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龍神の詩6 - 紅花青嵐  作者: 白楠 月玻
一章 若柳
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一章五節 - 許

「なるほど」


 すべて聞き終わって、絡柳(らくりゅう)は一度うなずいた。


「しかし、それは別に与羽が行くことではないんじゃないか? 他にも山歩きに慣れ、森の民と親しい人間は多くいるだろう」


 そして、鋭く指摘してくる。


「確かにそうです」


 与羽は認めた。


「ただ、比呼が自分自身で捜しに行きたいと言っています。ですが、比呼一人では危険ですし、他の人とともに行くにしても、その『他の人』が快く比呼の同行を受け入れるかどうか……」


 かつて暗殺者として中州に送り込まれてきた比呼だが、今は少しずつ信頼を得はじめている。しかし、まだまだ彼に不審を抱き、心を許さない者は多い。


「まぁ、嫌がる者はいるだろうな。嫌がらない者も確かにいるだろうが、それを探す時間が惜しいか……」


「はい」


 与羽はうなずく。


「それに、私は結構暇ですしね。こちらには絡柳先輩がいらっしゃいますし、私がいなくても――」


「自分を卑下(ひげ)するな」


 与羽の言葉を遮って言った絡柳の声は、予想外に厳しい。


「すみません」


 与羽は素直に頭を下げた。


「まぁ、いいだろう。ここはお前の人望と行動力を使った方が早くかたがつくことかもな。それに、ちょうどいい」


「『ちょうどいい』とは?」


「今回の(いくさ)では森の(たみ)もかなりがんばってくれた。立ち寄った村だけで構わない。乱舞(らんぶ)の代わりに礼を言ってはくれないか? 城主代理――姫の言葉だ。中州としての謝意は伝わるだろう。戦が終わるや否や、礼ももらわずあっという間に自分の村に帰ってしまって、どうするべきか検討していたところだ」


「わかりました」


 与羽は即座に頷いた。


「あともう一つ。お前の剣の腕は知っているが、お前は姫だからな。何かあったら困る。比呼の他にあと二、三人護衛を連れて行け。万一の時には人手がいるかもしれないしな」


 絡柳の言う「万一の時」とは、どの程度の状況を表しているのだろうか。

 与羽は微動だにせず、次の句を継ごうとする絡柳を見た。


「護衛は、ある程度限定するが、お前の好きに選べば良い。雷乱(らいらん)はお前の護衛官だから連れて行けばいい。あとは――」


「雷乱は、おいて行きます」


 与羽は何かを考え込むように、自分の足もとに視線を落として言った。

 絡柳がいぶかしげに与羽を見る。


「体格もいいし、力がある。雷乱は城下の復興に――」


「それは中州としてはかなり助かるが……」


「辰海を連れて行ってもいいですか?」


 それならどうするんだと問うような目で見る絡柳に、与羽は顔をあげてきっぱりと告げた。

 絡柳が品定めをするように目を細める。逆に名前を出された辰海は、驚いたように目を見開いた。


「辰海と比呼がいれば十分ですから。あとの護衛は森の(たみ)でも何でも――」


「…………」


 無言で与羽の答えを吟味する絡柳。


「まぁ……」


 しばらくして、絡柳は筆を手に取った。


「いいだろう」


 そう言いながら、ためらいなく白紙に筆をはしらせる。

 その内容は与羽と比呼、そして辰海の外出とその理由を伝えるもの。あとで城主である乱舞やその他の官吏への報告に使うのだろう。

 絡柳の字は勢いがあって力強い。

 与羽も反対側からそれを見て、内容に誤りがないことを確認した。


「出発は明日か?」


「はい。早い方がよさそうなので」


 本当なら今すぐにでも出ていきたいが、本格的な山歩きをするのならば、準備がいる。


「それなら、今日は休め。辰海もな。官吏たちの報告は俺が全部聞いておこう」


「しかし――」


 不安げにそう言ったのは辰海だ。


大斗(だいと)に手伝わせるから大丈夫だ。文官には全く興味を示さないが、ああ見えて結構有能だからな。体が治りきっていないから、自宅療養させているが、どうせ療養なんてしてないんだろう?」


「さすが……」


 確かに今日見た大斗は、座ってはいたが、八百屋の店番をしていた。あれは、一応店番と言っていいはずだ。


「政務は安心しろ」


 絡柳はまじめな中州の大臣としての顔で深くうなずいてみせた。


「お前たちこそ、中州の大事な薬師(くすし)を頼む」


「はい!」


 与羽と辰海と比呼。三人の返事が重なった。

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