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「うっ……」


 地面にうずくまっている男の子が小さくうめき声を上げた。

 良かった、まだ無事だ。

 だがほっとしたのもつかの間、男の子がかばうように抱いている自分の左腕を見て顔色が変わった。

 その腕は赤黒く変色し、通常の2倍もの太さにまで膨れあがっていたのだ。

 大群に襲われているこの状況で他に目立った外傷もないというのも奇跡に近いが、やはりポイズンビーの最大の武器である毒針からは逃れられなかったようだ。


 これはまずい。

 一刻も早く治療しなければ死に至ってしまう。

 刺されてしまっている可能性は考慮していたが、実際に目の前に苦しんでいる人を大きな焦りを感じる。


 駄目だ、こういう時こそ冷静にならないと。

 そう考えている間にもポイズンビーの襲撃は続き、男の子を庇いながら戦うことに限度を感じた。

 私は倒れている男の子を抱き上げると、ひとまずはポイズンビーの群れから離れるべく森の奥へと走り出した。



 しばらく行くと、中が青白く光る洞窟を見つけた。

 良かった、やっぱりあった。

 当てもなく走り出した訳ではなく、この場所、魔獣を寄せ付けない水晶ブルークオーツがあるところを探していた。

 昔はこの森は水晶の発掘が盛んであったが、ポイズンビーが住み着いてしまったことで手つかずのものがまだ残っているという話を耳にしたことがあったから、それに賭けてみたのだ。

 その中に入り男の子を手早く寝かせると、再び洞窟の外へ飛び出した。

 治療にはポイズンビーの一部が材料として必要だからだ。


 そこには数匹のポイズンビーがいたが、どれもウィルの攻撃魔法で弱っており倒すのはそれほど厳しく無さそうだ。

 予想通り難なく最後の一体を倒し持ち帰ろうとしているとき、茂みから新たな魔獣の気配を感じた。

 そして次の瞬間、飛び出してきたのは……ファイヤーウルフだった。


 すぐさま剣を構える。

 ファイヤーウルフはランクCの魔獣。

 私の実力なら負けることはない。




 ……そう思って斬りかかろうとしたのだが、私の意思と反して身体は小さく震えるだけで動いてはくれなかった。

 私はまだあの頃の私に支配されているのか。

 もう、弱い自分は捨てた、生まれ変わったんだと思っていたのに。

 あの日、ファイヤーウルフに襲われた恐怖を私は忘れられていなかったようだ。






 ……でも!あの時とは違う!

 私には帰る場所も守らなくてはいけないものも今はある。

 こんなところで死ぬわけにはいかないんだ!


 あの時はつむってしまった目を見開いて相手と正面から向き合う。

 そしてがむしゃらに剣を振り切った。

 太刀筋は滅茶苦茶で当たるわけではなかったが、攻撃することができた。

 それでも動かすことのできた身体に少しの自信を見い出せた。

 自分も少しは変われているんだと。



 しかし、剣を大振りしたせいで体勢は崩れ次の攻撃には備えられそうにない。

 どうするべきかと考えていると


「はああああああ!」


 上空からものすごいかけ声がして、ファイヤーウルフに剣が振り下ろされた。

 勢いよく斬られたファイヤーウルフは頭から真っ二つに割れ、絶命していた。

 息を切らしながら剣を鞘に収める、上から振ってきた人物はウィルだった。

 一瞬の出来事に私があっけにとられていると、ウィルは私に詰め寄った。


「お前!なんで一人で先に行ったんだ!」


 その言葉を聞き、私ははっとした。

 私の単独行動は連携をとっていたウィルに集中攻撃がいく可能性だってあったし、洞窟が見つからなかったらあの男の子にまで被害が及ぶかもしれなかった。

 自分はなんて浅はかだったんだろう。


 “ごめんなさい。僕が勝手なことをしたせいで二人まで危険な目に遭わせるところだったんだね”


 とても申し訳なく思い、書き綴る文字さえ小さく自信なさげになる。


「違う!そうじゃない!俺はお前が心配だったんだ!いくら強いとはいえ一人で何でもやろうとして何かあったらどうするつもりなんだ。この森にだって一人で行こうとして、それを見たから心配でついてきたというのに……」


 そこまで言って、ウィルがしまった、というように口を噤んだ。

 今、私のことが心配だったって言った?

 今朝はライバルの監視とか言っていたのに、そう言って心配してくれていたんだ。

 やっぱりウィルって優しい人だな。

 こういう時ってなんて言えばいいんだっけ?

 ごめんねじゃなくて……

 私はエルザにさんざん言われたことを思い出してこう書き綴った。


 “ウィル、ありがとう”


 先ほどの文字とは違って綺麗で大きめに、感謝と嬉しい気持ちをペンに乗せた。

 お礼を言われて、謙虚な彼は真っ赤に照れていたのであった。






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