第13話 イカした女
イカれたパンチだぜ……。
イカ釣り漁船の電灯のように目の前が真っ白になりやがったぜ。
イカしたボディブローってのはな、腹じゃねぇ、頭に、脳天がイカれちまうんだよ。
オッケーガキ共、今の俺様はイカにも緊急事態だが、ここで軽くレクチャーといこうじゃなイカ!
イカにも魂が粉砕されそうな時でもレクチャーしてやるんだ。
別にイカがわしい話をしようってんじゃねぇ。
暴れず騒がずおとなしく、皇帝ヘイカからの御言葉のようにありがたく拝聴するんだな。
そもそも、人間の腹に向かってまっすぐ拳を打ち込んだどころで、おとなしくゲロを吐くとはイカねぇんだ。
そんなのコミックやカトゥーン上に描いた演出だぜ。
そうでなければ、イカくしながらパンチを打つボクシングの試合なんざ、互いにゲロを吐きまくってリングがゲロの海と化しちまう。これじゃイカダに乗りながら戦うしかねぇからな。
例えるならそうだな、風船でも避妊具でもいい、水をいっぱいに溜めて口を親指と人差し指でつまんでから、イカしたパンチングマシーンのようにまっすぐ拳を叩いてみな。
風船や避妊具は前後左右イカようにも動くが、水はあんまり飛び出さねぇ。
今度は下からアッパーのように突き上げてみなイカ?
そうそう、口からスミならぬ水がこぼれちまうだろ。
だからイカれた少佐殿は、下から突き上げるように”ボディアッパー”をぶっ放したんだ。
その衝撃は胃の入り口である噴門から、文字通りゲロを気管、気道まで噴き上がらせてよ、ちょうどプールで鼻に水が入ったように、頭がツーーーン!とイカれちまうんだぜ。
だからイカしたボディアッパーほど、腹よりむしろ頭がイカれるような苦しみを味わうんだ。
……どうやら俺様は、少佐殿をかイカぶっていたようだな。
「さすがトップスパイね。一発では吐かない……じゃあ私も遠慮なくイカせてもらうわ」
さっきからイカ、イカと聞こえるのは気のせいだ。別に俺は意図してイカスミと絡めた駄洒落をイカスミのように吐き出しているいるわけではないんだ……と思う。
”ドグオオォォォーーーン!”
「さぁ、イカスミのように真っ黒に腐った臓物を!」
”ドグオオォォォーーーン!”
「すべて私にさらけ出しなさ~い!」
”ドグオオォォォーーーン!”
イカれた少佐殿は、マッコウクジラの体にくっついたダイオウイカの吸盤のように、左手のネイルを俺の顔に食い込ませ、右のボディアッパーを二発、三発と、イカスミシチューを蓄えたイカのスミ袋のような俺の胃へ、容赦なくたたき込みやがる。
ガキ共も子供の頃やったことあるだろ、
「おまえ昨日○○と”でえと”してただろ!」
「し、しらねぇよ!」
「うるせぇ! おとなしく吐け!」
「わ、わかった……う、うぉえぇ~」
まさかイカした大人になって、こんな美人将校からそれをやられるとはな、哀愁を通り越して悲壮すら漂うぜ。
俺の鼻からは真っ赤な血ではなく漆黒のイカスミ鼻水。
そして透明ではなく漆黒のイカスミよだれが、ボディアッパーの衝撃で一滴、二滴と俺の穴から吹き出してくる。
もうこりゃ、スプラッターじゃなくスクウィッド。
宇宙人に内蔵を削られるキャトルミューレーションじゃなく、キャトルフィッシュだな。
時々想うぜ、実は俺はα国の地球人ではなく、α星系から地球を侵略するためにやってきた、イカ型宇宙人のスペース・スパイカもってな……。
とは言ってもさすがに黙ってやられちゃ、本当に俺の魂がイカれちまう。
すでに俺の頭の中では、バラライカがオーケストラしちまっているんだ。
おっと楽器もいいがここはスパイらしくPPSh-41の銃声としゃれこもうじゃなイカ!
二本の触腕、いや違った、両腕に残ったスミ……じゃなく力を注ぎ込んで、腕を交差してマイスイートストマックをガード……おっと、思わず頭上をガードしそうになったぜ。
もう何をやっていイカ、わからなくなってきたぜ。
「うふ! そういうイカ臭いところも良くってよ~」
”パーーーン!”
少佐殿のボディアッパーは俺のストマックではなくクロスした両腕を下から突き上げて、まるで図鑑に載っているイカみたいに俺をバンザイ状態にさせる
すると、俺の顔から左手を外して拳を握り再び腰を落とし、左肘を曲げその先を俺のストマックに照準を合わせる。
すぐさま腰、膝、足首の伸び、左肩による左肘の突き出し。
さらに右手の平を左手の拳に叩きつけると、これらすべての力と速度が神話上のイカロスやイカの先端のような震電戦闘機みたいにな、第一宇宙速度並みのスピードで左肘の先端が、俺のストマックに向けて一気に食い込む!
”ズガドォグオォォォーーーン!”
衝撃波によって、俺の囚人服の背中が一瞬、釣り上げられたイカのように膨らむ。
〆られたイカのように体を支える力が消失した俺は、まな板に乗せられたイカのように床の上に横たわる。
「あらもう終わり? せっかくイカせてくれると思ったのに~。イカがわしいスパイのくせに、もうちょっとがんばりなさいよね~」
少佐殿はさっきの残り火がくすぶっているのか、左手で妖しくスカートをたくし上げながら、細い指先を太ももの根本へと這わせる。
気のせいか、イカの粘膜のような雫が、太ももから光っているように見えるんだが……。
もしこれを読んでいるピュアな淑女が万が一にもいるとしたら、この少佐殿の台詞をな、ベッドの上でマイダーリンに向かって言ってはいけないぜ。
例え、マイ・ダーリンが股間から満足そうに”真っ白なイカソーメン”を吐き出して、自分が”イカ”なくても……な。
少佐殿は崩れ落ちた俺の外套膜じゃない、頭を再び左手でわしづかみにしようとするが!
”!”
危険を察知したイカのように、スミは吐き出さなくとも慌てて後方へジャンプする。
「あ……あんた」
「ありがとな少佐殿、あんたのイカれたボディアッパーやエルボーが、イカした”麻酔”になったわ」
俺はゆっくりと立ち上がる。
まるでゾンビのように。
まるでイカれちまったボクサーみたいに……。
「あんたの攻撃は”拷問”にもなりゃしねぇ。こちとらその程度の”お遊戯”は幼年学校で卒業したんだぜ。簡単には少佐殿をイカせないぜ!」
俺の鼻から口からは、漆黒のイカスミがパッキンのイカれた水道の蛇口のように、ポタポタと床に黒いシミを作る。
「あと、わるいけどよ少佐殿……第二ラウンド前のイカしたラウンドガール、ちょっくらやってくれねぇかい? 俺の秘蔵の、ライカのカメラで写真を撮ってやるからよ……」
……ところでよ、これは、何の話なんだイカ?




