”格好をした”死体があがった時。
すぐさまDNAを採取され、データベースにて照会されるが、特殊情報部の部長どころか、軍の誰とも一致せず……。
近親者を照会して初めて、この死体が、女性士官の父親だと確認される……と。
……なるほどね。乱交パーティーに明け暮れる我がシナプスが、正常位、騎乗位、そして尻射フェチ部長が大好きな、後背位へとほぐれてきたぜ。
悪いな。アンタのことを鬼畜大魔王って、俺のシナプスに登録しちまってよ。
「いやぁ~! さすがに生きているうちにさぁ~、彼女の母親にしでかした鬼畜行為がばれて、実の娘から銃殺されたくないしさぁ~~!」
「てんめぇ~! 俺のしみじみとした気持ちを返しやがれぇ~!」
「まぁ、おちつきたまえ。それから、彼女はこうも言ったんだ
『最近はそういうことを考えなくなりました。もっと、別の方法があるんじゃないのかと……』
私は独り者で、それなりに蓄えもある。もし彼女に何か夢があるのなら、今までの養育費からクリスマスプレゼント、N国のニューイヤーの風習であるお年玉代、そして将来の為に、快く差し出そうと思ったさ。
『そうですか。ちなみにどのような方法を? 情報部でできることがあれば協力いたしますよ』
『あ、はい……その……将来』
『どうぞ』
『父親よりも立派な男性と結婚して、草葉の陰でも結婚式場の柱の陰からでもいいんです、私の幸せな姿を”見せつけて”やろうかなぁ……と』
「え……えげつなぁ~。N国の結婚式ってたしか、最初に親族だけで結婚式を挙げて、その後、披露宴でゲストを呼ぶんだろ? これってもう、アンタが父親だとばれているんじゃねぇのかぁ~?」
「その時の私の胃は、ミンチのようにズタズタにされたさ。父親だと名乗り出ればすぐさま銃殺。名乗りでなければ、披露宴において彼女の上司である私は、花嫁に一番近い場所に座らされる。つまり、彼女の幸せな姿を間近で見せつけられるのさ。横にどこの”馬”の骨か”鹿”の角かわからん”馬鹿な”男をひきつれてね。……まさにこれは、どんな拷問よりもつらい罰さ」
「別にいいんじゃね? 娘が選んだ男なら、いくらでも”ぶっかけ”られても。たとえ顔やおっぱい、へそに太ももに足、髪の毛や背中、そしてあんたの大好きなケツ、そしてとどめは……」
「言うなぁぁ~~! それ以上言うなぁぁぁ~~! 言えばおまえをぉぉ~~!」
「わかったわかったぁぁ~! だ・か・らぁ! 『天の眼』を光らせながら、俺に向けるんじゃねぇぇ~~! でも、人事の方で身元照会はしているんだろう? こうなったら母親に向けて
『尻射ばかりして、申し訳ありませんでしたぁ~~~!』
って叫びながら、N国最大級の謝罪、『DOGEZA』をすればいいんじゃね?」
「できるわけないだろぉ~~~! 相手は娘を刺客によこす女だぞぉ~~! のこのこと出向いたら私の体どころか、子種の一滴まで、蒸発させられてしまうわぁ~~!」
「おい~~!、今度は『天の眼』を”荷電粒子砲モード”にして、こっちに向けるんじゃねぇ~~! 俺が蒸発してしまうわぁ~~~!」
俺はセンターパネルの『緊急停車モード』をすぐさま押すと、自動運転に切り替わり、車は橋の所々に点在する『緊急停車エリア』でゆっくりと停止した。
”ハァ! ハァ!”と二人の男が、まるで情事の後のような荒い吐息を吐き出していた。
息を整えた部長は、俺に聞かせるのではなく、まるで独り言のようにつぶやき始めた。
……教会で、懺悔をするかのように。
「可愛さ余って憎さ百倍……彼女は私のかわいい娘でありながら、私を痛めつける悪魔でもあった……。さらに彼女が我が特殊情報部へ赴任となった時、私の心は失われた」
「……」
「折しもΩ連合国領事の息子とのお見合いが決まった時、寂しくもあったが、これが双方にとって最良の結末だと、私は自分に言い聞かせた。いくら教授が彼女を『パンドラ』だと言っても、私は信じようとはしなかったし、面会もさせなかった。もし彼女がそうだとしても、Ωの研究室で声のサンプリングをとらされる程度だとね……」
「……てんめぇ、”ふかし”こくんじゃねぇ!」
「!」
「普段の会話で彼女の『パンドーラ』が発動したら、生まれた時の泣き声を間近で聞いた母親から医者、幼年学校から士官学校の教官から生徒まで、アンタのように心がズタズタになっているさ。……だが現実はどうだ? 誰の魂が狂っている?」
「!!」
「アンタは知っているはずだ! いや、
『アンタしか知らないはずだ!』
異国の地で出会った女、そしてその娘に宿る、『パンドーラ』が発動する条件は!
『男に抱かれて、あえぎ声を出す時だけだぁー!』」
まるで体に溜まった障気が抜け出したように、部長の顔はゆっくりとうなだれると、痙攣のような笑い声を発する。
「ハハ……ハッハ……アッハッ……ハッ……」
大丈夫、狂っちゃいないさ。てめぇの”漆黒の子種”を自分の尻にぶっかけて、ちょっと気だるくなっているだけさ。
んあ? 何言っているかわからんってぇ? 安心しな、俺もそうだからよ。
「……もう何も、言葉が出ないね。まるで悪魔に魂を裏返されて、自分の醜さを見せつけられた気分だ」
な! 部長も何言っているかわかんねぇだろ? そういうモンさ。
「でもアンタは立派だぜ。なんたって、この俺様を助けに来たからな」
「あれは教授の顔を立てただけさ。だが彼女が花嫁姿で、特殊情報部の部長室に飛び込んできた時、私は目は疑ったね。もしかしたらハネムーンの前に、後顧の憂いを断つ為に、私を銃殺しに来たとのかと……
『そしてそれを、受け入れた自分もいたさ』」
「アンタのそのシチュエーションって、N国では『まな板の上の女体盛り』って呼ばれているんだろ?」
「いろいろと間違っているのは指摘しないが、君の想像した女体盛りの女性は、はたして誰のことを指しているのかね?」
「だ~~か~~ら~~! 『天の眼』をこっちに向けるなって!」
お~あぶねぇあぶねぇ! 仕方ねぇだろ! 最後に出会った女がとびきりの美女! しかも花嫁姿ときたもんだ。純白のウェディングドレスのように、女の肉体も”純白に染めたい”って気持ちは、尻射フェチの部長ならわかるはずだぜ!
「彼女から話を聞いた時、私は全く信じられなかった。教授からも君が来るとは聞かされていなかったし、Ωのエージェントを一人で蹴散らすなんて、世界に名だたる『トップスパイ』でもなければできない芸当だとね」
「まぁまぁ、そう褒めるなって、あれくらい俺にとっちゃ、寝起きのションベン並の、ごく当たり前の出来事だからよ」
「さらに、彼女から聞いた車の特徴、そしてSNSにアップされた多数の写真。そこにはアルファーボーイに仮装した男性と花嫁姿の彼女が、地下鉄の通路をウェディングロードに見立てて、仲良く腕を組んで歩いていると……。それを見て、私は死地に赴くことを決断した!」
「おっ! かっこいいぜ~! よっ! 同志、特殊情報部、部長閣下!」
『『天の眼』の荷電粒子砲を、”コイツ”に向けて思いっきりぶっ放してやると!……ね』
「ちょっと待てぇいいぃぃ~~~!」




