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“スリープから復旧”
「ん。あー。嫌な電子情報を見てしまった。
今日行く予定の防衛大学の座標調べておいて」
“すでにマッピング済み”
「メンテナンス入るから時間前に再起動させて」
“了解”
マキナはもう一度横になると自己診断プログラムを走らせた。
この間は意識が無くなるため攻撃、強制再起動がない限り無防備になる。
その間にスクリプトが走り、体の各所をチェックして行く。
駆動系回路に50%負荷……異常なし。
駆動系骨格誤差0.1補正。
魔導量子頭脳以上なし。
声帯機能異常なし。
人工皮膚以上あり修復開始。
思考系異常なし。
バックアップユニット異常なし。
魔導炉異常なし。
ATS異常なし。
DEMモジュール異常なし。
記憶拡張保存モジュール異常なし。
人工皮膚修復完了。
再起動プロセス…完了
「よし。ログ表示。」
“了解”
「ふむ。昨日の傷が結構深かったか。
まあいい。着替えるとするか」
マキナはクローゼットを開けるとそれっぽい軍服を出して着替え始めた。
するとそこへサーバールームのロックを解除し、メアリーが入ってくる。
対面する下着姿のマキナと、メアリー。
“提案。服を持って転移での回避”
「受諾する」
“了解。”
マキナが転移した後、メアリーは顔を赤くし金切り声をあげたのだった。
さて、マキナはと言うと、大学の上空1kmにいる。
「ふう。助かった。あのこいつも着替え見られると抱き着いてくるからな。」
“予想。性癖さえ歪む信仰信”
「よっと着替え終わったな。降りよう」
マキナがゆっくり降りていくと次第に人が集まりだした。
この時代に人が飛行機無しで飛べるはずないのだ。
もちろん魔法も。
魔力で飛ぼうとするなら膨大な魔力が必要になる。
それも同時に。
体を浮かせる風か重力魔法、体を支えるための風魔法、風防の役割をする風魔法そして推進力を得るための何らかの魔法である。
これを同時に魔力操作をできるものはいないであろう。
魔道機械の処理ならできそうだが、まだ2000年代しか教えていないため自分で研究するか、マキナに時代を進めてもらう必要がある。
「おい、あれって」
「教祖様じゃない?」
「そういえば特別講師がくるって…」
下に集まっていた生徒はマキナが着地できるように自然と輪を作った。
「諸君、出迎えご苦労。私は皆が知っている通り教会のマキナ。そして今日の特別教師である」
“忠告。防衛大学生とならもっと態度を改めるべき”
「っ! はっ!」
「本日はよろしくお願いします!」
「では行こうか。もう時間だ」
マキナは講義室に入るとすでに着席していた生徒も動揺を隠しきれないでいることが分かった。
「まあ、気持ちはわかる。各自筆記の用意を。」
チャイムが鳴り指導の先生が入ってきた。
体格は大柄で筋肉質。
「今日は特別教師様に来てもらった。言うまでもないな?デウス・エクス・マキナ様だ。」
全員が起立を敬礼、よろしくお願いしますと、そろって言ったのである。
「では始めるが諸君に問う。戦場での2択は何だ?」
全員が鎮まる中、眼鏡をかけたインテリな生徒が手を挙げた。
「はいそこ。」
「戦場での二択は殺すか殺されるかの2つだと思われます」
「よくできた。上出来だ。」
「それではもう一つ。戦場で弾が切れた際どういう行動をするか」
これもまた静まり、先ほどの生徒も考え込んでいるようだ。
そこに紅一点の女子が手を挙げた。
「そこの女子どうぞ。」
「味方に弾薬を求める行為は最もやってはいけない行為だと思われます。魔力消費量の少ない風属性の魔法で援護するべきだと思います!」
「ふむ50点だな。魔力消費量が少ないと言っても限界がある。そんなものを戦場で使っていたら対抗魔法で防がれ意味がないだろう。そしてここからが重要だ」
手を挙げた女子生徒は唾を飲み込んだ。
「魔力を使い果たし、さらに使おうとすれば魔力の代わりに生命エネルギーが消費される。
戦場ではアドレナリンで気づけないと思うが、これは自殺行為だ。生命エネルギーイコール命だ。次第に体が動かなくなり最悪の場合生命エネルギーが勝手に減っていってしまう。言いたいことはわかるな?」
「はい……」
「ではどうすればいいか。それは魔力で地形にうまく溶け込み後方へ下がることだ。そこで弾薬と魔力を回復する。要は魔力が回復するまで後方支援をすること。回復を終えたら物陰に隠れつつ前線に戻る。」
マキナが説明を終えると先生が1つ注釈をだした。
「各自覚えるように。テストで出すからな。」
“警告。敵正反応距離30キロ圏内に侵入南西施設へ直進と予測”
「だってよ。テロじゃないか?」
「そんな馬鹿な! 国を守る生徒を育てる公的機関に!?」
「マキナギア、詳細情報。」
“静止衛星リンク開始”
“リンク完了。ズーム開始”
“衛星動画転送開始”
“完了。ディスプレイに表示”
マキナギアの早口は直っておらず、聞いてた生徒と先生さえ理解できなかった。
「なるほどねぇ。強襲揚陸艦が見えるな。
敵集団と強襲揚陸艦をズーム撮影表示」
“了解”
「これが敵だ。ちょっと荒いけど、銃を持っているのがわかるな。強襲揚陸艦の旗もこの大陸の物じゃない」
ちょっとどころではない王国否、政府が打ち上げた監視衛星よりはるかに解像度が良いのだ。
人ひとりの顔も判別できる。
「30kmまだ間に合うな、生徒は緊急帰宅せよ。敵の狙いはココだ。」
マキナの号令により校舎に残っていた生徒はすぐに家に帰らされた。
宿舎ではなく家である。
“報告。政府人工衛星がミサイルにより破壊スペースデブリ飛散”
「シールド」
“了解”
“シールドモジュール起動確認”
“警告。旧型大陸間弾道ミサイルを検知着弾まで5秒”
「屋上絵転移」
“完了”
「出力2%衝撃魔術」
マキナが手を向けると空気が震えるほどの爆音と共に衝撃が放たれた。
それはこちらに向かっていたICBMに打ち付けられ、弾頭部分が衝撃に押し負け、潰れてそのまま自由落下していった。
以前だったら0.5%で人が気絶する程度だったが、今それをやったら肉片も残さない血潮になるだろう。
それだけ信仰信で得た神化はとてつもないのだ。
今のマキナにとっては惑星を破壊することも容易い。
“推奨。弾頭の回収”
「はいはい」
“ATS-フォトンウィング-”
今更だがATSとはArms Transfer Systemの略称でだ。
魔力で作られた4次元空間から物を出し入れするときに使われる。
なぜ翼を出したかと言うと、普通に空を飛ぶより早いからだ。
「あそこ煙上がってるな。」
“警告。放射線検知”
「はぁ!?周辺諸国には武器に転用するなって言ったのにあの国は何をしてるんだ。バリア。」
到着すると、家が半壊していた。
生命反応はなかったので良かったのだが放射線が漏れ出している。
マキナはすぐに周りに退去を促した。
「さて回収するかね。」
マキナが近づいた瞬間、マキナギアがシールドを展開した。
“核融合反応検知”
“ディメンションシールドを極所展開”
“シールド負荷0%”
“放射能除去開始”
“並びに飛び散った放射線除去開始”
「なんで教えてもいない水爆が…」
“放射能並びに放射線除去率50%”
マキナは考え込んだ結果、その大陸に行ってみることにした。
“除去完了”
「とりあえず教会まで」
“了解”
「よし着替えを……は?」
「マキナ様の匂い…はぁあああああ! 何という幸せ! マキナさ……あ。」
「マキナギア」
“了解”
「まだ何も言ってないんだけど」
メアリーはその変態じみた格好のまま受付へ転送されたのであった。
「さて軍に衛星画像送信防衛命令、政府機関にも伝達。文章任せる」
“了解”
「さてさて、奴さんがなぜ知っていたか見に行くとしますか。久々の冒険でワクワクしてきたな。アリス、ネザリア、ミルフィーの子孫も知りたいし。それなりの待遇は与えているはずだから途絶えてはいないはず。マキナギア」
“了解。エルフォード家、フィールド家、アインス家に通信開始”
しばらくするとマキナの目の前に三枚の仮想ディスプレイが表示された。
「ま、マキナ様!?」
「あらマキナさんですか、お久しぶりです。」
「エルフの里は忙しいよ。」
「三人とも生まれたって聞いて今年で18年だけど、どう?」
子供のことである特にフィールド家は心配がある。
フィールド家、ハイエルフだが代を重ねるごとに覚醒が起きづらくなってしまうのだ。
「うちのダリアは元気です!フェンリルにも着慣れて結構強くなったみたいです」
「私の娘もある程度魔法をつかえはじめましたよ」
「今年の代はハイエルフの覚醒が起こって里が大盛り上がりよ」
上からエルフォード家、アインス家、フィールド家である。
昔のアリス譲りか緊張すると声が高くなるようだ。
「で、本題だ。ゴルステア大陸にその息子、娘を連れて行ってみない? 情報は回ってきているはずだけど。」
情報とはゴルステア大陸からの侵略行為である。
「う、うちのも力を持て余してしまっているみたいなので行かせます!」
「修行にいいかもしれないですね。」
「立派なハイエルフとして男として経験を積んでもらうのもいいか。」
「じゃ、ゴルステア大陸行きフェリーの埠頭に集合。フェリーのチケットは取っておくから。」
こうしてかつての仲間の子孫とまた冒険が始まる。