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 ゴリゴリゴリ

 何かをすり潰すような鈍い音が響く。


 よし、これで最後だ。

 乾燥させた薬草を石臼で挽いて粉にした物をこぼさないように慎重に袋に移した。

 ふーと大きく息をはききった後、ゆっくりと吸い込むと部屋には草の香りが充満していた。

 大量に調達した薬草をやっと全て処理し終えた。

 乾燥させた薬草を種類ごとにひとまとめにして、引いて粉にした物は袋に入れて分別した。

 その他の魔獣や魔物の一部の材料もほとんどは乾燥させて保存し、乾燥させずに使用する物は小瓶に入れて分別してある。

 そんな感じでまとめた薬の材料を鞄に詰め込む。

 この鞄は普通のものではなく魔法道具のひとつだ。

 空間魔法の魔法式が組み込まれていて見た目では考えられないほどの大量の荷物を入れることが出来るし、鞄に水がかかったとしても中の物は濡れることもないという優れものだ。

 まだ私が小さい頃にガブリエルに初めて買ってもらった魔法道具でとても気に入っている。


 この街で調達する予定だった物は大体そろっていた。

 さてと、後はよく使う薬を調合しておこうかな。

 必要な材料を出して合わせてすり潰そうと思っているとコンコンとノックの音がした。


「やあ、リュカ。わあ、すごい草の匂いだねえ」


 私が返事をしないことが分かっていたからかノックの後すぐに扉が開くといつもの調子のキースが顔を出した。




 ――――――あれから一週間がたった。

 キースの気持ちを聞いたとき、私はキースのことを助けたいと思った。

 だから、他の人がなんと言おうと私一人だったとしてもヒースを取り戻すためにキースについて行くつもりだった。

 でも、他の皆も一人残らずキースに協力することになった。

 エルザとウィルは2人の性格から考えてそんな気はしていたが、ジェラールまで賛成したことに私は少なからず驚いてしまった。

 ジェラールはどこか他人と一線を引いたところがあるので面倒ごとには関わらないようにするのかと思っていたし、危険な事に巻き込ませないようにウィルに対しても止めるだろうと思っていたからだ。

 それなのに、ヒースを取り戻す事に積極的になっていたし、まだ傷が治りきっていないのにベッドから抜け出そうとしていたキースを一番注意していたのはジェラールだった。

 だけど、キースが体内の種ごと自分を消滅させようと魔方陣の中にいたとき真っ先にその中に入ってキースを引きずり出したのはジェラールだったんだよね。

 そう考えると不思議ではないことだった。


 ヒースを取り戻すために具体的には何をすれば良いのか。

 それはキースしか分からないことだがまだそのことには触れていない。

 キースは怪我をおった身体で無理をして魔法を使おうとしたことであの後再び3日間寝込んでしまい、目覚めた後も無理に聞くようなことはしなかったから。

 私たちがキースに協力したいと言うことは伝えているので、キースから話してくれるのを待とうということになった。

 それでも、キースを一人だけでは絶対に行かせようとはしないようにして。


 そして、私たちは各々旅へと出発の準備をしているのだった。




 部屋へと入ってきたキースは見た感じは何処ももう悪いところはないように見える。

 でも、毎日薬を塗っている私は傷が治りきっていないのは分かっているので椅子に座るように促す。

 キースは騙す事がうまいけれど、こんな事まで隠さなくても良いのに。

 そう思うがこれまで治癒魔法による治療が出来ずにその他の方法も知らなかったのだから隠してしまうのも仕方がないのかもしれない。

 草食動物が肉食動物に弱みを知られないために怪我を隠すように。

 あ、そうだ。

 良い物があるんだった。


 “ちょっと待ってて”


 椅子に座らせたキースに告げると簡易に火をおこせる魔法道具を使い、お湯を沸かし始めた。

 その間に、一つの薬草を取り出してポットにセットした。

 薬草と言っても紅茶の茶葉のような見た目でその摂取方法も同じように湯にこして飲むだけだ。

 これには癒やしの効果に加えて少しではあるものの炎症の改善を促進する効果もある。

 沸騰したお湯をポットに勢いよく注ぎ少し蒸らす。

 このときにカップの方にお湯を入れて温めておくとさらに美味しく飲める。

 ちょうど良い頃合いになったのを見計らって注ぎ、キースにお茶を差し出した。


「ありがとう。うん、おいしい。身に染みるね」


 キースがお茶を飲みほっと息をはいた。

 傷に効いているということだろうか。

 一人分には多かったそれを別のカップに注ぎ自分でも飲んでみた。

 ふう、癒やしの効果は抜群だなあ。


 そんな感じで二人で向かい合いながら気を休めていた。

 そういえば、キースは何か用があってここに来たのかな。

 私が作業している間も何も話しかけることなく、じっとその様子を見ているだけだった。

 キースは用があるならその時にでも声をかけそうなものだけど。

 伺うようにキースを見ると目が合い、私の疑問に気がついたようににっこりと笑った。


「ちょっと話したいことがあってね。他の皆にも集まってもらえるように言ったからそろそろ来る頃だと思うよ」


 なんでここで?

 話をする場所なら他にもあるだろうにと思いつつも、皆が来る前に片付けようとお茶の残っていたカップに再び口を付けた。


「待たせたな、キース。全員集めてきたぞ!」


 するとタイミングの良いことにウィルを先頭にエルザとジェラールが入ってきた。

 今度はノックもなしに扉を空けられたがこんなことは何回もあったので慣れてしまった。

 私は手に持っていたカップを机の上に戻した。


「あら、二人でお茶会していたのね。いいじゃない」


「お茶会だと?俺の分の紅茶は残っているか?」


「残念。お茶会はもう終わっちゃった。この部屋に一番に来た人の特典だよ」


 そんな特典はないし、お茶会というよりも薬湯会なんだけどね。

 机の上に残っていたポットとカップを見たウィルはお茶と聞いて目を輝かせていた。

 ウィルは紅茶が好きなのかな?

 今度、薬草だけじゃなくて普通の茶葉も買ってきて紅茶でもいれてみようかな。


「それで、キースさん。お話というのは何のことでしょうか」


 最後に部屋に入ってきたジェラールが脱線しそうな雰囲気の中、すぐさま本題に入った。

 ジェラールは色々と聞きたいところをキースのために絶えて待っていたのだ。

 聞けるとなったらすぐにでも聞きたいと思っていたのだろう。


「うん、それなんだけどね。その前に皆、これを付けてみてくれないかい?」


 話から逃げるつもりはないと言うようにジェラールに視線を送った後、私たちを見渡し何か小さな石のような物を取り出した。

 その石は蒼く、よく見ると様々な装飾品に加工されていた。


「君はこれかな」


 そう言って私には指輪を、エルザに髪飾り、ウィルに腕輪、ジェラールに首飾りを手渡した。

 そして皆に石を配り終えたキースは自分では蒼い石のついたピアスを取り出し、右耳に付けた。


「またあなたは説明も無しに………」


「まあまあ。説明するよりも早いから、とりあえずみんな装着してみてよ」


 渡された物を怪訝に見ながらも、ジェラールは渋々といったようにそれをつけた。

 他の2人も付けようとしていたので私もその指輪を左手の人差し指につけた。

 指輪の石を見ると何か複雑な模様が描かれていて魔法式のようにも見える。

 何かの魔法道具なのかと思い、他の皆の石を見てみると私の石と色が違うような気がした。


「付けてみたが、何も起こらないじゃないか」


 ウィルは装着した瞬間に何かが起こると思っていたのか、変化のない状況にキースに対して不満げにそう漏らした。

 だが、キースはそんなウィルに返事をするでもなく私に向かって笑顔を向けてきた。


「あれ?リュカ、何か気になることがあるの?」


 そう尋ねられて疑問に感じていたことを見抜かれたのかと思い、素直に聞こうとペンで紙に綴ろうとした。

 しかし、キースはそれを止めるように私の手を下ろした。


「うーん、それは使わなくていいかな。君が思ったことを紙に書くみたいに皆に伝えようとしてみてよ」


 キースの言っていることが分からなかった。

 筆談が私が皆に伝えられる唯一の手段なんだからそれを取られてしまったら、伝えることなんて出来ない。

 それでも手を添え続けるキースに私は半信半疑で言葉を紡いだ。


 “えっと、僕の石だけ皆の石よりも色が濃いなあと思っただけなんだけど………”


 私は声に出そうと口を動かした。

 しかし、やはり私の口からは音にならない音しか出ない。

 3人の反応は何もない。

 紙に書く以外に伝えることなんて無理だったんだとキースに訴えようと横にいる彼に向き直ると彼は嬉しそうに笑っていた。


「え……今のリュカが言ったのか?」


「いったいどういう仕組みなんだ……?」


「リュカ!!あなたの声が聞ける日が来るなんて!!」


 3人は驚きで固まっていたようで、声がこぼれたように呟いた。

 そして、エルザは満面の笑みを浮かべて私に抱きついてきた。

 どういうこと?

 これは、この反応はもしかして………


 “……もしかして、聞こえてるの?”


「うん。君の声はちゃんと聞こえているよ」


 そう言ってキースはさらに目を細めた。




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