3-6
時間はエルランディアたちが襲撃されている頃。
ダリアとシュペルの元にも敵が迫っていた。
「990! 991! 992!」
【まだまだ先祖まで届いてないぞ】
「わかってる993! シンクロ率78%994!」
部屋で筋トレをしていたダリア。
すると扉がノックされた。
「ん? 誰か着たようだな!」
ダリアが扉に近づき、ドアノブに手を掛けたときだった。
扉を貫通し、腕が伸びてきたのだ。
「む!? ぬわー!」
完全に油断していたダリアは衝撃魔術の様な魔術で吹き飛ばされていき、部屋の壁にぶつかった。
【油断しすぎだぞ!】
「わかっている! しかし今のは効いたな!」
【来るぞ!】
扉を無造作に投げ捨てられる。
現れたのは一見普通の男性だった。
「さっきのお返しと行くか! アブソリュートナックル! ……ん!?」
その男は手をダリアの拳に合わせるように広げていた。
そしてダリアの拳はその手の寸前で止まっているのである。
「(おかしい、この距離なら冷気で手が凍りつくはず)」
【戦闘中に考え事をするな! たわけが!】
「ぐおお!? カハッ!」
【愚か者! 体を貸せ!】
強制的にダリアの意識が引っ張られ、フェンリルに乗っ取られた。
【くっ! フェンリル! 俺はまだ戦えるぞ!】
「うるさいわ! 黙っとれ! ……さて、貴様。タネはわかったぞ、これでどうだ?」
フェンリルは初代アリスの様にダリアの体に合わせ白い光の爪や尻尾を形成していく。
初代アリスは早い段階でできていたのだが、今のダリアではできていない形態だ。
「行くぞ! ツイン・アサシン」
爪を左右に振り払うと白い斬撃となり男性を切り裂いた。
その瞬間まるで空気が爆発したかのように風が部屋に吹き荒れる。
男性の右腕がごとりと音を立て床に落ちる。
血が出ると思われたが、血の代わりに配線が剥き出しとなった。
「やはり機械か。なら加減は要らないな? これで終わりだ、ダイダロス・ツイン・アサシン」
巨大なエネルギーの斬撃が動きの鈍った魔導機械を襲う。
ホテルの壁を切り裂き風が通る。
魔導機械は右腕だけを残し、蒸発していた。
「見たか? これが本来の形だ」
【ご先祖様はこんな力を……。よし! 俺も取りに行くぞ!】
「では体戻すぞ。」
【おう!】
同刻、町中にて。
「調べないとエルランディアにやられるしなぁ。どこかに魔力を転送する制御端末が有るはずなんだけどなぁ。めんどくさいなぁ」
「標的発見。エーテルイレイザー起動確認。照準ロック、起動」
どこかの屋上からシュペルに向け、魔導兵器のトリガーが引かれた。
それは空間に存在する魔力を消し去りつつシュペルへ向かっていく。
「あーあ。だりぃ~観光してぇ~」
「おい、なんだあの光……」
「こっち来るわよ!」
「逃げろ!」
シュペルは騒がしくなった周りが見ている方向へ振り向いた。
時すでに遅し。
その光は避けようもない距離までシュペルに近づいていたのだ。
「なん……うっ」
その光、エーテルイレイザーを直撃したシュペルは体内すべての魔力を消し去られてしまったのである。
以前エルランディアが講義で言っていた生命を維持するために必要な魔力も、だ。
シュペルはその場に崩れるように倒れ、辛うじて繋ぎ止めている意識の中こちらに向かってくる2人の女性を目にしていた。
シュペルが襲われる少し前。
メアリーは情報を元に首都へ来ていた。
「まったく、マキナ様は勝手にこんな危険な国に行ってしまわれるなんて……。このマキナ様専用レーダーで位置を把握してみせます!」
メアリーはレーダーを見ながら歩道を歩いていると何やら騒ぎが起きていることに気がついた。
「ん? 騒がしいですね? ちょっと見てみますか」
野次馬の間から顔を出すと1人の男性が倒れていた。
そしてそれに向かって行く女性。
その手にはガンブレードを持っている。
「! ストオオオップ! この人に何をするのですか!」
「対象外認識。行動に制限有り。排除後対象を抹殺」
そう言うとガンブレードを銃モードでメアリーに向け、発砲した。
野次馬からは悲鳴が上がる。
しかし弾丸はメアリーに届くことはなかった。
なぜならメアリーは危険な国に行くと有ってシールドを張る魔道具を持ってきているからだ。
「あくまでも殺す気ですね……。ならば! マキナ様直伝自作パラライザーを使う時!」
電撃が女性に当たるが、一瞬動きが止まっただけで発砲を再開した。
メアリーは魔道具が壊れたかと思い調べたが、何の問題もなかった。
そんな事をしている間にシールドを発生させている魔道具から警告音がなり始めたのである。
「おっと、シールド限界ですね。パラライザーが効かないと言うことはマキナ様みたいな……いや、マキナ様以下のポンコツゴミクズ魔導機械という事でよろしいですね! ではこれはどうでしょうか!」
っそう言うと詠唱を始めた。
「未来ヲ蝕ム者、明日ヲ侵食スル者、終ワリナキ悪夢、侵食、渇望。我ガ真名ニ答エソノ絶望ヲ解放セン。我ガ名ハ”メアリー・ベン・ニーア”侵食セヨ。ディザスターバンシー!」
なぜメアリーがマキナ付きなのか。
それは彼女の素性にある。
メアリー・ベン・ニーア、彼女は大昔に封印されていた魔物だ。
その中でも最強と言われた魔物の頂点である。
たまたま付近を調査していたマキナ、封印が綻んでいたメアリー・ベン・ニーアを見つけたのだ。
メアリー・ベン・ニーアも封印の綻びで目が覚めていたが、何よりマキナが興味本位で言われるがままに封印を解いたのだ。
その後戦闘になったが、マキナに及ばず逆にマキナに惚れ込む次第になっている。
魔導機械の足元に黒い魔法陣が展開され、魔法陣の中から黒い手が幾つも出てきたのである。
触られた場所から徐々に黒く変色、いや侵食されているのだ。
更に雷や地震などが起きたかのように体に現れた。
皮膚が焼けただれ、立ち上がれなくなり手をついたのだ。
そして侵食が早まり、まるで啜り泣くような音を立てながら体を侵食され、真っ黒く染まった時灰の様に崩れ去り何もなかったかのように風に流れていった。
「討伐任務完了ですね! そこの方大丈夫でしょうか?」
「うっ……ぐっ……」
「これは……魔力が枯渇してますね……。マキナ様を呼ばないと、ですね」
二人にそんな事が起きているとはつゆ知らず、エルランディアはブラウと話していた。
「それで、その人物とは何者でしょうか?」
「外見は子供程度で、声質では女性でしょう。各界に融資や寄付をしていて顔が広い……顔はいつも見えませんが」
「子供体型で声は女性と。素性はわかりますか?」
「すみません、それは存じ上げません。いつもいつの間にか現れ、ふとした瞬間に居なくなっているので。後ほど資料を協会本部へお送りします」
「はい、わかりました。ありがとうござ……ん? げっ……。 少々お待ちください」
またもやスマートフォンを取り出すと外へ出ていく。
「……メアリー。何で来たの?」
「マキナ様! 何でこんなに危ない国に来たのですか! ……っと、それどころではありませんでした。 この緑の髪の……ん? 魔法が掛かっていますね。 魔力よ、飛散せよ。マジックレジスト。金髪の少年ですね。魔力が生命を維持する限界もない状態です。」
「シュペルか! すぐに行く。魔力座標転移で飛ぶから魔力を放出しておけ」
エルランディアは席に戻ると、急用ができたと言いアリサに全件を任せた。
その辺の部屋に入ると化粧を落とし、服を普段着に着替える。
そして直ぐにレーダーを広域モードにするとメアリーの魔力を捉えた。
「転移開始」
“魔力座標転移、対象メアリー。転移開始”
一瞬で風景が町中に移動する。
そこには今にも抱きつこうとしているメアリーの姿が有ったが、華麗にスルー。
後ろに倒れていたシュペルの心臓付近に手を乗せる。
「魔力同調開始」
“対象魔力波計測……完了”
“魔力受け渡し開始”
心臓付近に流れ込んだ魔力は弱っていた心臓でも有ったが血液に乗り体中に行き渡る。
次第に血の気も良くなってきた時シュペルが目を覚ました。
「うっ……エルランディア? 何だこれ……体だりぃ」
「ホテルに帰ったら説明する。あとメアリー、その体制でフリーズしない」
「だってマ……」
「エルランディア」
「だってエルランディア様が避けるのですから!」
2分ほど魔力を流し込み続け、マキナギアに計測をさせた。
“魔力計測中……完了”
“ハイエルフ最低生命活動ライン突破”
「よし、警察が来る前に帰ろうか」
「はい!」
「メアリー、後で私の部屋に来るように」
「はい……」
エルランディアはシュペルを背負うと裏路地へ消えていった。
メアリーも苦笑いしつつエルランディアと反対方向へ走っていくのであった。