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「結論から言わせてもらうと、今回この国に来たのは観光ではない」
「え?どういう事ですか?」
「3人の記憶は歴史改変の影響で書き換えられたものだ。本来の目的はこの国を調査することだ」
「歴史改変で記憶が書き換わったって行ってもよ~」
「そうですね……私の記憶では観光に来たという記憶しかないです」
エルランディアは歴史改変による記憶の書き換えがここまで面倒くさい事を痛感していた。
そして1人もくもくとペペロンチーノを食べているダリアを見て頭が痛くなる。
「とにかく、その記憶は間違い。私が今言ったことが事実」
「わかったけどさ、何調査するわけ?」
「銅像みたでしょ、私の隣りにいた人物について調べる」
エルランディアは他の客や店員に見えないように仮想スクリーンをテーブルに表示した。
映し出されたのはエルランディアと横に並ぶ大人、エドワード・グリントである。
「こいつの名前がトリガーになって皆の記憶が歴史通りに改変された。まず、こいつが黒幕と考えたほうが良いだろう」
「そういうものなのかねぇ……。で、銅像にもなってる奴が生きていると思うか?」
「そうですね。シュペルさんの言う通りです」
ダリアは横でペペロンチーノを頬張りながら目だけをこちらに向けていた。
「改変された歴史でそのエドワード・グリントって奴が記憶を私に保存し、ロードしているならば私はエルランディアではなく、エドワード・グリントとして活動しているだろう。性格は記憶に依存する物だからそっくりそのままコピーの出来上がりだ」
「そういうことは、つまりエルランディアさんがもう1人この国に居るわけですね?」
「そう。おそらく違う世界線からやってきた別の私だと思う」
そう言うと仮想スクリーンを消し、明太子スパゲッティを口に含んだ。
「よっしゃあ! 食べきったぜ! 呼び出しボタン押させてもらうぞ!」
「勝手にしてろ。お前、こっちが真面目な話してるのに食ってばっかりだったな」
「シュペル! そういうお前も口の周りが赤いぞ!」
「あら、本当。拭きましょうね」
「こら、アリサ! 俺を子供扱いぶえー」
昼食を終えた4人は観光を辞め、首都へ移動することにした。
電車に乗るために通貨を券売機に入れる。
大人4人をエルランディアがまとめて購入し、首都行きの電車をホームで待っている4人。
「実は私、電車乗るの初めてでして……」
「ん? 学校は?」
「毎日車で送り迎えしてもらっていて、電車には縁がなかったのです」
「俺は毎日走って行っているぞ!」
「毎日家で歴史と族長としての勉強だ」
そんな話をしているとホームにアナウンスが流れてきた。
“間もなく1番線にガンドラ郊外行きの電車が参ります。黄色い線の内側に立ってお待ち下さい”
「電車来るってよ」
「初の電車です!」
電車が止まり、ホームドアが開く。
降りる人は少なく、逆に乗る人が多く電車内はあっという間に埋まってしまった。
幸いにも4人はまとまっていたため逸れる事はなかったが、全く動けない。
「ダリア、暑苦しいぞ!」
「電車の中ってこんなに苦しいのですね……」
電車が動き出し、加速する。
慣性により乗客が逆方向へ押し合う。
「わわ!」
「おっと、アリサ大丈夫?」
「ありがとうございます、エルランディアさん」
エルランディアはジャイロセンサーが内蔵されているためちょっとやそんな事ではよろけない。
電車からの風景は都市に近づくに連れて徐々に近代文明の影を見せてきた。
「私達の国と随分違いますね」
「そうか!? 俺には同じに見えるぞ!」
「国の歴史や人々の価値観、個性が出るから違うのは当たり前だ」
「エルフは居るのか?」
「婚活でもするのか!?」
「ちげーよ! ダリア喧嘩売ってんのか!?」
この後騒いだ2人にエルランディアの拳骨が落ちたのであった。
“終点、終点、首都ガンドラ行きはお乗り換えです”
アナウンスが終わると次第に電車の速度が下がってきた。
そしてホームドアの前に停まると、ドアが開き一気に人が降り始めたのだ。
その流れに押し出されるようにエルランディア達も外へと押し出されたのだった。
「次は新幹線で一気に首都まで行くよ」
「わかりました」
「わかった。エストヒール……」
「おう。シュペル俺にも掛けてくれ、頭が痛い」
新幹線の来るホームへ向かうと、ここにも大勢の人が並んでいた。
指定席を取っていないため、自由席になるがそこにも大量の人が。
「これは座れそうにないね」
「そうなのですか? 新幹線も乗ったこと無いのでわかりません」
「おう、ダリア。アリサが座りたがってるぞ。椅子になれよ、ご褒美だぞ」
ゴスっとエルランディアの拳が再びシュペルの頭に落ちた。
「すみませんでした……」
「わかればいい」
しばらくすると新幹線がホームに止まり、乗客が乗り込み始めた。
あっという間に席が埋まり、案の定座ることができなかった4人。
仕方がないので壁際で立つことにする。
しばらくの停車の後、新幹線は首都ガンドラに向けて動き始めた。
新幹線の速度にアリサは窓から外を覗いていた。
「速いですね! 先ほどとは大違いです」
「そりゃあ新幹線だからね」
「ポテチ食おう! さっき買ったんだ!」
「そりゃあいいな。 俺にもくれ」
男子2人は修学旅行気分で菓子を食べている。
一応3人の子守役であるエルランディアは少し思いやられていた。
ダリアに関しては先程の手合わせである程度は把握しているが、シュペルに関しては魔法にまだまだ細かい制御ができていないように思えた。
アリサに関してはまだ見ていないのでわからない。
「(まぁ、大丈夫……かなぁ? 魔力量も平均的な魔法使いの二倍もあるし。それよりこの歴史改変の修正をどうするか、だ)」
“提案。惑星級戦術魔術による記憶の書き換え”
マキナギアが提案した方法はその名の通り惑星まるごとを対象とした魔術である。
元いた世界線でUnknownとありとあらゆる生き物を地球上から消し去った魔術の類だ。
これを生物の記憶を書き換えると言う魔術に変更し、惑星規模で発動させることで歴史改変を強制的になかったことにする。
今のマキナの魔導炉ならば1つでも一度くらいなら惑星級戦術魔術を使用することが出来るのだ。
ただし、使った後は魔導炉内の魔素が増え、出力が最低限まで下がってしまうため注意が必要である。
「(記憶の再構築処理を任せる)」
“了解。記憶再構築処理開始。完了まで20日の予定”
「ふう。これで一休みでき……うわ!?」
その時新幹線が急停止を掛けたのだ。
さすがのエルランディアでも体勢が崩れ、ポテチが空を舞う。
「なんなんだ一体。3人共大丈夫か?」
「私は大丈夫ですが……エルランディアさん、頭の上……」
「ん? うわ、ポテチの袋乗ってるじゃん。髪が汚れた」
「いってぇ! 急に止まるな!」
「修行が足りないぞ!」
その時アナウンスが流れた。
4人が首都へ移動している少し前の事。
とある施設で何かの魔導機械を操作している物の姿が有った。
「3人は書き換えたが、1人は失敗か。やはり機械仕掛けの神であることもある」
「マスター。暗殺しますか?」
何処からか仮面を着け、マントを羽織った人物が現れた。
声質から女性だと判断できる。
「送れ。……あぁ、1番程度の低い作品を4体送りつけろ」
「はい。わかりました」
そう言うと、その女性は影に消えるようにいなくなってしまった。
部屋に残されたのは1人。
「どれ、他の世界の作品の完成度を見るとするか。ふはははは!」
1人男の声が部屋に響いた。