10.満たされるほど満たされず
エリザベート幼少期視点
「これ、とてもおいしいわね。私、もういいからエリザベートにあげるわ。」
愛らしい笑顔で、レイラは私にそう言った。
その行動が好意と信じて疑わないようなそんな態度で。
「もうお腹いっぱいなの。だから……」
夕食時、私もレイラと同じ量が出されているというのに彼女は半分ほどしか食べていないその料理を勧めてくる。
私も1人前食べるので精一杯だった。
「え……。せっかくお姉ちゃんがあげるって言ってるのに。私からは貰いたくないのね……。」
レイラは少し湿り気を帯びた声で囁く。
可憐な彼女が落胆したような態度をするだけで、自分が何か悪いことをしているのではないかと錯覚してくる。
共に食事をとっている両親からの視線も私を責めるものになっているような気がした。
私はそんな目に見えない圧力に圧倒されるように本当は欲しくないのに、本当は思っていないのにまた肯定の言葉を述べてしまう。
「そんなことないわ。やっぱり、いただくわ。その料理、とても美味しいからもっと食べたいと思っていたの。お姉ちゃん、ありがとう。」
私がそう言うと、レイラは花が咲いたような笑顔を振りまく。
この笑顔を見て両親も満足しているようだ。
私はお腹がはち切れそうになりながらも無理やり料理を胃に詰め込む。
レイラはことあるごとに私に食べ物を与えてくる。
自分はそれほど食べないのに侍女に作ってもらったお菓子。
レイラに好意をもった男の子からの贈り物。
私は連れて行かれなかった両親との遠出の際のお土産。
私はそれらをどんなにお腹が空いていなくても、どんなにお腹がいっぱいだとしても残さず全て食べる。
レイラが「せっかく貰ったんだから捨てたりしたら申し訳ないでしょ!全部食べなきゃダメよ。」と言ってくるから。
そうか。
私が食べるだけで好意が無駄にならないんだ。
人の役に立てるんだ。
他の人達が幸せな気分になるんだったら少しくらい自分が苦しい思いをしたって構わない。
そう思うのだけれど、なぜだろう?
お腹が満たされるほど、反比例するかのように心が満たされず空虚なものになっていくように感じるのは。




