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落ち穂拾い

作者: 安岡 憙弘

落ち穂拾い

 

ミレーの作品が名古屋にもやってくるということで、私は友人と共に画廊をおとずれると、当てにしていたミレーの落ち穂拾いの前に集まっている黒山の人だかりを避ける為に10分ほどロビーのイスに腰かけて友人と談話に花を咲かせた。

「ミレーの作品を君は一体何回見たのかい。僕はまだ生で見るのは初めてだ。」

「僕も初めてだよ。初めて名古屋にミレーがくるというので滅多に出歩かない僕が君をさそって見にくるなんてのは珍しいことなんだ。君もよくあの落ち穂拾いを見ておくといいよ。」

「へえ、君がそんなにこだわるとは、きっといい作品にちがいないね。楽しみにしているよ。だけど何でまた落ち穂拾いなんだい。代表作だってのは知ってるけど。」

「いや、実は僕がミレーの中で一番好きなのは何と言ったかな・・マリ・・何とかという少女が鏡の前で微笑している作品なんだ。あの作品にはなにか悪魔的なものを感じてね。君も一度観てみるといい。僕はあの作品が全ての絵画の中で一番好きだ。オフィーリアなんかよりもずっとね。僕は生まれてからあまり絵画に興味を持ったことはないんだが、ルノワールとミレー、それからいくつかのマネの作品だけは大好きなんだ。だってそれらにはみな、なにかしらリアルなものが感じられるから。僕はピカソみたいなシュールな絵画よりは、写実的な作品の方がゾクゾクするものを感じているなあと思うんだよ。僕はそう思うな。」

「じゃあ君は俳句や何かでも写実主義の作品を好むのかい。

正岡子規やなにかの。そういうなのが好きなのか。僕はそういうなのよりも、自然主義者の作品の方がいいな。田山花袋の“蒲団”なんかすごくありのままの生活が出てていいじゃないか。僕は絵画だってミレーよりももっと華のあるモネやピカソのゲルニカなんか天才性がよく出てていいと思うよ。君は何か少し暗い所があるね。ところで落ち穂ひろいが好きなのは何か理由があるのか。あれば聞いてみたいな。君は不思議な所のある男だからね。僕は友人として知っておくべきだと思うんだ。僕は今でも君の趣趣味よくがわからないんだ。」

「そのことはそろそろ列に加わって並びながら話そうよ。僕は疲れてきたので はやく帰りたいんだ。

友人は笑って僕と共に落ち穂拾いの列に加わって僕の話の続きを促した。

「僕はねカナダにいた時にあまり外出をせずにアパートの一室にこもってよくインターネットで絵画を見てたんだ。」

ゴッホ、ミレー、その他色々と検索をしていたんだ。ところが僕はゴッホの作品がある時から全く見れなくなってしまったんだ。見れないというのは、直視できないという意味かな。僕は困ったことになったぞと想ってたんだ。僕はその他にも芥川龍之介の『歯車』が一文字も読むことができなくなったんだ。僕は自分も気がおかしくなったのかなとと思い非常に悩んだ。その時に出会ったのがミレーの落ち穂拾いだったんだ。僕はこの作品を観てああ救われたなと思ったよ。僕はこの作品に我が身を見ていたんだと想う。僕の人生はこの作品のように石臼をギリギリと回すような非常に危なっかしものだったんだ。い君は僕の言ってることをわかってくれるか。僕は君ならわかってくれると思って今日君を連れてきたんだ。僕はこのようなことはあまり言いたくないけれど。僕のいうことはいつも何かしらひねくれているとみなが言うからね。僕はいつだって誰にも理解してもらえない。そういう人生だったんだ。君にはわかるか。僕はいつも誤解されてばかりいるから一人でも知っていてくれる人が欲しかった。ただそれだけさ。」

「君はどうしてゴッホや芥川の作品が見れなくなってしまったんだ。説明してくれよ。僕には不思議なこととしか思えないよ。」

「芥川の作品じゃないよ。歯車だよ。歯車が回っているように見えるんだ。本当に狂いそうになるのさ。恐怖心といったらまるで化け物みたいなものさ。君にはわからないだろうけど。

僕は以来「歯車だけは決して目の中に入れないようにしているんだ。ある時まではね。でもその事は今は話すことじゃない。僕は他に、ゴッホのヒマワリだけは決して目の中に入れないようにしている。あの華やかな黄色を見ていると、ゴッホ耳を削ぎ落した時の気持ちがはっきりとわかってまた狂いそうになるんだ.それが理由だよ。僕はそれ以来2つの作品は決して見ないことにしているよ。ゴッホの場合は全作品かな。どこにも黄色が使われているからね。唯一カフェか何か夜のカフェの写真だけは見れそうな気がしたけれど。とにかくぼくはいつでも癒されたいと思っていたのはまちがいない。こういう事情があるからね。僕はいつでもゴッホの作品から遠ざかるようにして生きてきた。君には遠い話の様に思えるだろうけど。僕がその時出会ったのがミレーの落ち穂拾いだたっというわけさ。」

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