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46.魔術師の秘め事(4)

 



「………って言うのがことのあらまし。ごめん」


 俺はこの身体になった理由を、悪魔という存在のことを淡々と伝えた。

 その間、誰も口を挟むことなくただ呆然と俺の言葉を信じられないことのように聞いていた。


「……っ、キースが謝ることないわよ!その悪魔が全部悪いんだから!一番辛いのはキースなんだから……」


「そうだ!お前はそんな身体になってまで、悪魔を討伐しようとしていたという責任感のある奴なんだから誇れることだぞ」


 重苦しい空気の中、初めに口を開いたのはエルザだった。

 それに賛同するようにウィルも声をかける。

 リュカも俺のことを心配するように頷いていた。

 やめてくれ、そうじゃないんだ。

 俺はその反応に耐えきれずに即座に否定した。


「………違うんだ。俺はそんなことを言ってもらうような人間なんかじゃない。俺は君を………リュカを利用しようとしたんだから」


 自分のことを言われ俺のことを見つめていたその目が大きく開かれるのが分かる。

 今から俺が話すことを聞いたらその優しい瞳にも軽蔑の色が浮かぶんだろうと思うと、躊躇する気持ちが表れる。

 でも、俺にはそれが相応しいんだ。

 どうか、許してなんてくれないでくれ。

 その瞬間を見逃さないように俺はしっかりと前を見据えた。


「悪魔討伐には何はともあれ接触しなければならない。情報を元に後を追いかけるようにしていてもいざ会った時には準備不足ということが何度もあったんだ。だから、今回は悪魔をおびき寄せることにしたんだ。リュカを囮として。君に魔法道具を渡したでしょ?あれが悪魔を引き寄せるための道具だったんだ」


 彼女の瞳の色はまだ変わらない。

 俺は間髪入れずにこう続けた。


「君の魔力は上質で量も多い。きっと悪魔が狙ってくると思った。だから、あの魔法道具を使って君から魔力が流れ出るようにしたんだよ。あの夜に魔法道具にかかっていた制御を外して。その時にどうしても魔法をかけなきゃいけなかったから、邪魔されないようにリュカと2人になる必要があったんだよ」


 不意に視界が揺れる。

 ジェラールに掴みかかられていた。

 その表情からは怒りが感じられる。


「やはり、あなたのせいだったんですね。私たちを騙していた。私たちを、リュカを傷つけようとしたんですね」


 口調は静かなものだが、逆にその効果か表向きには隠された感情がひしひしと伝わってくる。

 そうだ、それでいい。

 俺は追い打ちをかけるように自嘲気味に笑いながら続ける。


「この際だから言うけど、無効化魔法が使えるっていうのも嘘だから。この身体のせいで自分に降りかかってくる魔法が全部吸収されてるだけ。それに、自分の魔力はほとんどないから女の子たちにちょっと魔力を分けてもらったりしてたわけ。まあ、無断だけどね。リュカの魔力も結構吸い取らせてもらったよ。ありがとう」


 ここで述べる感謝の言葉がどんな効果をもたらすのか俺には分かっていた。

 それにあの時のあの場面を見ていたウィルとリュカなら今の言葉を良いように解釈してくれるだろう。

 俺への悪印象を増長させる方向に。

 俺の思惑が初めに届いたのはジェラールで掴む手が震え始めたのが分かった。


「お前は!!!」


 怒りの容量が超えたのか、ジェラールが殴りかかろうとしてきた。

 状況に身を任せてそのまま殴られようかとも思ったが、すんでの所でウィルが割り込みそれを防いだ。

 ジェラールがウィルに羽交い締めにされて動きを止める。

 だから、俺はそれを良いことにとどめとなる一言を言うことにした。

 俺のことを嫌いになるような最期の言葉を。


「君の魔力はすごく魅力的なんだ。だから、俺と一緒にきてくれないかい?」


 ほら、俺はこんなにも最低な奴なんだ。

 君をまた囮に使おうとしているんだよ。

 幻滅しただろう?

 軽蔑するだろう?

 だから、俺のことを許さないで。

 俺のことを嫌いになって。

 俺のことをどうか見捨てて。

 俺の最期のわがままだと思って。


 しかし、彼女はその瞳の色を変えることなく頷いた。


 リュカは俺の願いを聞いてはくれなかった。

 そして、1枚のメモ用紙を差し出した。


 “分かった。僕はキースと一緒に行くよ”


 ああ、なんで君はこんな俺のために救いを与えてくれるというんだい。





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