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猫狐狗狸の戦い  作者: ぴぃ夏
1/1

四つ巴の戦い

どうもこんにちは。久しぶりの投稿です。

今回もメイン人物は男子4人と女子4人となっております。

まだまだ文章力不足ですが、ぜひ読んでください。

「お前ら!今日は思いっきり行くぞ!」

 そう言って大勢の味方を引き連れて、戦闘を突っ走る藤谷 絢。

 皆は仲間の証である狐の仮面をかぶり直し、夕暮れの中を駆け抜ける。

「ホントにこっち出会ってるの?」

 不安そうに絢に聞いてくる白鹿 穂美。

「安心しろ。お前みたいな方向音痴じゃねぇからww」

「ちょっと!そんなでもないから!」

「集落に帰るのも迷ってたやつが何言ってんだww」

「五月蠅い!」

 狐の集団では毎回お約束になっている二人の言い争いが続く。

「猫どもの居場所への道は覚えた。いいから黙ってついてこい。」

「う~…わかった。」

 そう言って穂美は絢と並んで走り続ける。

 絢たちが目指している場所は、何年も対立し続けている敵勢力の内の一つの本拠地だった。

 絢たちが被っている狐の仮面のように、他の敵も、仲間の証である仮面をかぶっている。その種類は狐以外に猫、狛犬、狸の三種類が存在する。

 その中の猫の集団の本拠地の場所が判明したので攻め込むということだった。

「お前ら遠慮はいらねぇ!派手に暴れようぜ!」

 絢が背中に背負っている身の丈ほどの太刀を天に向けて鼓舞すると、それに応えるように全員が声を上げる。

 橙色の空の中を大勢の影が走り抜けていった。


 一方。

「そろそろこちらも行動しよう。狗たちも動くだろうし。」

 山口 飛駆は大勢の味方軍の前に進み、兜割を掲げる。

「全軍、奇襲の準備だ。敵を殲滅する。」

 狸の仮面を被った軍団は声を上げて出陣を始める。

「飛駆、作戦は?」

 坂原 詩央は飛駆の横に並び尋ねる。

「問題ないよ。猫と犬が交戦しているらしい。手薄になった猫を叩く。」

 兜割鞘に納め、自分の仮面を被る。

「さて、狸が化ける時だ。」

 飛駆は和服の懐から木の葉を出すと、額にかざした。

「詩央も準備しな。時間だ。」

「わかった。」

 詩央も懐から木の葉を出し、額にかざして出陣を始める。


 山道を駆け抜ける狐の集団。

「ッ!?全軍、止まって!!」 

 いきなり穂美が味方軍を止めた。

「何か近くにいる。」

「そこの茂みが怪しいな。」

 絢は太刀に手をかけて近づく。

「出てこいよ。ばれてるからよ。」

 そう言って鞘から少し刀身を抜く。

「やれやれ、狐の感の良さは異常だね。」

 そう言って猫の仮面をかぶった男が現れる。

「猫?まだ拠点からは離れているはずなのに?」

「おかしいな。犬が来ると思って待ち伏せていたのに。狐じゃ意味ないよ。」

 そう言うと、猫の仮面が狸の仮面に変わる。

 その後ろからは狸の軍勢が姿を現した。

「狸だと?」

「悪いけど、お前らに猫は取らせない。俺らがやるからさ。帰ってくれない?」

 穏やかな口調だが、圧力のある声。

 だが、絢にとっては挑発にしか聞こえない。

「お前気に食わねぇな。猫の前に狸をつぶした方がいいみてぇだな。」

 太刀を鞘から抜き、構える。

「飛駆、この人は狐の総大将だよ。」

「大将?なるほど、絢か。戦ってみて損はないね。」

 そう言って兜割に手を添える。

「飛駆…狸の大将か…。てことは、横のやつは相方の詩央か。」

「そっちの相方。穂美のことも知っていますよ。」

 仮面で表情はわからないが、お互いの大将とその相方の対峙する。空気は自然に引き締まる。

「二対二でやってやる。お前ら、手を出すなよ。」

 絢はそう言って味方の方を睨む。

「構わないよ。皆もじっとしとけ。」

 飛駆も口調を厳しくする。

「時報がなったら戦闘開始だ。」

「それでいいぜ。」

「容赦しませんよ。」

「本気でいく!」

 四人はそれぞれ構えを取る。

 緊張感が場を包み、両軍の味方は息をのむ。

 そして、薄暗くなった空に時報の鐘が鳴り響いた。


 時報の鐘が響きわたると同時に、絢と飛駆は叫びをあげて一気に切り込む。

 絢の身の丈ほどの太刀を飛駆は兜割の枝鉤で受け止める。

「兜割か。ずいぶんおしゃれな武器じゃねぇか。」

「そっちも随分な馬鹿力だね。片手で振り回すもんじゃないよそれ。」

 手元を反して太刀を受け流し、絢の喉元へ突き上げる。切先は絢の首を貫いたはずだが。

「ッ!?手応えがない?」

「それは幻だぜ。」

 飛駆の後ろから絢が太刀を両手持ちにして思い切り振り下ろす。

 間一髪のところを転がって避わした。

「分身とか、反則じゃない?」

「変化でも使っていいぜ。意味ないだろうけどな。」

 敵が誰かがわかっている状況だと変化なんて意味はない。

 二対二という前提ルールがあるならなおさらだ。

「状況はそっちの方が不利。勝負は見えてんなぁ。」

 にたりと笑って飛駆に太刀を向ける。

「ヤバい…わけでもないか。」

 そう言って腰に刺してあるもう一本の兜割を鞘から引き抜く。

「二刀流か?珍しいな。」

「ちょっと本気で行かないと負けそうだしね。」

 その瞬間、飛駆の姿が目の前から消えた。

「ッな!?」

「こっちだよ。」

 懐から交差させるように切りつける。

 絢は上体を後ろに反らして直撃は避けるが、かすった腹部に赤い線が二筋できる。

「てめぇ…。」

「これは能力でも何でもない。ただの速さだよ。」

 飛駆は余裕そうに軽く跳躍した。

「もう一回…行くよ。」

 そう言ってまた姿を消す。

「チィ!!」

 絢はとっさに太刀を地面に突きさして防御態勢をとる。

「今度はこっちだよ。」

 その声は後ろから聞こえた。

 飛駆は武器を逆手に持ち替えて両手を思いっきり振り下ろす。

「わかってる。だからこいつを放したんだよ。」

 絢は振り向いて拳に力を込めた。

「おらああああああああああ!!!」

 ドゴォォォ!!

 強烈なアッパーカットが飛駆の顎に決まる。

 飛駆宙に浮かぶくらいの勢いで吹っ飛ばされた。

「痛った…。野蛮すぎるでしょ。」

 顎をさすりながら起き上る。

「そのダッサイ仮面も外してやればよかったぜ。」

「それはマナー違反だ。」

 絢は地面に刺さってる太刀を引き抜いた。

「今度はこっちから行くぜ!!」

 そう言って飛駆に向かって突っ込む。

「遅いよ!」

 スピードでは絢は飛駆に勝てない。

 あっという間に死角に回り込まれ、反撃のスキを許してしまう。

「なぁ、妖狐が使う狐火って知ってるか?」

 不意に絢がニヤリと笑いながらつぶやく。

「ッ!?しまった!!」

「遅ぇ!!」

 刹那、絢の周りを紫炎の爆発がつつんだ。

「妖炎爆葬とか付けてたなぁ。厨二病全開の名前だけどよ。」

 半径約二メートルの範囲は黒く焦げ、怪しげな色の炎を立てている。

 そしてそこに飛駆の姿はない。

「こんなんでくたばる訳ねぇよな。」

 そう言ってあたりを見回すと、地面の下から飛駆が姿を現す。

「危なかったよ。狸の変化も役に立つね。」

「おおかた小せぇ石ころにでも化けたんだろ。地面に少しくぼみを作ってそこに入れば防げるしな。」

「正解。変化の術はサイズも変えられるからね。」

 爆発が起きる直前、地面を足で少し掘り、指でつまめるくらいの石に化けて穴に入る。

 そうすれば、爆発は地面の下までは来ないためなんとか直撃は避けられた。

「ただ、すごく熱かったんだよね。」

「次は全身火だるまにしてやるよ。」

 そう言ってお互いはまた武器を構える。

 久々の激戦に、絢は楽しさのあまり手が震えた。


「となりは随分熱くなってますね。」

「うちらも盛り上がるしか!!」

 そう言って穂美は二本の短刀を両手で逆手に持ち、詩央に向かってとびかかる。

 右手を詩央の頭部をめがけて振り下ろすが、詩央はそれを番傘を開いて受け止め、穂美の脇腹に蹴りを入れる。

「いったぁッ!」

「一人で盛り上がってますね。楽しそうで。」

 詩央はクスリと笑って穂美を上から見下すような目で見る。

「まだまだこれから!!」

 深く息を吐いて両手の短刀に意識を集中させる。

「はぁぁぁぁぁ…。」

 すると、紫色の炎が刀身を包み込んだ。

「狐火…あなたも使えるのですか。」

 詩央は驚いた様子も見せず、丁寧な口調のまま言った。

「まあね。うちが一番使いこなせてるし!」

「嘘ついてんじゃねぇ。」

 横から飛駆と戦っている最中の絢が突っ込みを入れる。

「ちょっと!そこは黙っててよ!」

「言い争ってる場合ではありませんよ。」

 はっと前をむくと、詩央が目の前まで来ていた。

 番傘の柄に手を添え、居合の構えを取っている。

「やば!」

 地面を思いっきり蹴って後ろへ飛ぶ。その瞬間、穂美の少し前で一筋の光が通った。

 いや、光ではなくそれは斬撃だった。

「今のを避けるなんて…。瞬発力が良いですね。」

「ギリギリだっつ~の。」

 とっさに避わせたが、今のを食らっていたら上半身と下半身が別々になっていただろう。

 そう思うとグロテスクに感じた。

「じゃあ次はこっちから!」

 穂美は短刀を前に突き出すと、そこから詩央に向かって一本の火柱が走った。

「遠距離!?」

 横に飛び込み紙一重で避ける。

「まだまだぁ!」

 二本目の短刀を突き出しもう一本の火柱を走らせる。

「しつこいですね。」

 今度は詩央は番傘を開いて炎を防いだ。

 傘をたたむと目の間から穂美が突っ込んでくる。

「もらった!」

「ッ!!」

 穂美の斬撃を番傘の柄で受け止め、そこから刀身を引き抜いて切りかかる。

 穂美はそれを二本目の短刀で防ぐ。

「やっぱり仕込み刀か。」

「気付いていなかったんですか?」

「き、気付いてたし!」

 穂美ムキになって詩央の武器を弾いた。

 そこから二連、三連と斬撃を次々に繰り出すが、詩央は丁寧に一撃一撃を捌いていく。

「流石に剣術の腕前はすごいね。それならッ!」

 穂美は右手の力を強めて、横から刀を振り込む。

 詩央はなんてことなくその攻撃を弾いたが、刀がぶつかり合った瞬間右腕に痛みを感じた。

「ッ!何が起きたの!?」

 腕を見ると手首の辺りに切り傷があった。

「そんな…。確かにはじいたのに。」

「相手が狐ってこと忘れてない?」

 穂美はニヤリと笑みを浮かべた。

「狐の能力は妖術。それは狐火だけじゃない。武器の刃の数を増やすことだってできるんだよ。」

 その言葉で詩央は自分が受けた攻撃を理解した。だが、一つ理解できないことがあった。

「そのことを私に言ってしまってよかったのですか?」

「ハッ!!!?」

 なるほど、天然バカ…いや、相当のバカということか、と納得できた。

「でも、防げなかったら意味ないからさ!!」

「いえ、タネさえわかればこれくらいは…。」

 穂美は短刀の刃を三枚に増やして切りかかるが、見事にすべてを防がれてしまう。

「そんなッ!」

「刃が増えても攻撃の軸は変わらない。そこにさえ注意していれば難しくはありません。」

 落ち着いた口調ですべての攻撃を捌いていくが、最後の一撃を防いだ瞬間、詩央の刀の刀身が甲高い金属音とともに二つに折れた。

「なっ!?これも妖術!?」

「違うでしょ。」

 なぜ自分の武器が折れたのか詩央は理解できなかったが、穂美は不思議そうにはしていなかった。

「仕込み刀って言うのは普通の刀に比べて脆い。そんな刀がうちの攻撃を受け続けて折れないわけがないよ。」

 そう言って穂美は刀に狐火をまとわせて詩央に近づく。

「勝負ありだよ!」

 刀を振り上げ、詩央にめがけて振り下ろす。が、

「油断大敵です。」

 詩央は懐から扇子を取り出し、穂美を狙って横から振りぬく。

 見るとその扇子は半分より上が刀身になっていた。

「うわッ!?」

 完全に油断していたため、左腕が切りつけられることを許してしまった。

「脆いことくらい知っています。そのために刀は何本も持っているので。」

 さっきまで驚いた様子をしていたのは演技だったらしい。

「あ、そう。じゃあもう手加減しなくていいよね!!」

 穂美は完全に切れたようだった。

 その時、山の奥からかすかに響く犬の遠吠えのような声が聞こえたが、戦っている最中の四人はもちろん、周りを囲んでいる両軍の味方はお互いの大将とその相棒同士の戦いにすっかり熱中してしまっていたため、に誰も気づかなかった。


狐と狸が争っている時に、山の麓では一つの群れが移動を開始ししていた。

「偽の情報にまんまとハマってるぞ。しばらくは山を登り続けるだろ。」

「今頃狐たちは怒ってるだろうな〜。くわばらくわばら。」

ケタケタと笑いながら猫の仮面をかぶった集団は山を降りていく。

「にしても、案外簡単に引っかかったなぁ。向こうの大将は疑り深いから気づかれると思ってたが。」

猫軍の大将、水越 敦也は薙刀を肩にかけながら呑気な声で言う。

「大将は厳しいけど副大将がバカだからね、なんとかなったよ。てか大将。薙刀危ないからちゃんと持ってくれ。」

敦也に答えるのは副大将の吉岡 (まもる)

一見しっかりしている風貌をしているが、大将である敦也ですら考えてる真意がわからない不思議な存在である。

譲に言われて悪りぃ悪りぃと軽く謝りながら敦也は薙刀を下向きに持ち変える。

「それにしても、どうやって狐に情報を流したんだ?」

「それは想像に任せるよ。それより、早くしないと狐の追っ手が来るぞ。」

敦也の質問を軽く流して譲は歩を早める。

ホントにわかんないやつだな。

そう思ったが別に深くは追求しなかった。

確かに譲は何を考えているかわからないが、仲間を裏切るようなことはしないとわかっていたからだ。

歩くペースを上げて譲に追いつくと、譲は急にその場で立ち止まった。

「ん?奥になんかあるぞ?なんだあれ?」

そう言われて奥の方を見る。

「ん〜?なんか光ってんのか?」

よく見るとそこには藍色に光るものが見える。

ここから1000mは離れているが、猫軍の特徴として目が異常にいいのだ。

「狐の罠か?」

「いや、狐の妖術の色は紫だ。ということは……。」

その瞬間、敦也の頬を何かが掠った。

掠った頬からは赤い線が引かれ、血がにじむ。

「ふぅ。銃口が見えてなかったら直撃してたぞ。」

そう言うと近くの茂みから狗の仮面をかぶった人物が出てくる。

「なんだ、バレてたのか。」

「久しぶりだな、みず穂さん。」

猟銃のような銃に少し小さい剣がついている、銃剣という武器を持った人物 庄山 みず穂がつまんなそうな表情を浮かべる。

「やっぱりあれは狗軍の結界か。俺らを逃がさないってか?」

「わかっているならやられてくれない?」

そう言ってみず穂が構えたと同時に譲も背負っていた火縄銃を構える。

「早撃なら負けないぜ。」

「火縄銃で早撃って無理でしょ。」

軽口で言い合っているが、二人とも構えたまま動かない。

「はぁ〜。二人は真剣勝負モードですね。どうします?奈々子さんよ。」

敦也がそう言うと、狗軍の奥の方から周りより少し立派な狗の仮面をかぶった人物が出てくる。

「いきなり名前で呼ぶのやめてよ。マナー違反だって。」

狗軍の大将。山幸 奈々子は少し呆れたような口調で言った。

「今更だろ。何年の付き合いだよ。」

もともと猫軍と狗軍は同盟を組んでいたが、戦争のあるべき形ではないという理由で猫から裏切り者が出て同盟は決裂。以来好敵手として何年も争っている。

「いつも通り大将戦で。部下は加勢させんなよ?」

「わかってるよ。」

そう言って2人もそれぞれの武器を構える。

「「いざ……」」

「「尋常に……」」

四人の緊迫した空気が流れる中、何も知らないカラスが一羽鳴き声を上げる。

「「「「勝負!!」」」」

その鳴き声に答えるように四人は一斉に動き出した。


 みず穂は合図と同時に銃を乱射しながら突っ込む。

 譲はすぐさま木の陰に身を隠した。

「乱暴だねぇ。」

「とっととやられてくれ。」

 譲は隠れながら銃に弾を込めて隙を伺う。

「隠れても無駄なんだから早く出てきなって。なんならこっちから行くよ。」

 そう言って譲が隠れている木に向かってありったけの銃弾を撃ち込んだ。

 譲は全力で走って弾を避ける。

 やがて、みず穂が放つ銃弾が止まった。

「すばしっこいなぁ。」

「考えなしなのが悪い。」

 譲は火縄銃を構えて点火する。

 導火線に火を付けてから数秒もしないうちに弾は発砲されるが、銃弾はみず穂の目の前でぴたりと止まった。

「また改造したのか。でも残念でした。」

「結界とかずるいよなホント。」

 狗軍の特徴は、全員が共通して結界をつかえることだ。ある時は攻撃を防ぐ盾にもなり、ある時は敵の侵入を防ぐ壁にもなる。

 戦いにおいて狐軍の妖術並に使い道が広い。

 が、決して万能ではない。

「使ってる間は動けないもんなそれ。」

「まぁ、あんま気にしないけど。」

 狗軍の結界は展開している間身動きが何一つ取れないのが弱点だ。

「これで打ち放題と!」

 譲は弾を込めて次々に撃つ。

 普通の火縄銃では連射などできないが、譲はちょくちょく自分の武器を改造しているため、連射と装填の速さは普通の銃並みに速い。

「結界に撃ち続けても無駄じゃね?」

「まぁ、見てろって。そろそろだから。」

 そう言って最後の一発を撃つと、みず穂の結界がきれいな音を立てて割れる。

「うそでしょ?」

「無限に耐えられる壁なんてないってこと。」

 譲はさらに弾を装填してみず穂に向ける。

「これで終了。」

 そう言って引き金を引いた。

 譲の発砲の瞬間と同時にみず穂も同じ位置に発砲した。

 二人の弾は見事に相殺され、みず穂は銃剣で譲に切り込む。

「おいおいマジかよ!」

 咄嗟に火縄銃の銃身で受け止める。

「撃った弾に命中させるとか…映画かよ。」

「うん、偶然。」

 みず穂は仮面の下でニヤッと笑っているのが自分でもわかった。

「相変わらず戦いが長引きそうだなっ!」

 譲は呆れた声で言いながら、みず穂を前蹴りで蹴り飛ばし、銃弾を何発か撃ちこんだ。

 だが、蹴られて吹っ飛ばされながらもみず穂は体を反転させ、地面を蹴って横に跳び銃弾を交わす。

「危ないなぁ。」

「顔色変えずに避けきる奴がよく言うよ。」

 二人ともまだ表情に余裕がある。ここまではまだウォーミングアップみたいなものらしい。

「じゃあ、そろそろ行こうか!」

 言うや否や、みず穂は銃剣を譲に向かって突き刺す。譲は刀身を素手で押さえるとみず穂の顔の前に銃身を向ける。咄嗟にみず穂は向けられた銃身を蹴り上げ、譲の銃弾は空に向かって発砲される。すぐさま譲の脇腹に回し蹴りを入れるが、片手で捕まれてしまい、思いっきり投げ飛ばされる。

 周りで見ている部下は思わずおぉと声を上げる。

 どちらが勝つか予想がつかないほどの激戦。副大将同士でもこの凄まじさだ。

「力強すぎでしょ。」

「お前の反応も早すぎ。」

 投げられて強打した頭をさすりながら譲を睨む。譲も怯むことなくみず穂を睨み返す。二人の間には絶対の殺意の空気が流れる。

 その場の全員が、この二人の戦いは止めない限り死ぬまで殺し合うのをやめないと理解した。


奈々子と敦也は、譲とみず穂が戦っている場所から少し離れたところに移動していた。

「初っ端からドンパチやられたら流れ弾が危ないっての。」

「悪気はないんだろうけどね。」

二人は呆れながら苦笑いを浮かべる。

「……俺らもやらなきゃダメか?どうせそっちもホントはやる気はねぇんだろ?」

「しょうがないよ。お互い同盟は反対してるんだし。」

敦也も奈々子も武器の構えを解いている。

最初っから大将同士は争う気は全くなく、平和に過ごしていたいという考えを持っていた。

しかし、両軍の兵はそれに反対。もともとお互いに因縁があったため、若頭である二人には抑えられないため仕方なく争っているという状況だ。

「しかも戦うときは決まって見張りがいるんだもんな……。手抜きできねぇよ。」

「負ける気は無いけどね。」

愚痴をこぼしつつも二人は武器を構え直す。

「面倒くせぇけど、いくか!」

そう言って敦也は薙刀を横に振り抜く。

奈々子は身軽にに薙刀の刀身に飛び乗り、小刀を鞘から抜いて斬りかかるが、敦也は武器を手放し、カウンターで右拳を奈々子の顔にいれた。

鈍い音が響くが、奈々子の顔はなんともない。

「いってぇ!!」

代わりに敦也が顔をしかめる。

「素手で結界に挑むのは流石にどうなの。」

「あのタイミングで結界出せるのはお前だけだわ!」

狗軍の結界は動いているときには出せないが、奈々子は狗軍の大将なだけあってどんな時でも瞬時に結界を張れる実力があった。

「こっちも手加減できないからさ。」

「上等だ。」

右手をひらひらと振りながら薙刀を拾い上げる。

「次はこっちからいくよ!」

奈々子は小刀を鞘にしまい直して敦也に突っ込む。

「居合か……なら。」

敦也は静かに呟くと薙刀を地面に突き刺し、それを軸にして飛んだ。

「流石に背後からじゃ反撃もできねぇだろ!」

奈々子をゆうに超える高さで背後に着地すると、一気に斬りかかる。

が、敦也の刃は奈々子には当たらない。

「結界は360°全部の範囲を防げるんだよ。」

余裕の表情を浮かべるが、敦也もニヤリと笑う。

「てめぇらの結界が絶対防御じゃねぇってことを教えてやるよ!」

敦也は両手に力を込めると、パリーンという音とともに奈々子の結界が壊される。

「っ!?マジか…ッ!」

確かに結界は一点に集中砲火をくらうといずれかは壊されるが、一撃で壊されることなんて滅多になかった。

「馬鹿力やばすぎでしょ。」

「腕っ節が取り柄でな。」

敦也は薙刀を肩にかけて高笑いをする。

「こっちも結界だけが取り柄じゃないけどね!」

奈々子はそう言うと、小刀を鞘から引き抜き、一瞬で敦也の横を通り過ぎる。

「うぉ!?」

奈々子が敦也を通り過ぎた後、腕や足に斬撃がいくつも飛びかかる。

薙刀を振り回して防ぐが、左腕に一つ斬傷をつけられる。

「妖術……ではないな。速さか?」

「正解だよ。」

奈々子は小刀についた血を拭き取って敦也に向き合う。

「手抜きできないのは部下に見られてるっていうのと、お前に殺されるからってことか。」

「お互い同じ理由なんだよねそれ。」

溜息を吐いた後、二人は真剣な目で睨み合う。

大将戦の本気の戦い。両軍の部下たちは興奮してそれぞれ雄叫びを上げる。

その歓声は山の頂上までに響き渡った。


山の頂上付近では狐と狸の大将戦が繰り広げられていた。

かれこれ何時間戦い続けているのか。周りは戦い始めた頃より少し明るくなってきてる。

四人はすでに肩で息をしていた。

「ハァ…ハァ…。流石大将だけあって簡単に首は取らせてもらえねぇな。」

「それはこっちも同じ台詞だよ。」

絢も飛駆も足は疲労で痙攣を起こし、武器を握る力もあまり残っていない。

しかし、二人の表情は疲労で困憊していることはなく、むしろ楽しそうに笑っていた。

それは詩央と穂美も一緒だった。

「そろそろ足も限界だし、そっちも仕込み刀切れたんじゃないの?」

「まだまだストックには余裕はありますよ。」

無理に余裕の表情を浮かべるが、詩央も穂美ももう限界に達している。次の一撃でもう指一本動かせなくなるだろう。

二人は終わらせるために武器を構える。が、その時。

「穂美。無理すんじゃねぇ。とっとと下がってな。」

「ッ!?まだいけるって!!」

「詩央。君も下がって。ここで相手を倒したとて、君に倒れられちゃ困る。」

「しっ、しかし!」

突然お互いの大将が二人の戦いを止める。

二人は納得がいかない。なぜ止められなければならないのか。これからクライマックスだと言うのに。

「今回の戦いは別にどうしても勝たなきゃいけないわけじゃねぇ。無駄に消耗する必要はねぇし、てめぇが倒れたら運ぶのが面倒だ。」

「で、でも……って、運ぶのめんどいって!!」

冗談を言っているが、絢の言っていることは合っている。今ここで無駄に戦って勝っても何かを得られるわけではない。ならここは無理に戦う必要はない。

「こっちも同じ理由だ。だから、詩央も下がってて。」

「くっ……。わかりました…。」

不満気な表情を浮かべてヨロヨロとふらつきながら狸軍に戻っていく。

「せっかく面白くなってきてたのに……。」

同じように穂美も狐軍に戻っていく。

「狸の大将さんよ。おめぇはまだまだいけんだろ?」

「もちろん。狐のお頭さんもここでギブアップ何て言わないよね?」

ニヤリと笑って睨み合う。

「今回はとことん相手してやるよ。死なねぇ程度にな。」

「こっちも殺さない程度に相手するよ。最後までね。」

殺さないと言っているが、二人の間には確かな殺意が漂っていた。

早速、絢が太刀を振りあげ攻めかかる。

「ぅおりゃあ!!」

「ッ!!」

飛駆も片方の兜割の枝鉤で受け止め、受け流す。

それと同時に絢の顔をめがけてもう片方の兜割で斬りかかる。

絢は片手を太刀から離して背中に背負っている鞘で攻撃を受け止めた。

「あぶねぇなぁ。」

「余裕だったくせに。」

武器を弾き合い距離をとる。

息は切れて足は思うように動かない。次の攻撃を繰り出すのもやっとの状態だ。

だが、ここまできたら大将だからこそ後に引けない。

最後の一撃を出そうとお互い突っ込む瞬間。

「待った!!」

二人の間に何者かの影が二人割り込む。

「誰だてめぇら!勝手に割り込みやがって!」

「真剣勝負に割り込むなんていい話ではないね。」

勝敗を邪魔されて二人は苛立っている。

間に入ってきた1人は猫の仮面、もう一人は犬の仮面を被っていた。

「悪いね、俺もあんまり野暮は好きじゃないんだが。」

「うちの大将さんの命令だからね。めんどくさいけど。」

お互いの大将に二人はそれぞれ銃口を向ける。

突然の展開に周りは理解が追いつかなかった。

:

:

:

:

:

少し時を遡って、山の麓では狗と猫の大将戦と副大将戦が繰り広げられていた。

奈々子と敦也は戦う気はなくとも手加減をすることはなく、みず枝と譲暉はお互い全力で殺しにかかる。

「そろそろ降参してくんねぇか?しんどくなってきた。」

「それができたら苦労しないって。」

文句を言いながらも気を抜くことはなく刃を交える。

その時、猫軍の一人が

「大将!山の頂上付近で狐と狸が交戦中です!」

と、声を上げた。

「ッ!?奈々子わりぃ、ちょっとタンマ!!」

「えっ!?」

勢いよく薙刀を奈々子の小刀目掛けて振り抜く。奈々子は咄嗟に小刀を持つ手に力を入れて受け止めようとするが、あまりの力強さに体ごと吹っ飛ばされてしまった。

「うわっ!」

「しばらく待ってろ。んで、狐と狸がやりあってんのはホントか!?」

敦也はそう言って山の頂上に目をやる。

「……いるな。しかも俺らと同じで大将と服大将戦だ……。」

敦也は山の頂上の様子がはっきり見えていた。

猫の能力は他の軍と違って術や結界は使えない代わりに、人間とは思えないほど異常な視力がある。使い方によっては戦闘でも使えるが、主に偵察や敵の様子を見る時にしか使わない。

「譲暉!戦闘中止!両軍を止めるぞ!!」

敦也は戦闘中の譲暉に向かって叫んだ。

「え?んなこと言われても簡単に中止できないって。」

譲暉もみず枝という相手にギリギリの戦いをしていた。

故に中止と言われてすぐに中止できるわけがなかった。

「余所見してると撃ち抜くよ?」

「剣の部分で斬りかかってるのにその台詞かい。」

みず枝は銃剣で斬りつけながら時折引き金を引いて発砲する。

譲暉も剣を避けつつ反撃の隙を狙うが、攻撃の手数が多すぎてなかなか返せない。

「大将命令なんだし引き下がらせろよ。」

「こっちはそんな命令ない。」

みず枝は譲暉に向かって銃剣を振り下ろしたその時。

キィンという金属音と共にその攻撃は止められた。

何者かがみず枝の攻撃を受け止めた。その人物は

「た、大将!?なんのつもり!?」

攻撃を止めたのは奈々子だった。

「みず枝。私達も戦闘中止。狐と狸を止めよう。」

みず枝は奈々子の言ってる意味がわからなかった。

「なんで?ほっとけばどちらかが潰れて後の戦いが楽になるかもしれないじゃん。」

「それが困るんだよ。」

口を開いたのは敦也だ。

「今頂上でやってるのは大将戦。どっちかが潰れればどっちかの勢力が広がる。そうなったら流石に猫でも狗でも勝てねぇ。」

普通の戦いならどちらかが負けても大将が生きていればやり直しはきく。しかし、大将戦の場合はどちらかが倒れればその軍は完全なくなると同時に、勝った方は勢力が伸びる。そうなると猫や狗といった小さな軍では勝機がない。

「奈々子…いや、狗の頭領さん。ここは一時同盟を組まないか?今争ってる狐と狸を止めるまで。」

そう言って敦也は奈々子に向かって手を伸ばす。

「悪い条件ではないしね。いいよ。私達もこの場は停戦しようか。」

そう言って奈々子は伸ばされた手を握る。

「いいかお前ら!狗とは一時的な同盟だ!これより狐と狸を止める!山を包囲しろ!」

「私達も同じく狐と狸を包囲する!変な気起こして猫に手を出さないように!」

お互いの大将の掛け声に両軍の部下は声を上げ、山の包囲に取り掛かった。

「譲暉は上まで行って忠告してきてくれ。やばいと思ったら逃げてもいいから。」

「オッケー。」

そう言って譲暉は山を登り始める。

「みず枝も一緒にお願い。」

「…わかったよ。」

みず枝は少し不満気な顔を浮かべながら譲暉の後を追った。

しばらくするとその場は敦也と奈々子の二人だけとなった。

「この同盟がずっと続けばいいんだが」

不意に敦也が口を開く。

「そうしたいけど、戦いが終わるまで無理だね。せめてそれまで皆死なないようにしないと。」

奈々子は少し寂しげな口調で返す。

その後は二人とも何も語らず、ゆっくりとお互いの軍の様子を見守っていた。


時を戻し、山の頂上では猫の仮面を被った男と狗の仮面を被った女が絢と飛駆のそれぞれに手に持っている銃の銃口を向けている。

狐と狸の両軍はもちろん、その場の四人も動けない状態だ。

「てめぇら、何もんだ?なんで敵同士が協力してんだよ。」

最初に口を開いたのは絢だった。

すると猫の仮面の男が答える。

「猫軍の副大将、吉岡 譲暉。別に悪意があって止めたわけじゃないんだが。」

呑気な口調で喋るが、手に持っている火縄銃の構えは降ろさない。

「今この山は猫と狗が包囲している。今回は一時的な同盟でお二人さんを止めに来たってわけだ。」

「そこのバカの言うとおりだ。大将の命令がなかったら今ここでこいつも撃ち抜きたい。」

「その言い方は酷くね?みず枝の旦那。」

みず枝と呼ばれた狗の仮面を被った女も不満気な口調で言った。

絢はバカバカしいと鼻で笑った

「なんだそりゃ。敵の言ったことをはい、そうですかって言って帰るわけがーー」

「絢、ここは一旦退こうよ。もう日が昇り始めてるし、この状態で二軍から攻められたら流石に厳しいよ。」

絢が言い切る前に穂美が横から口を挟む。

「飛駆、私達も。」

詩央も飛駆に言う。

「わかってるよ。」

そう言って飛駆は兜割を鞘にしまう。

「今回は狸は退かせてもらうよ。狐は全滅したいならここに残りなよ。」

飛駆は少し嫌味っぽく言うと、撤収!っと一声かけ、狸軍は煙のように消えていった。

「あ、待て!……チッ、逃げやがって。」

絢は悔しそうな表情を浮かべる。

「どうする?三つ巴ならいざ知れず、両軍と相手するかい?」

譲暉はまだ火縄銃をおろさない。

みず枝はすでに銃剣をおろして呆れたような表情をしている。

「……わかった。撤退する。」

しぶしぶそう言うと太刀を鞘にしまって全軍を連れて撤退を始める。

「……狸の大将、飛駆か...覚えておくぜ。」

下山している時に不意に絢が呟く。その表情は楽しみだと言わんばかりに笑っていた。

しばらく経ってから猫軍と狗軍もお互いに撤退を始めたらしい。

四軍が偶然にも鉢合わせたこの戦いを『四竦みの戦い』と呼ばれたのは何ヶ月か後の話だった。


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