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12.

 



「あら、何?この人だかり。私が少し離れてる間に何があったの?」


 分厚いリストをもって現れた彼女はまさに私が今待ち望んでいた人物だった。


 エルザ、お願い!と私が目で合図しようとするとそれよりも早く例の怪しい男が行動を起こした。


「やあ、可憐なお嬢さん。俺はキース。剣術も得意だけど、特に防御魔法がセールスポイント。何より最上級防御魔法と言われる無効化魔法を使えるんだ。俺を雇えば安全な旅を保証するよ。」


 キースと名乗ったその男は、怪しげな風貌と重々しい雰囲気とは対称に気さくに話しかけてきた。

 無効化魔法とは名前の通り発動された魔法を無効にする逆魔法である。

 魔法は、魔力を複雑な術式によって現象として生み出すものだが、無効化魔法ではその術式を読み解きほぐし、自らの魔力によってその魔力を霧散するというものだ。

 この魔法を使える魔術師は珍しく大いに戦力になることは間違いないので護衛として連れて行けば安全な旅は保証されるが…


「ちょっと待って。あなた、そんなに高ランクの魔法が使えるっていうなら冒険者ランクも高いんじゃないの?そうだったら、私たちそんなに出せないわよ。BかCランクの人を雇おうと思ってたから。……あら?“キース”なんてこのリストに載ってないわね。」


 エルザも私と同じことを考えていたようだ。

 そう。

 ガブリエルが当分暮らしていけるほどの資金は残しておいてくれてはいるが、このようなところで散財することは好ましくない。

 まあ、私もエルザも決して弱くはないので、適当な魔術師で事足りるだろう。

 キースには悪いが、丁重にお断りしよう。

 しかし、なぜリストに名前がないのだろうか。


「ああ。それなら心配することはないよ。実は今、冒険者登録の更新手続き中で正式に依頼が受けられないんだ。リストも書き換え中でね。で、俺も隣の街に行きたいからこうして護衛の依頼に来そうな人を待ち構えてたってわけ。普段ならもっと高いけど、ただの旅の護衛だからBランクの冒険者と同じ報酬でいいよ。」


「それなら問題ないわね。じゃあ、この街から隣の街までの護衛ってことで契約しましょ「駄目です。待って下さい。」……え?」


 成立しかけていた契約に突如今まで口を閉ざしていた人物が介入してきた。

 一見どこにでもいそうな何の変哲も無い青年に見えるがその挙動はどこか洗練されたようにも感じられる。

 どこかで見たことのあるような……

 あ、確かウィルとの決闘の時に終了を言い渡した人だ。

 もしかして、前からウィルの近くにいたのかな?

 今まで彼に気づかなかったのは彼がそういう風・・・・・に振る舞っていたからなのかもしれない。

 考え過ぎかも知れないけれど、彼のその人当たりの良さそうな笑顔の裏に何か黒い部分があるような気がしてならない。


「急に部外者である私が口を挟んで申し訳ありません。ですが、話を聞いていて、この契約に関して1つ2つ言いたいことがあります。まず、キースさん。失礼を承知で言いますが、あなたは本当に無効化魔法を使えるのでしょうか。そもそも、冒険者かどうかでさえリストに載ってないので確認できず、エルザさん方を騙しているという可能性もあります。

 次にもう一つ。仮にキースさんが冒険者だとして、リストがないのでは契約はできないのではないですか?ギルドを通さずに契約するのは規則違反になってしまいますよ。」


 私もその疑問点は感じていた。

 この青年が言わなければ自分から指摘していただろう。

 でも、こんなにまで的確に言及できたかはあやしい。

 この人は何故ここまでしてくれるんだろう。

 私達と親しいわけでもましてや話したこともないのに。

 すると、キースの方を向いて話していたその青年が私とエルザの方に向き直った。


「ですから、身元も冒険者ランクもしっかり分かっているこのウィルを雇いませんか?ウィルはCランクになったばかりですが、魔術の腕はAランクにも匹敵します。剣術もリュカさんには敵いませんでしたがそこらへんの野盗達なら簡単にのせますよ。報酬は正規の額でCランクですからお安いですよ。」


 なるほど、そういうことね。

 この青年はウィルを売り込むためにキースの問題点を指摘したんだ。

 それなら納得できる。

 ウィルとの関係性はよく分からないが親しい仲であることは明白だった。

 って、この人のことを1番知っているはずのウィルが彼の行動に1番呆然としてるけどどうしたの。

 そんな状況だったが、キースはそれに臆することなく返答した。


「そのことも心配ないよ。まず、ギルドを通さずに個人的に依頼を受けるのは規則違反だってことだけど厳密にはギルドの掲示板に貼られた依頼をギルドを通さずにその依頼者本人と連絡をとって受けることが違反なんだよ。君達はまだギルドに冒険者の募集や指名をしてないから大丈夫。知り合い同士で依頼を受け合うこともあるからね。」


 ギルドは仕事の仲介の役割を果たしてるだけで使っても使わなくてもいいって事なのか。


「まあ、リストがあるときはちゃんとギルドを通して依頼を受けた方がいいんだけどね。冒険者ランクってあるだろう?それはギルドからの依頼をこなした量とか質とかで上がっていくんだ。だから、ほとんどの人はギルドから仲介された仕事をしてるんだよ。あー、それと俺が冒険者かどうかって話だけど、それはこれを見ればわかるだろう?」


 そう言ってキースはふところから金色に光輝く1枚の板を取り出した。


「な!?それはSランクの冒険者プレート……!?」


今まで黙ったままでいたウィルの口から言葉が溢れた。

その金色に輝く板は紛れも無い冒険者の印だった。

冒険者プレートは冒険者に登録した人全員に渡されるものであるが、それはランクによって変わってくる。

Dランクでは木の板、Cランクでは鉄の板とランクが上がるに伴ってさらに銅、銀と素材が変わっていきSランクでは金の板が使われている。


「そう。俺、Sランクの冒険者なんだよ。でも実は、Sランクあての護衛の依頼って報酬がバカ高くなるからなかなかないわけ。だから君達が雇ってくれなくても自力で旅仲間を探さなきゃならないんだ。ほら、人助けだと思ってさ。あ、無効化魔法が見たいんなら今から見せるからさ。」


さあ、ついてきてよ。と、余裕な態度で私達2人をギルドの外へ連れ出そうとする。

完全にキースのペースに飲まれてしまった。

しかし、この流れはまずい。

もしかしたら私が放った攻撃魔法を無効化させて見せると言い出すかもしれない。

それは非常にまずい。

なぜなら私は……


「待て!キース!護衛の座をかけて俺と勝負しろ!」


私がどうしようかと困惑していると、思わぬところから助け船が出されたのだった。




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