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 私たちはダンジョンを抜けてから、道なき道をどんどんと進んでいった。

 山の中の獣道ですら無いような方向へと進んでいくから私たちは何度もキースにこの道で合っているのか尋ねてしまった。

 キースは何でも無いようにこのまま進めば大丈夫と言ってきただけだったけど。


 そしてそんな山道の中を歩き続けていると、本当に木々の中にぽつんと建てられた家が現れた。

 その家の壁には植物の蔓が生い茂り、もう森と一体化しているように見える。

 その草木の茂った家へと近づくためには門を通らなければいけないようだが、その門には頑丈そうな鍵がかかっていた。

 門だけでなく家の周りを取り囲む柵も高く丈夫そうで、門の周りには変な置物がたくさん置いてあった。


「何してるんだ?早く会いに行かないのか?」


「でも、呼び鈴も見当たらないしどうやって入ったら良いのかしら?」


 家の扉まで行かないとノックも出来ない。まるで訪問者が来ることを全く考えていないような作りだ

 でも、こんな山奥に家がある事からして、人を招こうという意思はないんじゃないだろうか。

 どうしようかとみんなで後ろにいるキースを振り返るといつもの涼しげな表情ではなく、引きつったような笑みを浮かべていた。


「そんな後ろで何をしているんですか?あなたの友人なのですから、早くあなたが呼んできてここを開けてもらって下さい」


「いやあ、それはちょっと難しそうだ。俺が行っても開けてくれないかもしれない。彼、俺に対してだいぶ怒っているみたいだし……。俺、近くで待ってるから皆で会って話を聞いてきてくれないかい?」


「は?こんな時に何の冗談ですか?あなたが会わなければいけないに決まっているでしょう」


 ジェラールが呆れたようにキースを促す。

 しかし、キースはいつもの冗談を言っているのとは様子が違った。

 どれだけ促しても背中を押しても進もうとしないキースは本気でその友人に会うことを躊躇っている様だった。


「む、無理だよ。だってそこにある置物が全部俺のこと見てくるし、ダンジョンを出た後に連絡を取った時だって連絡用の魔法道具を壊されるくらいに怒っていたし。彼は絶対に俺のことを恨んでいるんだ……。じゃあ、話が終わった頃にでも戻ってくるから、後は任せたよ」


 キースはいつになく弱気でそう言うと踵を返して走り出そうとした。

 直前でジェラールに腕を掴まれて逃亡は阻止されてしまったけれど。

 キースがそんなに恐れるなんてどんな人なんだろう。

 いつも飄々としたキースが青い顔をして焦っている姿を見るのは初めてだった。

 キースから聞いた話では悪魔によって種を埋め込まれたキースを助けてくれた命の恩人なんだとは思うんだけど……


「ちょっと、どこに行こうといているんですか?友人なのですから謝って許してもらえば良いではないですか。何をそんなに嫌がっているのですか?」


「そ、それは……別に嫌というわけではないんだけど……」


「嫌なわけじゃないんだったらなんだ?君がそういう態度を取っているからそんな風に思われるんだよ。根拠を示すような態度を表したらどうだ?」


 私たちが門の前で一悶着を起こしていると、突然門の向こう側からそんな声が聞こえてきた。

 こんなに家の前でうるさくしていたら家主も気がつかないことはないか。

 そう思って声の主の方に振り返ってみると、その人物の姿に皆の動きが一瞬止まった。

 予想外の姿すぎて驚いたからだ。

 そこにはどう見ても成人しているとは思えないような姿の男性がいたからだ。

 背は一般的な男性よりも頭1つ分以上低く、着ているローブは大きいようで指先しかでていない。

 大きな丸い眼鏡をかけたその顔はまだあどけない表情を残していた。


「も、もしかして、この人も悪魔の呪いを受けちゃったの!?」


 エルザがたまらず疑問を口にした。

 身体の時が止まる魔法。

 再生だけを繰り返すため見た目の年齢が変わらないその呪いの魔法がキースの友人にもかかってしまったというのだろうか。


「いや、そいつはただの童顔なだけさ。成人したときにもそんな見た目だったし。よく見てみなよ。肌の張りとか髪の艶なんかは若くはないだろう?」


「……やあ、キース。久しぶりに会ったというのにずいぶんな挨拶じゃないか」


「久しぶりだね。急に尋ねたりなんかして悪かったよ」


「僕に謝るのはそのことだけなのかい?ねえ、自分で考えてみなよ。僕が死にそうな君の事を助けて看病までしたっていうのに、君は倒れた僕のことを放って何も言わずにいなくなるなんてねえ」


 ずんずんとその人がキースに近づいていく。

 童顔ながらも端正なその顔が真顔のままにだんだんと迫ってくるのは結構な威圧感があることだろう。

 キースはいつもの余裕のある態度は何処へ行ったのか、情けなさげな表情で俯きがちに言葉をもらした。


「そのことはとても感謝しているよ。だけど、俺があのままそばにいたらお前の迷惑になっていただろう?だから、倒れたお前を放っておくしかなかった。今更協力を頼もうとするなんて虫の良い話だとは思うけど、お前の力が必要なんだ。お願いだ。助けてくれないか?」


「協力しないとは行ってないだろう。というか、僕が言っているのはそういうことじゃなくて……」


 2人の間に沈黙が流れる。

 申し訳なさそうに頭を下げるキースに対して、そのキースの友人も何か言いたそうにしては言葉が見つからずに言いよどんでいるように見えた。


「……この人は、ずっとキースのことを心配していたんだろう?何も言わずにいなくなって一度の連絡もよこさなかったキースのことを。キースの魔法道具だってずっと捨てずに持っていたくらいだからな」


 そんな気まずい沈黙の中、ウィルが横から口を挟んだ。

 その優しく問いかけるような口調に聞いているこちらまで胸が温かくなっていく気がした。

 そんなウィルの声に促されるようにして、キースは頭を上げた。


「……ずっと俺のことを心配してくれていたのか?」


「当たり前だろ、馬鹿」


 そう言って、キースの頭を軽く叩いた。

 そして2人は親しい友人がそうするように笑い合ったのだった。






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