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「ところでさ、君ってすごい無口だよね。しゃべったの聞いたことないかも。」
唐突にキースが私に話を振ってきた。
少し湿っぽくなった雰囲気を和ませようとしたのかも知れないが、その話題は困る。
私には話しかけてこないで!
今、私とエルザの間にキースが座っている形になっているのでエルザに助けを求めることもできない。
でも、確かにキースに対しては1度も私の口、つまりエルザの腹話術で話していない。
話す必要が無かったこともあるのだが、それよりも、あまり近くにいたり、長く一緒にいたりする人に使うとボロが出てしまうかも知れないことも考慮している。
だから、何回も話す予定のある人には極力使わないようにしている。
「キース、騙されるな。こいつは無口なんかじゃないぞ。エルザに恥ずかしくなるような変なことばかり言うやつだぞ。」
私の返答を待つキースにウィルが応える。
毎回、偶然というもののウィルには助けられてるよね。
ありがたいです。
あ……そういえば、ウィルだけには何回も使っていたっけ。
必要最低限の会話や返答だけ、私が口が聞けないと気づかれないようにするために始めた腹話術だったが、彼に対してはあまり気にせずに使っていた。
まっすぐ過ぎるウィルは周りが見えていないみたいだったし、全く気づく気配もなかったから大丈夫な気がしていた。
現に、何も問題なかったし。
でも、その話ってちょっと待って。
もしかしてエルザが私の口から言ってたことのこと?
決闘の時でさえ冷めていたキースに聞かれたら恥ずかしすぎる。
「ふーん、そうなんだ。で、変なことってどんなこと?」
キースがどうでもいいことに興味を持ち出した。
話が逸れたのはいいけど……
え?あれ言うの?
「エルザのこと、俺のか…可愛いこ…子猫ちゃんとかなんだとか。」
ウィルが若干口に出すのを躊躇ったおかげで余計に恥ずかしく思える。
言ったウィルも少し赤くなっているように見える。
そんなになるなら言わないで。
「へー。全然想像できないな。君、そんなこと言うタイプなんだ。ていうか、君達付き合ってるとかそういう関係?てっきり兄弟かただの旅仲間だと思ってたよ。」
はい、そうです。
付き合ってもなく、兄弟のように過ごしてきました。
とはいえず、肯定も否定も出来ずにいるとエルザが語り始めた。
「そうよ。私達は恋人同士なの。リュカは私に毎晩熱い言葉をくれるわ。今日も花のように可愛いねとか、君のハートでイチコロだよとか。」
言ってないから!!
しかも毎晩って何!?
それに、セリフのセンスが全然感じられないんだけど、エルザそれ言われて本当に嬉しいの?
ウィルからの視線が痛いくらいに突き刺さってる気がする。
羞恥にいたたまれず、俯いているとキースがふっと笑った。
「えー。そのくらいのレベルなの?俺なら彼女のためにもっと甘い言葉をあげるけどね。」
そう言うとキースはさっと立ち上がり……
「ああ、マイプリンセス。なんて綺麗なんだ。君の瞳はまるで魔石のよう。俺を惹きつけて離さない。そんな君にどんな宝よりも大きな魅力を感じてしまったらもっと君のことを深く、奥まで知りたくなってしまう。君に口づけしてもいいかい?…………くらいは言うけどね。」
と、自然な動きで相手を抱き寄せ、顔と顔がもうくっつくのではないかというくらい近づけて囁いた。
こんな状況でこんな風に言われたらどんな女の子もときめくに違いない。
うん、大変勉強になりました。
私はその技を使うことはないけど。
でも………
それを私にやらなくていいから!!
キースはあの甘い言葉をエルザではなく私を相手に囁いたのだった。
私はキースを押しのいて即座に距離を取る。
彼を睨み付けると、楽しそうに悪戯っぽい笑みを浮かべていた。




