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3

 


 目が覚めると、見知らぬ場所に寝かされていた。

 どうやら洞窟の中のようだ。

 至るところに水晶があり、なんとも神秘的な雰囲気だ。


 ここが死後の世界なのかな。


 そんな考えがふと浮かんだが、左腕の激痛が現世であることを実感させる。

 腕を見ると薬草と包帯が巻かれていた。


 死ねなかったんだ。

 そんなことを考えてぼうっと洞窟の天井を見ていると、私の顔を覗き込んできた人と目が合った。

 その人は私より少し年上くらいの女の子で、一瞬はっと目を見開くと嬉しそうな顔をした。


「お父さん!!この子、気がついたよ!!」


 彼女がそう叫ぶともう1人私の顔を覗いた。


「良かった。無事だったんだな、ぼうず。ひどい怪我だったから気がつかなかったらどうしようかと思ったよ。」


 そう言って私に笑いかける。

 人を安心させるような笑顔。

 意識を失う前にみた映像と重なる。

 そうか、この人が私を助けてくれた、いや助けてしまったのか。

 しかし、善意で行動してくれたのだから失礼な態度をとってはいけないな。

 そう思い、お礼を言おうと体を起こした。


 その時、目の前にある大きな水晶に映った自分の姿に驚いた。

 太った男の子。

 そうとしか見えない。

 魔獣から逃げる際に切り落とした髪は思ったよりも短かくなっていた。

 “ぼうず”と言われたのは聞き違いかと思っていたが、彼らは私を男の子と認識しているようだ。

 助けられた時の服装は男女違いない下着1枚の姿だったのだし、間違えても仕方がない。

 むしろ、淑女としては見られることなどありえない下着姿を見られてしまったのだから男子と思われて良かった。

 気づかれる前にお礼を言ってここから立ち去ろう。






「……あ…………う………。」


 助けていただいてありがとうございました。私はもう大丈夫ですので。


 そう言おうと口を開いたが、喉から出るのは掠れた呻き声のような音のみで一向に言葉を話せない。

 2人は私の言葉を待って心配そうに見つめている。

 早く言わなきゃ。


 声が出ない恐怖と焦りから呼吸が浅くなる。

 …はぁ…はぁっ…早く…、早く言わなくちゃ。





 ぽん。

 不意に頭に手がのせられた。

 大きく、ごつごつとした手。

 私自身を包み込んでくれるような安心感を与えてくれる。


「大丈夫。無理しなくていいんだ。怖かったんだな。」


「安心して!私たちが守ってあげるからね!」


 女の子が背中を優しくさすってくれる。


 体温が伝わってくるのと同時に、そこには何か別の温かさも存在していた。

 心の安寧、人のぬくもりというのはこういうことなのだろうか。


 私は初めて経験する感覚にただ、戸惑うだけだった。











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