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 チュンチュン……

 鳥の鳴き声と同時に私は起床する。

 日はまだ昇ったばかりでエルザはもちろん街のほとんどの人はまだ眠りについている時間だ。

 私は習慣的に身に付いている早起きを実践しているのもそうだが、今日は朝からやることがある。

 そのことはエルザに伝えておいたしいつものことなので、音を立てないようにそうっと部屋を抜け出した。




 この街に来たのは実は初めてではない。

 ガブリエルとエルザと共に何度も訪れて薬草やその他薬の材料になるものを購入しに来ている。


 この世界で魔法が身近なものとなって以来、といってもここ500年程度の話だが、薬草や動物の一部などを使った薬による治療は衰退の一途をたどっている。

 魔法には攻撃魔法や火をおこすなどの日用的な魔法に加えて、怪我や病気の治療を行う治癒魔法が存在する。

 その症状の原因が分かっていれば、怪我も病気も治癒魔法を使って簡単に治すことができるのだ。

 一方、薬はというと、原因が分かっていても回復するのに時間がかかるし材料となるものが手元に無ければ治療すらできない。

 治癒魔法でなら一瞬で治るものも薬では1日以上、長ければ半年近く完治に時間がかかることもざらではなく、下手をすれば治らないこともあるのだ。

 そういった理由から、薬は治療ではほとんど使われなくなっていったのだった。


 しかし、無敵に思える治癒魔法にも致命的な弱点がある。

 それは、現象の明確な理解が必要になるというところだ。

 ただの外傷だったら魔法で誰にでも治せるが、臓器の損傷や機能不全などの疾患は同時に高度な知識が必要となってくる。

 そのため、必要な治癒魔法が使える人は限られた優秀な魔術師だけであり、その治癒魔法を受けられる人も自然と裕福な人々に限られてしまう。

 医療における研究も魔法によるものばかりに力を入れていて、薬草や薬などには目も向けられない。

 こういった世界の動きで、薬という治療法がある事すら知らない人もいるかもしれない。


 だから私は、薬売りとして貧しい人々の治療をしながら、薬という存在を再び広めていきたいと思っているのだ。



 そして、今朝早く出かけたのはある薬の材料となるものの調達のため。

 その材料は少々入手が難しく市場に出回ることも少なく、あったとしても非常に高い値がつくものだ。

 この街に来た時しか手に入れられないので、なんとしても取っておきたい。

 門所を抜け、街の外壁を越えた先には私達が来た方とは反対側に大きな森が広がっている。

 目的のものはそこにある。

 決して気を抜かずに、私は鬱蒼と茂る森に足を踏み入れた。




 しばらく森を歩いていると、私はある事に気がついた。


 誰かにつけられている…。


 別に薬の材料やその調達方法、作り方を隠すつもりは無いが、この材料に限っては入手にかなりの危険を伴うので真似はして欲しくない。

 きちんと説明して帰ってもらおう。

 すぐに後ろを振り向こうと思ったが、相手は気づかれないようについて来ているようなので普通に話しかけても逃げてしまうかもしれない。

 それに、私は声を出して呼び止める事も出来ないので、面と向かい合える距離にならなければいけない。


 そう考え、私は一気に走り出すふりをして相手に分からないように近くの木に飛び乗った。


 タッタッタッ。


 私が走り出した事に合わせてその人物も走り出したが、私の姿を計画通り見失ったようだった。


「……あれ?どこに行ったんだ?」


 その人は目標を見失い、周りをキョロキョロと見回して少し困ったような顔をしている。

 私はすぐに姿をあらわすつもりだった。

 だが、そこにいる予想外の人物に当惑し、木の上で動けずに固まっていた。


 その人物は………ウィルだったのである。


 え?

 なんで彼がここに?


 ウィルがこの時間に起きていた事にも驚きだが、それよりも私をつけていた事が意外過ぎる。

 確かに私のことをライバルと認めたとは言っていたが、それ以上に私を知ろうとするような行動をとるなど信じられなかった。

 こんな事をするよりも、エルザを追いかけて愛の告白をしていた方がよっぽど有意義ではないだろうか。


 そんな事が頭を巡ってなかなか出るに出られなかったが、このまま何も知らずに森の奥まで行ってしまったら例え魔術の優秀なウィルであっても危険だ。

 意を決して、サッと彼の後ろに飛び降りた。


「……うわっ!?お、驚いた。いつの間に後ろにいたんだ!?」


 地面に着地した音は殆どたてなかったが、気配で気づいたのか振り返った彼と向かい合う。

 しばらく驚きで目を見開いていたが今の状況を思い出し、尾行がバレたことに気づいたウィルはバツが悪そうに頭を掻いた。

「……あー、これはー……」などと気まずそうにしていたが、開き直ったかのように高々と宣言した。


「お前は俺のライバルだからな!!弱点を探ってやる!行動を監視して何が悪い!!」


 そう言うウィルは何故か勝ち誇ったような表情だった。

 私は本当はエルザの彼氏でも何でもなく男ですらなくて、彼に無駄な労力をかけさせてしまっていることに申し訳なく思ったが、私に興味を持ってくれていることを嬉しく感じた。

 このまま一緒に行けたら楽しそうだが、私は危険が伴う材料採取に来たのだ。

 彼がそういう理由できたなら、ついて来る意味はない。

 そう思って、ウィルにその旨を書いて伝えた。

 しかし、それを見たウィルは………


「俺も行く。止めても無駄だぞ。ついていくからな。」


 と、頑なに帰ろうとしなかった。

 私と一緒にいたって何も得られないのに何故だろう?

 私には分からない。

 私と一緒にいてもつまらないだろうし、会話ひとつするにしても面倒だ。

 エルザに話しかけに行った方が何倍も良いと思うのに……。


 それでも考えを変えないウィルを諦めさせるのは無理だと悟った。

 彼のその強い意志を宿した目に観念し、私はこれから狩りに行く薬の材料、ポイズンビーについて説明を始めるのだった。








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