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 ゴオオオ……と、凄まじい勢いの風を受けながら、私たちは飛行していた。

 ドラゴンは思っていた何倍もの早さで上空を駆け抜ける。

 ちょっと怖いけれど、空を飛ぶってこんなにも気持ちの良いことだったんだな。

 私は地上を走るのとも水上を行くのとも違う初めての感覚に感動しながら、同じ高さにある雲や地上に小さく見える街などを見て楽しんでいた。


 結局、私たちは2組に分かれてドラゴンに乗ることになった。

 私はドラゴンを扱えないからキースが手綱を握ってその後ろに座る形で。

 ウィリアム様とジェラールの方もジェラールが操縦する側でこちらと同じような形を取っていた。

 でも、私は前にいるキースに必死に掴まってドラゴンから振り落とされないようにしているだけだからそんな余裕もあるけれど、ドラゴンを操縦しているキースは大変そうだ。

 私よりも大量の風を受けながら、初めて上空飛行の操縦をしているのだから。

 大丈夫?とキースに聞きたいけれど、こんなに風が激しいと会話もままならない。

 せめて、キースの負担にならないようにとキースの身体の動きに合わせることを意識して座っていた。


「いやあ、風が気持ちいいね。空を飛ぶことがこんなに楽しいものだって知らなかったよ。ドラゴンを操縦することもね。君も機会があったらやってみるといいよ。馬に一人で乗ったことがないって言ってたけど体重移動もうまく出来てるし、きっと簡単にできると思うよ」


 “……あ、うん。そうだね”


 空の上でキースが私の方をちらりと振り返って微笑むと、そんなキースの声が私の耳にはっきりと聞こえてきた。

 キースは決して猛風を超えるような大声で話しているわけではなくて、多分魔法道具を介して私に声を伝えてるんだと思う。

 これが電話の機能なのかな。

 でも、電話はかなりの魔力を使うって言ってたけどこんな時に無闇に使っても良いものなのかな。

 私はキースの魔力を心配してこのまま会話を続けて良いのかという気持ちと返事をしなきゃという気持ちが混ざって、キースに曖昧な返事をしてしまった。


 私のそんな心の動揺は、きっとキースにはすぐに伝わってしまうんだろう。

 案の定、くすりと笑うキースの振動が私がしがみつく彼の背中から伝わってきた。


「ああ、君が心配性なこと忘れていたよ。でも、大丈夫だよ。これは電話と同じような仕組みだけど、魔力は使っていないから。前に俺が君を抱きしめさせて貰った時の事を覚えているかい?実はあれは君から魔力を少し頂いていたんだ。俺は触れているものの魔力も体内の魔力と同じようにコントロールすることが出来るから。だから、今も君の魔力に干渉して声を伝えているんだよ」


 “そうなんだ!それなら良かった。キースがまた無理をしてるんじゃないかって心配しちゃったよ”


 音としては聞こえていないはずなのに、いつもと同じ優しいキースの声が頭の中に響いた。

 キースはいつも他人のことを考えて、自分の事を蔑ろにしがちだ。

 少しくらいの無理ならすぐにしようとするから目が離せない。


「心配してくれてありがとう。でも、俺が自分で言うのもなんだけど、ここは普通怒るところだよ。何勝手に魔力を使ってるんだって。君がいい人過ぎて心配になってくるよ……」


 私が心配していたはずなのに、何故か逆に私の方がキースに心配されてしまった。

 私に出来ることがあるならなんでもやりたい。私の魔力が使えるんだったら使って貰った方が嬉しいからそんなこと思いもしなかった。

 いい人なのはキースの方なのになと思いつつも、先ほどから聞きたいことがあったのでこの機会にと話したいと、一旦そのことは置いておくことにした。


 “ねえ、キース。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、今聞いてもいいかな?”


「うん、なんだい?」


 “さっき、ウィルとジェラールの様子が少し変だったよね。もしかして僕が馬に乗れないって言ったことに驚いていたのかと思って……。今後の作戦で馬を使う様な事があったりするかな?”


「おおっと、そのことか。君が掘り返して聞いてくるとは思わなかったな。うーん、真実を言うべきか………結論から言うとね、君が馬に乗れないことは全く問題じゃないから安心して。それに君だったら馬くらいすぐにでも乗れるようになるだろうし」


 キースは私の質問に思いの外驚いたように返事をした。

 出発前は考えることを先延ばしにしていたけど、作戦にかかわるようなことだったら大変だと、やっぱり気になってしまった。

 細かいことを気にしすぎなのかもしれないけど。

 キースなら人の機微に敏感で、気がついてそうだったから尋ねてみた。

 私が一番心配していた問題はなかったようで安心したけどだったらどうして、二人があんな態度を取っていたのかと言うことで……

 私がその答えに納得していないことが分かったのだろうキースが少し言いにくそうに言葉を続けた。


「俺の口からこういうことを言うべきではないんだろうけど、まあ君が変に誤解してもこまるわけだしね。多分二人は君と一緒にドラゴンに乗りたかったんだと思うよ。誘おうとしていた。でも、その前に君が俺のことを誘ったから焦って声を上げた。そんな二人の態度が君には変に感じたんじゃないかな」


 “えっ、二人が僕を?そんなことはないと思うけど………でも、仮にそうだとして何で二人は僕と一緒にドラゴンに乗ろうと思ったんだろう?”


「さあ、なんでだろうねえ」


 キースが嘘をつく理由はないから二人が私を誘おうとしていたことは本当なんだろけど、その理由に全然見当がつかない。

 キースは面白そうにそんな風に答えて、それから先は教えてくれないみたいだ。

 せっかく聞けたというのに疑問は深まるばかりだった。




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