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首都型魔法陣改め首都魔法陣の判明、警視庁長官との面会は5日とエルランディアは行動に移した。
「さて、スーツでも買ってこようか」
「俺は筋トレだな!」
「帰ってくるまでにシンクロ率上げとくように」
「要は筋トレだな!」
エルランディアはマキナギアを通して通信を偽装しつつ首都に設置された無線端末にアクセスした。
シュペルからもらった画像データからでは古すぎて使い物にならないからだ。
適当に紳士淑女服を扱っている店を検索し、店へと赴く。
「ここか。私のサイズに合うスーツがあれば良いのだが……」
開かれた扉を通ると照明に照らされたスーツが心狭しと並んでいた。
そして奥から店員がやってきた。
「いらっしゃいませ。学生さんでしょうか? 就活用のスーツですか?」
「……まあ、そんなところです。私に合うサイズのスーツありますか?」
「では採寸しますのでこちらへどうぞ」
エルランディアは奥の部屋でサイズを図ると、店員がスーツコーナーに案内してくれる。
そこは見事に一番小さいサイズのスーツ。
「お客様に合うサイズのスーツと革靴はこちらになります。バリエーションが有るので好きなスーツをお選びください」
「好きなスーツか……。(値段的に高いのが良いな。安っぽいスーツだとバカにされかねる)」
エルランディアは高いスーツを手に取りワイシャツも店員に教えてもらい、更衣室に入った。
こちらの姿はカーテンで見えていないため、ATSで一瞬で下着になるとワイシャツとスーツを着てみる。
「ふむ。初めて着たが意外と学生っぽいな……。後でアリサに化粧を教えてもらおう。これでは長官に面接に来た学生と見られてしまう」
そう小声で言いつつ更衣室のカーテンを開けた。
「お客様似合っております。そちらのスーツだと4万8000円になります」
「カードでお願いします」
「かしこまりました。サインをこちらに」
協会発行のカードだが特殊なカードである。
それはマキナだけに許された登録情報の変更だ。
今の登録情報ではマキナではなく、エルランディアになっている。
「はい。お支払いできましたのでスーツとワイシャツをお渡しします」
「じゃ、着替えますね」
エルランディアはスーツとワイシャツを脱ぐとATSを使い一瞬で着替えた。
入り口まで荷物を持ってもらい、ホテルへと戻る事にした。
道中なにもやることが思いつかなかったからでも有る。
「もどったぞ」
「お、エルランディアか! 筋トレしてたらシンクロ率が1%あがったぞ!」
「(筋トレで上がるなら組み手とか修行いらないじゃん)……」
その後筋トレをしているダリアが暑苦しかったので部屋に戻したエルランディア。
しばらく部屋でスーツを着て作法をインターネットから検索し、記録、動作をしていると、扉がノックされた。
「ん?」
エルランディアはマップを見るとアリサの識別魔力を表していた。
扉まで行くと、鍵を開け中に招き入れる。
「ただ今戻りました。先程ご連絡した通り5日後になってしまいました」
「おかえり、それは気にしてないから大丈夫だ」
「エルランディアさんスーツ買ったのですね。なんだか就活生みたいです」
「……」
なんとも言えないエルランディアであった。
「そ、それはそうと、化粧の仕方を教えてくれないか?」
「お化粧ですか。私で良ければお教えいたします。エルランディアさんは体型と顔が幼く見えるので大人びたお化粧をしましょう」
自室の化粧台の前に座るとアリサが道具を並べ始めた。
それを見ていてエルランディアは自国の最高ブランド品と見抜いたのだった。
「それ高いやつだな。良いのか?」
「ええ。良いのです、せっかくエルランディアさんをお化粧出来るので」
「(それは私が珍しい人って感じか?)」
ファンデーションぽん、口紅ぬり、つけまつげ、アイライン、その他stc
「完成です」
「……これ誰だ」
「エルランディアさん、女性はお化粧しだいで化けるのですよ」
「まだまだ世界には謎が有ったということか……。これが私か……」
エルランディアはまた1つ世界の謎を解き明かしたのであった。
「んー。やっぱり勉強より遊びだな。さて、部屋に入ったらエルランディアになんて言おうか考えないとな……あ?」
「おかえり」
「あー。部屋間違えました。すんません」
シュペルはそう言うと扉を閉めた。
電子施錠音がすると振り返り部屋番号を確認した。
「……合ってるよな? おかしいな……」
シュペルはもう一度パスコードを入力すると中へ入る。
「おかえり」
「失礼しました」
ガチャン、ピッっと施錠される。
「おかしい。俺の部屋にスーツの美人さんがいる。まっさか! 組織のエージェント!? いやいや、漫画の読みすぎだ」
もう一度パスコードを入れて中へ入る。
すると目の前に女性が居て驚く暇もなく中へ引きずり込まれた。
「あ! 痛ってぇ! ってか! あんた誰だよ!」
「この声に聞き覚えはない?」
「声? ……あー。えー。そう! 魔法陣の文字は見たことなかったからエルランディアに送ったほうが速いと思ってな! 決してサボるとかめんどくせぇとか言う理由じゃないぞ!」
「魔法陣の暗号化については学校で習うはずだが」
「でもあれ暗号と言うより違う言語だったぞ!」
「母音と子音を抜き出せば後はパズルだ。よって、シュペル」
「はい」
「処刑」
「あっー!」
その日、シュペルの身に何が起きたのか本人は語らず。
真相は闇の中へ消えていった。
時間は遡る。
「はっ! 1番程度の低い作品を倒したか。こうでなくてはな……」
「報告があります」
何処から仮面マントが現れ、男に声をかけた。
「なんだ?」
「アナログ的手法で警視庁長官と機械仕掛けの神が接触しようとしています。後はご存知の通り」
「防衛省の次は長官か。また程度の低い作品を……そうだな、5体送り込め。長官の所は3体だ。殺して構わないぞ」
「了解しました」
闇に溶けるかのように仮面マントは消えていった。
残るはキーボードを操作する男のみ。
「それにしてはあの男。シュペルと言ったか、随分と優秀みたいだな。この首都の秘密に気がつくとはな。一応思考阻害魔術を首都全体に薄く張っているのだがな」
男は銃のような物を取り出すと魔導コンピュータに接続した。
「殺しておくか? ふっ、この程度で死ぬならそこまでの奴ってことだ」
男のキーボードを打つ音だけが部屋にこだましていた。