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「おはよう。いい朝だね。じゃあ今日もサクッと進もうか。」


 キースは軽く伸びをして深呼吸した。

 昨日の事はおくびにも出さずのいつも通りに振舞っている。

 実は夢だったのではないかという考えもよぎるほどだ。

 でもきっと、キースはそういう風に振舞うのがうまいんだと思う。

 そんな彼に感謝し、今まで通りの日常を遅れる予感に安堵した。




 2日目も、順調に歩みを進めることができた。

 途中で魔物が現れたり、盗賊たちとはち合わせたりなどなかなかのハプニングはあったが、如何せんこの一行のレベルが高いので何事もなかったかのように撃退した。

 連携も最初より出来るようになってきて、何か問題が起こってもこのメンバーなら一瞬で解決できるだろ。

 なんとも心強い。


 そんなこんなで私たちは2回目の夜を迎えた。

 今回はちょうどよい洞窟がないポイントで、ある程度開けた空間に野宿になるが、雲ひとつない夜空が広がっているので雨の心配もなさそうだ。

 満天の星を見ながら眠るのもたまにはいいかもしれない。


「近くに湖もあるから、水浴びでもしてきたら?俺は、夕食の下ごしらえでもしとくからさ。」


 昼間に出会った魔獣の一つに高級食材と言われているイノシシンがいた。

 普通、旅の食事といえば日持ちする乾物などの美味しいとは言えないようなものばかりだが、ここでこんな食材に出会えるとは運がいい。

 さらに、魔獣は解体する時に間違った方法で行うと死骸に残っていた魔力から魔法が発動してしまうこともあり危険を伴うのだが、キースはその技術を持っているというのでこの場で味わうことができるというわけだ。


 ちなみにイノシシンは猪のような見た目で性質も似ていて敵に向かって急突進してくるのだが、そのスピードが魔力によってとてつもないものになるという上級魔獣だ。

 そんな魔獣もさらっと倒してしまったなんて。

 きっとエルザなんか食材としてしか見てなかったよ。


「ありがとう。じゃあ、それに甘えさせてもらうわ。ちょっと行ってくるわね。」


 私は行く気は起らなかったが、昨日体を清めていないエルザはその提案に乗り気だ。

 いってらっしゃい。と言いつつもイノシシンを前に楽しげにナイフを光らせるキースはだいぶ怖い。

 手伝えそうにはないな。

 1人で行かせるのも危ないと思い、私も湖へ向かうエルザの後を追った。





「リュカ、ついてきてくれてありがとね。でも、別に大丈夫なのに。」


 “エルザは危機感がなさすぎるよ。何かあったら大変でしょ。僕は彼氏ってことになってるからそれっぽいとこも見せなきゃだしね”


「あはは、そうね。リュカの声は私が言ってたって知られた時どうしようかと思ったわ。あれを自分で言ってたなんて知られたら恥ずかしすぎるもの。」


 あ、やっぱりエルザも知られるのは恥ずかしかったのか。

 だったら、言わないでよ。


「だめよ。ああいうセリフは世の中の女の子たちの願望の結晶みたいなものなのよ。本当は、リュカに自分から言ってほしいくらいなのに、私が代弁してあげてるのよ。男性の見本となるようにね。」


 呆れが顔に出ていたらしい。

 あの状況には冷や汗をかいたが、これに懲りてもう変なこと言わないようになると思ったのに。

 エルザの私の口・・・の改善は見込めないようだ。


「あ、いけない。あんまり遅くなっても悪いしそろそろ行ってくるわね。見張りよろしく。」


 つい話し込んでしまった。

 私も水浴びが見えないところまで離れようと踵を返すとエルザから呼び止められた。


「あ、ちょっと待って。悪いけどこれ持っててくれない?はずしてくるの忘れちゃってたわ。」


 そう言って、首から下げて服の中に隠れていたペンダントを預けてきた。

 赤い宝玉がついたそれを彼女が身に着けていたことを私は知らなかった。


 “それ、まだつけてたんだ。”


「あら、ずっとつけてたしこれからもずっとつけ続けるつもりよ。だって、リュカからの初めてのプレゼントだからね。」


 ほら、水浴びするんだから行った行ったと、嬉しそうに、少々照れたように私を追いたてた。




 今、手の中にあるペンダント。

 それは、私がエルザと共に崖から落ちたあの日、彼女に手渡したものだった。

 あの時、私が唯一身に着けていたもの。

 私のせいで怪我までしてしまったエルザに申し訳なくなんとかお詫びをしたいと思い渡した。


 月明かりにかざすと、その透き通った宝玉はなお美しさを増す。

 そして、月のわずかな魔力によって宝玉にある紋章が浮かび上がるのを知っているのは私だけだ。

 隣国エクソシス王国の王家の紋章が。




 そのペンダントは、私が昔、その国の第三王子ウィリアムにもらったものであった。





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