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そして面会当日。
エルランディアはシルフ協会本部関係者に扮し、スーツと化粧をばっちり決め部屋で待っている。
隣の席には正装で決めたアリサも座っている。
約束の時間の5分ほど前になると、警視庁長官が大使館へやって来た。
部屋に入るとお決まりの挨拶と名刺の交換。
一応エルランディアも偽名で名刺を持っているのだ。
名刺交換は終わり両者が席に着くと、話し合いが始まった。
「急なお呼び立て失礼しました。私、アリサ・アインスと申します。」
「いえ、私も仕事を今日に合わせて開けてきたのでかしこまらないでください。ブラウ・エリキルと申します。そちらの方は?」
「申し遅れました。私エルランディア・プロイと申します。シルフ大陸協会本部マキナ様付き神官です」
自己紹介を終え、本題に入る。
ここで聞くことは2つ。
シルフ大陸への侵攻の調査、マントを羽織った小さな人の情報を聞き出すこと。
「さて、今日の面談は何でしょうか?」
「今日は私ではなく、こちらのエルランディアからお話があります」
「では失礼して。ついこの間貴国から強襲揚陸艇と水爆、マギクリスタルエンジンの模倣品が確認されました。それに対してはどう対応していますでしょうか?」
「そちらの件は現在防衛省に問い合わせをしている最中でして……立件に向けて調査中です」
「水爆については。大陸間弾道ミサイル、ましては水爆なんて軍だけの権限ではできないと思いますがどうでしょうか?」
「え? あ、ああ! なんで今まで思いつかなかったのだ! すみません、取り乱しました。資料で読んで何も違和感を抱かなかったので自分自身も不思議でして。至急政府にも調査のメスを入れさせてもらいます」
「よろしければ今からでも電話なりしてもらわないと、こちらとしては本国の政府に申立がつかないので」
エルランディアがそう言うと、ブラウは急いでスマートフォンを取り出すと電話を始めた。
もちろんアリサ、エルランディアの前である。
時々違う話題がエルランディアのセンサーが捉えるが、そのほとんどが防衛省の侵入者についてだった。
水爆の話もしていたが電話先は何故そんな事を言うのかと不思議がっていた。
「だから! 軍の権限だけでは水爆は使えないということだ! わかったか!」
そう言うと電話を切る。
疲れたと言う表情を一瞬見せるがすぐに外交モードに変わり、謝罪し始めた。
「大声申し訳ありませんでした。どうやら部下もこの事に何の疑問を抱いていないようでして。これは異常です。おそらく何らかの精神系魔法が国全土に書けられているに違いないでしょう。」
「わかりました。調査をお願いします。話題は変わりますが、マントを羽織った小さな人についてお聞かせいただけないでしょうか?」
ブラウは一瞬クエッションを彷彿とさせる表情を浮かべたが、すぐに知っていることを話そうとした。
その瞬間であった。
ブラウが頭を抑えて苦しみ始めたのだ。
「うっ……。 頭が割れる……! あああぁぁ……」
「ど、どうしたのですか! ブラウさん!」
アリサがテーブルを周り、ブラウに駆け寄った。
すぐに回復魔法を詠唱し魔法を行使するが、頭を抑えて苦しんでいるままだ。
それと同時期にエルランディアのレーダーが赤い点を3つ感知していた。
「アリサ、敵が来た。数は3、大使館前に転移で着ている」
「わかりました。私はブラウさんに何か効くか手当たり次第魔法を行使します」
「頼んだ。マキナギア」
“了解。歴史改変シールド準備完了”
外から悲鳴や破壊音が聞こえ始めた。
敵が大使館内に侵入してきたことになる。
加えて今回は3人を相手にして2人を守らなければならない。
シールドを張ろうにも歴史改変シールドに魔力を持っていかれていて張る事ができないのだ。
「それじゃあ先手必勝だな。ノワール」
“ATS起動。ノワール”
エルランディアの手元に一振りの日本刀の様な剣が現れた。
ATS、Arms Transfer System。
マキナの保有する4次元空間から武器から服、あらゆる物を転送する機能である。
本来武器の用途で使用されるが、内部時間が進まないため食料なども入っている。
「術式起動、吹っ飛ばせ!」
扉が吹き飛んだ途端にエルランディアが剣を横薙ぎで振り抜いた。
すると衝撃魔術が発動し、飛んできていた瓦礫や扉は粉々に砕け逆に侵入者へと飛来する。
だが、それを物ともせずこちらへと向かってきた。
1人はアリサとブラウへ、2人はエルランディアへ。
「吹き飛ばなかったな。今回のは重いのか」
2人を相手しつつアリサ達の方に向かったもう一体に出力を上げた衝撃魔術で吹き飛ばす。
壁にめり込み、出てくる間に残りの2人を相手する。
ノワールが確実に相手の横腹を切り裂いたが、やはり金属音。
これら3体も新幹線に乗っていたときに襲いかかってきた輩と同じわけだ。
「弾かれるなら無理やり切り捨てるまでだ」
エルランディアは剣に魔力を流し込むと、剣が仄かに発光し始めた。
ノワールはもともと魔剣であり、魔鉱石からできていた呪いの剣である。
それをハッキングし、書き換えたのが今のノワールである。
そして魔鉱石と言うのは金属と魔力が結合した特殊な鉱石であり、純度にもよるが魔力を流しただけ固くなる、性格には原子の結合が魔力で補填される性質がある。
「それ」
金属を無理やり引き裂いた音とともに1体は上半身と下半身が無理やり切り裂かれた。
ノワールにプログラムされている魔術式も発動し、壁を貫通して何処かへ吹き飛んでいく。
残りの2体はそれが危険と判断したのか、2体でアリサ達を襲おうとし始める。
「させるか!マジックパラライザー」
“ATS起動。マジックパラライザー”
手元にアサルトライフル並の銃が現れると、それを2体に向けて照射した。
すると2体は体をビクつかせ、痙攣しているかのように床に倒れ込んだのだ。
「ふう。さてこれからだ」
“警告。大規模な魔力反応”
「シールド起動」
“歴史改変シールド起動。対象、本機、アリサ、ブラウ、ダリア、シュペル”
この歴史改変で大使館側は侵入者ではなく、魔力の過剰供給による不慮の事故という事に置き換わっていた。
ブラウはアリサの治療により、かかっていた魔法が解かれ頭を抑えつつ、立ち上がっていた。
「エルランディアさん、先程の武器は何でしょうか?」
「ああ、マジックパラライザーか。その名の通り対象の魔力を一時的に麻痺……いや、停止させる武器だ。人に使うと魔力の循環が止まって一時的に魔法、魔術が使えなくなる代物さ」
「なるほど……。非殺傷兵器ですね」
「そういうこと」
ここまで置いてきぼりだったブラウが我に返ったように話しだした。
「マキナ様付き神官となるとお強いですね。いつつ……。すみません、まだ頭痛がするものでして」
「大丈夫ですか? よかったら痛み止めのみますか?」
「大丈夫です。どうやら狙いは私にも有ったようなので」
「ではなんですが、お話の続きを……ん? 協会から? ちょっと失礼します」
エルランディアはわざとスマートフォンを取り出すと、耳に当てながら壊れた扉の方へ歩いていった。
「……何のよう?」
「マキナ様、メアリーなのですが……、マキナ様の外出を知ってそちらに向かわれました」
「は? ちょっと今困るんだけど」
「誠に申し訳ありません。止めたのですが、振り切られまして……5日前に」
「(報連相遅い)わかった。なんとかする。切るよ」
「はい。お気をつけて」
エルランディアは部屋に戻るとブラウの話に耳を傾けたのであった。




